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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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嬉しき再会ですわ~!!

「姉さん、こんなところにいたんだ」


 小さく、「僕の方が先に見付けるとは……」と付け加え、アッシュは表情を戻します。

 衝撃から早くも立ち直り、彼はそのままわたくしをじっと見つめてきました。


「……思ったよりも元気そうで良かった。ずっと心配だったけど、ご飯はちゃんと食べられてる?」

「え? ええ、食事に困ってはおりませんわ~!」

「そっか、安心した」


 反乱軍の仲間として、わたくしやカトレアとオルフェットの2人も食べ物は分けて頂けていますから、空腹に悩む事はございません。……まあそんな細かい部分まではアッシュには話せませんけれど。


「あ、指輪……やっぱりまだつけてくれてたんだ」


 わたくしがひもじい思いをしていないかを確認したアッシュはそのまま視線を落とし、彼から頂いた指輪へと気付いたようです。

 銀のリングを撫でながら、わたくしは手を顔の前へ持っていきます。


「……あなたが送ってくれたこの指輪のおかげで、わたくし何度も窮地を救われましたわ~」

「ちゃんと使い魔が召喚できたんだね。魔力が足りないからどうなるか分からなかったけど……助けてもらえてるんだよね?」

「ええ、と~っても心強いですわ~!」


 その代償としてわたくしは皇帝の座に就かなくてはならないのですが、不安にさせてしまうだけですし、言う必要はないでしょう。


「あ~! ところでアッシュ、陛下とは上手くやれておりますの~? その……いじめられてたりとか、いたしません?」


 やらねばいけない事を思い出した時、ふとそれが気になりました。

 なにせ陛下と……あの時はリグレットと名乗っておいででしたが、彼とお会いした時に勘違いさせるような事を言ってしまいましたから。

 もしかするとそれが原因でアッシュは陛下から軽蔑されていたりはしないかと心配です。


「え、いや……全然。そういうのは、ない、よ?」

「……どうしてお顔を逸らしますの~?」


 見るからに動揺した様子でわたくしから視線を外しました。

 この反応、やはり陛下から嫌われてしまっているのでしょうか。


「ほんとに、姉さんが心配するようなことはされてないよ。むしろ可愛がられてるかな。好きなものが、一緒だから」

「また目を見て言ってくれないのが気になりますけれど……それならよかったですわ~!」


 アッシュの言葉にわたくしの顔も晴れました。ちゃんと陛下から愛されているようでなによりです。

 趣味も合うようですし、ぜひこれからも陛下とはよい関係を築いていただきたいですね。

 ……でもそうなるとわたくし、皇帝陛下の座を奪いにくくなってしまうのでは?


「姉さんが元気なのは分かったけど、それよりどうしてこんな所にいるのさ。この辺は今危ない連中が潜んでるかもしれないんだよ?」


 それを聞いて、わたくしはドキリとします。

 アッシュが言わんとしているのが何なのか、もう分かってしまうからです。


「え、えっと~……。危ない連中、と仰いますと~」

「――反乱とか。この辺の人間が結託して、陛下に害をなそうとしてるんだ」


 声を潜め、わたくしの弟がつま先立ちになって耳元へ囁いてきます。

 そのものズバリ、正解です。この結論に至ったのがアッシュなのかは分かりませんが、その賢さが誇らしくもあり、とても恨めしくもあります。


「僕もこの辺りの調査に来たんだけど、ほぼ間違いないと思う。怪しい雰囲気のやつが多いし、姉さんも気をつけて。もし姉さんが元アルヴァミラの人間だってバレたら捕まって何されるか分からないよ」

「そ、そうですわね~……」


 アッシュ、わたくし今その反乱軍で捕虜になっていますのよ。自由に出歩けるので外見では知り得ないかもですけれど。

 知られてしまったらアッシュが単身反乱軍と戦う事を選択するかもしれませんから、これも口が裂けても言えません。

 ですがこれほどまでにこの町の状況を把握なさっている事に動揺し、わたくしの声は震えてしまいました。


「あ……ごめん、怖がらせるような事言っちゃって。大丈夫だよ、会えたのは偶然だけど僕が姉さんを守るから」


 その震えをわたくしが恐怖しての事だと思ったのか、彼は自信ありげな顔をしています。

 少し見ない間に、こんなに頼りがいのある表情ができるようになったんですね。


「……嬉しいですわ~。けど、わたくしこれからお仕事が」

「え、仕事?」

「ええ。アッシュの気持ちはとっても嬉しいんですけれど、お仕事と関係のない方を連れ込んでしまうのは、ちょっと~」


 気持ちは嬉しいですが、断るしかありません。

 そのお仕事が反乱軍の物資を運ぶ事ですから一緒に来てもらうなんてできませんしね。

 わたくしが断ると、アッシュは驚いたような顔をして、しばらく後に寂しそうな顔になりました。


「……そっか、そうだよね。姉さんだっていつまでも子供じゃないんだし、ちゃんと就職先も見つけて、1人で生きていけるように、なるんだよね」

「あぁ~……そんなに悲しいお顔しないでアッシュ~!」


 涙は流しませんでしたが、彼の顔は今にも泣きだしてしまいそうでした。

 可愛い弟にこんな顔をさせてしまった罪悪感で今からでも前言撤回したくなりますが、それより先にアッシュがわたくしの前から走り去ってしまいました。


「っ……ごめん姉さん! 僕も仕事だから、今日はここまで! また会おうね!」


 わたくしの言葉も聞かず、アッシュの姿はすぐに見えなくなりました。

 背を向けた時、ちらりと頬から透明なものが流れるのに気付きましたから、泣くのを見られたくなかったのかもしれません。


「うう~……、折角会えましたのに、泣き別れだなんて寂しいですわ~……!」


 追いかけようか迷いましたが、わたくしは倉庫へ向かう事にしました。

 弟にはとうてい追い付けそうもありませんでしたし、泣いてる所を見せたくないというならそのままにしておいてあげましょう。

 別にこれきり会えなくなってしまうわけでもありません。あの子も仕事があるというなら、それを邪魔するわけにもいきませんし。

 ……あれ? でもアッシュのお仕事って皇帝陛下の護衛だったような。

 彼の影も形も見えなくなってからそれを思い出したわたくしは、どうして弟がここへ来ているのかについて首を傾げるのでした。

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