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炎の魔女様ですわ~!!

 夜の皇都に現れた「炎の魔女」と名乗る少女。

 アッシュと同じくらいの年恰好の彼女は、信じられないほどのパワーと火の魔術を使ってわたくしを悪漢から救い出してくれたのでした。


「炎の魔女……ですの?」

「あはは、ちょっとかっこつけすぎちゃいました。召喚されちゃったみたいですので」

「召喚? ということは、もしかしまして……?」


 わたくしがアッシュから貰った指輪を見ると、微かな発光で指輪に仕込まれていた召喚魔法が発動したのを告げておりました。

 どうやらわたくしの魔力でも動いてはくれたようですね。ありがとうアッシュ、家を出て早々にあなたの思いやりに救われました。


「ということで、改めまして。先程は炎の魔女だなんて言いましたが、カトレアとお呼びくださいな」

「あら~カトレアと仰るんですのね。わたくしはフィアラ・リズモール・アルヴァ……いえ、今はもうただのフィアラでしたわね」


 家を追われたわたくしは、もはや家名を無くしたも同然でしょう。フルネームで名乗りかけて、現実を受け入れるように訂正したのでした。


「? フィアラさん、何か複雑な事情でも?」

「そうですわね、簡単に言ってしまえばわたくしの生まれ持っての……あいたたた」


 カトレアの元へ近付こうとしたわたくしですが、刺された腕が痛んで仕方がありません。

 血もなかなか止まってくれず、これは流石によろしくないのかもしれませんね。


「まあ大変。止血した方が良さそうですね。……痛いですけど、我慢してください」


 彼女の方から駆け寄って、わたくしの腕の傷を見るとカトレアは大きな鉄塊みたいなものを纏った手を傷口に添えてきました。

 そして先程人さらいの方をやっつけた時のように青い宝玉が輝いて、腕の熱がより一層強まります。


「熱ッッついですわ~~~~!!!!」

「ごめんなさい、強引かもですけどこうしないと危ないですから」


 黒鉄で覆われたカトレアの指が傷をなぞるのに合わせて、まるで焼けるような……といいますか焼かれてますねこれ。

 ジジジ、と自分の体から発してほしくない音が響き、まあなんとか血は止める事ができました。わたくしはもう涙目ですけれど。


「し、死ぬかと思いましたわ~……。いえあのまま血が流れっぱなしだったら死んでたんでしょうけども」

「本当にごめんなさい、私戦うのは得意なんですけど、炎しか使えないから治療は苦手で」

「いえ! これでもう2回も助けていただきましたわ! ほ~ら、もうこうして腕の傷も綺麗に、あっ痛い」

「あぁ、まだあんまり動かしたらダメですよ」


 刺された腕を振り回したら、ガンガンに痛みました。その痛みを和らげようとしてくださっているのか、カトレアの手が優しく腕を包んでくれます。


「血は止めたけど傷を完全に治せたわけではないので。……歩くと響きそうですし、私が抱いていきますね」

「わ、カトレアは力持ちですのね~!」


 有無を言わさず、彼女はわたくしを軽々と抱き上げてしまいました。

 アッシュと同じくらいの背丈の子供かと思っていたのに、この体にとてつもないパワーを秘めているのを感じさせます。


「先程の炎の魔術に、このすっごい力……。もしやカトレアは、リズモール様なのではありませんこと?」

「リズモール? それって誰ですか」

「あら、知りませんの!?」


 首を傾げるカトレアは、まるで心当たりがないような顔でした。

 まあ指輪で召喚した方ですので、この国の方ではないか、もしかしたらもっと別の世界の存在だったりするのかもしれません。


「でしたらお教えしますわ! わたくしの……ではなく、アルヴァミラ家のご先祖様である、リズモール様の事を!」

「腕は動かさないでくださいね」


 胸に手を当て、リズモール様の事を知らぬカトレアに聞かせて差し上げます。


「リズモール様はこのベラスティア帝国の初代皇帝陛下と共に帝国の礎を築いた立派なお方ですわ~! 火の魔術に長け、それだけでなく炎の聖剣を振るって他国からの侵略をたった1人で押し返したりしたこともある凄いお方なのですわ~!!」

「そうなんですね」

「ま~ったく興味なさそうですわね」


 続けてアルヴァミラ家の者は皆リズモール様の名と偉大さを忘れないようにとミドルネームをリズモールにする、というような話をしようと思ったのですが、あまりカトレアの興味を引かない話題だったようなので切り上げる事にします。


「もうその反応で聞くまでもないみたいですけれど、あなたはわたくしを助けに来てくださったリズモール様の写し身、とかではないんですのね」

「私は剣を振った事なんてないですからそうなりますね。ベラスティアでしたっけ、そんな国の名前も初めて聞きました」


 やっぱり余所の方だったようです。世界一の大国であるベラスティアを知らない辺り、異界から召喚されたのやもしれません。


「でしたらわたくしも緊張しなくて助かりますわ~。召喚してしまったのがリズモール様だったらどうしようかと……。そもそもそんなお方を呼び出せるほどの魔力はわたくしにはなかったでしょうけれど」

「あ、そうでした、思い出しました」


 ホッと一息ついたわたくしに、カトレアはふとそう言って立ち止まりました。なんでしょうか。

 ……ああ、そう言えばわたくし、どこに行くかも彼女に伝えてませんでした。

 カトレアも歩いてはおりましたけどこの国の事は知らないようですし、目的地なんてなかったのでしょう。

 やれやれ仕方ありませんわね、ここはわたくしが行くべき場所を……。


「まだ私を召喚した代償、頂いていませんでした」

「……はい?」


 彼女が言い放ったのは、わたくしの考えもしていない事でした。

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