体力が限界ですわ~!!
反乱軍の方々のお役に立つべく、わたくしはカトレアやオルフェットと共に荷物運びを頑張りました。
反乱軍のメンバーはこの町中におりますから、その彼らへ向けて必要な物資の詰め込まれた木箱を運搬用の馬車などへと乗せていきました。
オルフェットを可愛がり過ぎて別の部署に飛ばされてしまった方々の代わりを務めるため、わたくし達3人はたくさん働きました。
そうして馬車を操る方にわたくしの顔も少しずつ覚えてもらえました頃、なんと。
「立てませんわ~……」
数日間休む間もなく体を酷使したせいか、わたくしは熱が出て起き上がる事すらできなくなっていました。
手も足もジンジンと痺れて、全身が悲鳴を上げているのをベッドの中で感じています。
「……こりゃ完全に疲労だな。姫さん、今日は無理しねえで休んでな」
「フィアラ様、顔真っ赤になって苦しそう……」
「指いっぽん動かせませんわ~……」
「すごく辛そうです。でも今日はお休みしていいとの事なのでフィアラさんの腕、私が揉み解してあげますね」
不調を聞きつけ、ロズバルトから与えられた部屋には彼とカトレア、オルフェットが集まってきました。
横たわるわたくしの手をカトレアが握りますが、今は彼女の手の温かさすら分からないほどに感覚が鈍ってしまっているみたいでした。
「いやお前らは荷物運びに行ってもらうけどな。3人揃ってここに残られたら人手がなくなっちまう」
「えー! それじゃあ誰がフィアラさんの看病するんですかー! まさかこんな苦しそうなフィアラさんを誰もいない場所で独りにしておけって言うんですか!?」
わたくしが1人だけになってしまうのを心配しているのかカトレアはロズバルトへ食ってかかります。
彼ははいはい、と仕方なさそうにわたくしのベッドの横に椅子を持ってきて、そこへ腰かけました。
「俺が面倒見とくよ。反乱軍の役に立ちてえって言うから姫さんにはいくらか働いちゃもらったが、元はこの形のが正しいからな」
言いながらロズバルトはわたくしへ視線を向けます。
そう、本来わたくしはこの反乱軍の捕虜扱いですから、なんの拘束もなく動き回れていた方が不思議なのです。
結果的にではありますが、またロズバルトがわたくしの傍で監視を行うという状態に戻ったわけですわね。
「えーーーー……」
「……不満そうだな。まあそう来るとは思ってた」
そして、その状態をとても危険視していたカトレアもあの時のように否定的な顔をしていました。
多少はロズバルトの事を信用しているのか、言葉にまではしなくなっていましたけれど。
「お前が姫さんに肩入れしてんのは何日か見てて分かったが、そんな顔しなくてもいいだろ」
「怖い顔してる割に中身はそうでもないのは伝わってきますけど、やっぱりフィアラさんに変な口説き方してたのが……」
「ぐっ……まだ覚えてたのかよ。忘れてくれって言っただろ」
初めてわたくしとロズバルトが出会った日の夜に彼が聞いてきた事。どうやらそれが未だにカトレアが彼を不信がる理由のようでした。
彼はわたくしの顔に見覚えがあったようですが、それは人違いかなにかだったのかすぐに聞かなかった事にしてきましたね。
カトレアの言葉にロズバルトはとびきり苦い顔をしていますし、彼自身もあれは失言だったと思っているのでしょう。
「とにかくカトレアだけでも荷運びには行ってくれ! 不安だってんならオルフェットを置いてきゃいいだろ?」
ロズバルトはカトレアへそう言いました。
以前人さらいの方を殴り飛ばした時から分かっていましたが、黒鉄の触媒を腕に纏った彼女はとても力が強くなるのです。
荷物を運ぶのもわたくしとオルフェットが力を合わせても持ち上げられないほど重い木箱を軽々といくつも重ねて持ち上げたりできるほどですから、確かに彼女だけでもお仕事はできるかもしれません。まったく疲れた様子も見せませんし。
「それはそれで私だけ仲間外れみたいでやだなぁ……。仕方ありません、オルフェット、手早くお仕事を終わらせて戻ってきましょう」
「は、はい」
最終的にロズバルトを信用したのか、カトレアはオルフェットを伴って部屋から出て行きました。
……と思いきや、彼女は戻ってきてドアの隙間から顔を覗かせます。
「――えっちな事しちゃダメですからね」
「わざわざそれ言いに戻って来たのかよ!? しねえよこう見えたって俺には愛する妻がいたんだからな!!」
「おお、それを聞いたら安心しました。丁寧にお仕事できそうです」
何を念押しに来たのか、カトレアはロズバルトの返答に満足した顔で今度こそ去っていきました。
「……ったく、あのカトレアとかいうやつは俺の事なんだと思ってんだか」
「ふふっ」
椅子に座る彼は上半身を深く前に倒してため息を吐きました。
そんな彼を横目に見つつ、わたくしは少しだけ笑うと静かに瞳を閉じて体を休めるのでした。




