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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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遅刻ですわ~!!

「あれ? フィアラ様、カトレア様は?」

「お昼には来ると思いますわ~。少し眠らせてあげたくって」


 無事に倉庫へ到着したわたくしはオルフェットのそんな会話をして荷物運びを頑張るのでした。

 ロズバルトは倉庫におりませんでしたが反乱軍の陣形の確認などをすると今朝言っていたのを思い出し、忙しいでしょうからカトレアの事はまた後で報告します。


「さ、反乱を成功させるためにもお仕事しますわよ~!」

「うん!」


 元気よくオルフェットの返事が返ってきます。

 地味ながらも各所へ荷物を運ぶのはとても重要な仕事。わたくしの目的を果たすためにも反乱軍の皆様には万全の態勢で事にあたっていただきませんとね。


「……あら、おかしいですわね~? いつもでしたらもう馬車が来ていらっしゃるはずですのに」


 張り切って持ち上げた木箱を運び、物資を届けに向かってくださる輸送役の方がまだ到着していないのに気付きました。

 遅刻でもしているのでしょうか。ロズバルトが言うには決行まであと数日ですのに、困った事ですわ。

 ……とはいえカトレアもお昼まではわたくしが勝手に休ませることにしたので、強くは責められません。


「まあ、人であれば時々お寝坊くらいしますわよね~。わたくしだって子供の頃には陛下に会いに行く前日は緊張でなかなか寝付けなかったりしましたし~」

「どうしましょうか、フィアラ様」

「う~ん、まだお休みでいらっしゃるなら起こしに行くのも手でしょうけれど~、お家がどこかは知りませんのよね~」

「それなら僕が行ってきます! 馬車の人の家なら最近よくご飯食べさせてくれるから道をも分かるので」

「また食べ物を貰ってましたのね~……」


 元荷物運びの方々だけでなく、馬車に乗る方からもオルフェットは御馳走になっていたようです。……彼にはそういう才能でもあるのでしょうか。

 ともかく場所が分かるというなら確認していただくのがいいでしょうし、彼には行っていただくことにしました。

 わたくしはこのまま倉庫へ残り、素早く積み込みが終わらせられるように先んじて木箱を運んでおきます。





「だ~~~~れも来ませんわ~~……」


 オルフェットが倉庫を出てからだいぶ時間が経ちました。けれど、オルフェットも馬車もこの場所へとやってくる気配がまるでありません。

 わたくしだけでは動かせないものは除いてあらかたの荷物は運び終えているというのに、肝心の運搬役が待てど暮らせど現れないのです。

 このままではカトレアが起きる方が先かもしれません。


「オルフェットはいったいどうしましたの~?」


 彼の受け答えはさほど時間をかけずに戻って来られるような素振りでしたが、なにか問題でも起きたのでしょうか。心配です。


「……あっ、もしかして朝ごはんでも御馳走になっているのではありませんこと~!?」


 そういえばオルフェットもよくお食事を頂いていると仰っていましたし、もしかすると彼は御者の方と遅めの朝食とでもしゃれ込んでいるのではないでしょうか。

 以前もオルフェットは倉庫でこっそり美味しいものを食べさせられようとしていた時がありましたし、誘惑に耐えきれずご相伴に預かっているのかもしれません。

 だとすればこれもまた責められはしませんね。オルフェットもまだ育ちざかりな年頃ですし、時間もちょうど小腹がすき始める頃合い。

 ロズバルトにバレてはきっと大目玉でしょうけれど、大目に見てあげるとしましょう。


「……。お腹が空いてきましたわ~」


 今頃オルフェットは何を食べているのかしら、なんて想像を膨らませていると、わたくしのお腹もちょっぴり減ってきてしまいました。

 きゅうっと胃の辺りが縮まるような感覚と共に食べ物を求める声がします。

 とはいえわたくしも食べに行くなどという選択肢は取れませんし、我慢です。もう18歳にもなるのですし、なにより入れ違いにオルフェットたちが戻ってきてはいけませんから。


「うう~! オルフェット、早く戻ってきてくださいまし~~!」


 何もしていないと余計に空腹感を意識してしまいそうなので、近くの木箱を置いたり戻したりして気を紛らわします。

 ですが、そんな時偶然持ち上げた木箱がやけにずっしりとしていて、ほのかに香りのようなものが漂ってくるのに気付いてしまいました。


「あら……? まぁ~! これは~……!」


 開けてみると、そこにはたくさんのチーズが。料理に使われる食材か、それとも直接反乱軍の方々がお酒などと共にでも楽しむのでしょうか。

 発酵した独特の香りに思わず唾を飲み込みます。お腹が空き始めた時間にこの光景を見てしまっては、少しだけ悪い事を考えてしまいます。


「い、いけませんわ~! そんな事をしては~……! はしたないですわよ~!」


 わたくしの中の悪い子が囁いてきます。「ひとつくらいならバレませんわ~!!」と。

 確かに一かけら程度なら誰にも気付かれはしないでしょう。ですが、それはとても悪い事でもあります。オルフェットが貰っているものとは違い、これは反乱軍のために用意された物資なのですから。

 もしもこれに手を付けようものなら、わたくしはそのまま悪の道に……。

 あれ? でも皇帝陛下の座を狙ったりそのために反乱軍にお邪魔していたりする時点で、ずいぶんと悪に染まっているのでは……?


「ま、まあでしたら1個くらいは~……? こんなにオルフェットが待たせるのですもの、わたくしもすっかり悪い子になって」

「フィアラ様! 大変です!!」

「ひゃぁぁ~~~~!!?」


 チーズに手を伸ばした瞬間、大きな音と共にドアが開かれてオルフェットが飛び込んできました。

 絶叫とともにわたくしは蓋を閉じます。


「ち、違いますの……これは出来心でして~!」

「何の話ですか? いえ、そんなことはいいです! 来てください!」


 長い事時間を空けて戻ってきた彼は有無を言わさずわたくしを引っ張っていきます。

 お寝坊さんしてしまったせいでお仕事も遅れるでしょうから、急ぐのも分かりますけれど……なんて思っていましたが、彼が連れて行く先には馬車の姿はありませんでした。


「あら~? オルフェット、馬車がありませんわよ~? 他の誰も来ていらっしゃいませんし~」

「荷物運びは、多分中止です。もうそれどころじゃなさそうですから」

「それどころではないって……何がありましたの~?」


 わたくしの手を引くオルフェットは、そのまま倉庫の外へ出て行きました。

 そして、町の光景を見てわたくしは言葉を失います。


「皇帝が、攻め込んできたみたいです」


 遠方では黒煙が上がり、燃え上がる炎と共に戦いの気配が空へ舞い上がっています。

 その景色とオルフェットの言葉で、ようやくわたくしはどうしてアッシュがこの町に来ていたのかを察するのでした。

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