わたくしもお役に立つのですわ~!!
「うお、すっげぇ……」
「これロズバルトさんだよな? 超そっくりだぜ」
「そうでしょう~? わたくしこういうのは得意でしてよ~!」
反乱軍の拠点に帰還したわたくしは現在、食堂にて反乱軍メンバーの方々からの視線を一身に浴びておりました。
魔術師の方の装備を駄目にしてしまった件もありますので、せめてわたくしも何か貢献をさせていただきたいと考えて食堂へお邪魔し、自信作を作り上げたのです。
彼らからは好評なようで、わたくしの作品へと皆様感心の声を上げてくださっています。
「すごいな、パイナップルが一瞬で俺の彫刻になっちまった」
たった1つの果実がロズバルトを精巧に模した像になり、その腕前に彼自身も唸っております。今もわたくしは捕虜の身ですので、一応の監視も兼ねて同行してくださっているのでした。
そしてそう、わたくし料理の腕前は大した事ありませんが、こういった包丁さばきは多少覚えがあるのです。
「……で、姫さん。これが俺らの活動の役になんか繋がるのか?」
「ええっと~……、わたくしが皇帝になりました暁には、ロズバルトの彫刻を作らせていただいたり~」
「まだ反乱が始まる前だってのに勝った時の話をされてもなあ。んな像作られたってこっぱずかしいだけだし……つーかその削った果肉はどうすんだよ」
「これは、その~……。ジャムとかにしますわ~! ……カトレアが」
わたくしではどう料理すればいいか思いつかず、カトレアへと視線を送りました。するとすぐに彼女は頷きます。
「任せてください、パンにもお茶にも合うのを作っちゃいます! あ、削ったのだけじゃ足りないのでそっちも使いますね」
「ああっロズバルトさーーーーん!!!」
「おい俺の見てない所でやれよ!? なんかすげえ不吉なんだが!!」
カトレアは手に触媒を纏わせて切り落とされたパイナップルをお鍋の中にかき集めると、そのままロズバルトの彫像も握りつぶして放り込みました。
バラバラにした方が煮込むには良いのでしょうけど、これから帝国に攻撃を仕掛けようとする反乱軍のリーダーを模した物がそうなってしまう光景は確かに少し縁起が悪いかもしれませんね。
……赤い果汁の果実を使わなかったのでそこまでショッキングではないのが救いでしょうか。
「はぁ、何かしたいって気概は買うが、ファルメリアとは違うな、やっぱ」
結局食べられるものを作れずに終わり、ロズバルトはわたくしを見て小さく笑いながら呟いたのでした。
「またその方の名前をお聞きしましたわね。一体どなたなんですの~?」
「あ……いや、すまん。それよりメシが作れねえならここに居ても邪魔しちまうだけだ。他の所へ行こうか」
聞かせるつもりはなかったのか、彼は謝るとわたくしを連れて食堂を出て行くのでした。
次に訪れたのは洗濯場です。ここでは当然ながら、反乱軍の方々が着用した衣服などのお洗濯をさせていただく事になるわけですが。
「で、姫さん。服を洗ったりした事は」
「ま、まずはやってみますわ~!」
「頑張れフィアラさん! 分からなかったらお手伝いしますからね!」
残念ながらお洗濯の経験もほとんどございません。ですが挑戦しないことには始まりませんので周囲の服を洗っている方々を観察しながら見様見真似でやらせていただきます。
……今更ながらにカトレアについてですが、また独りにして暴れられても困るから、とロズバルトが判断してわたくしの傍に置いておくことになったのでした。
そんな彼女の声援を背に受けながら、大きなたらいの中を泳ぐ服を掴んで洗濯板の上に持ってきました。
「ええっと、これを~」
周りの方々も同じものを使っているのですけれど、素早く手際よく進めていくものだから見ただけではよく分かりません。
仕方がないのでいきなりですが、カトレアへ視線を向けると表情は芳しくありませんでした。
「んー、この形式はあんまり詳しくないんですけど……とりあえず擦るのかな。フィアラさん、力いっぱいゴシゴシしてみましょう!」
「わかりましたわ~!」
少し不安もありますが、カトレアを信じて板に洗濯物を押し付けて思い切り擦ります!
1つの汚れも残さないようにと全霊を込めて洗われ始めた衣服は……1度の往復でビリっと音を立てました。
「やぶれましたわ~……」
「うーん、多分布が古くなってたのかもしれませんね。任せてください、次は私がやってみますから」
「おーし次に行くぞ2人共!!」
再び黒鉄の触媒を装着したカトレアを見たロズバルトはわたくし達を洗濯場から引っ張っていきました。
続きまして、やって来たのは鍛冶場でした。至る所で鉄を打つ高い音が響いています。
「今度のはとびきり重要な仕事だ。なにせ戦うための武器と、命を守るための防具造りだからな」
「まあ~! そんな大役をわたくしに任せてくださるんですの~!?」
ここに来るまでの2つも大事ではありますが、これは直接命に係わるお仕事。
それをお任せいただけるのであればわたくしにも気合が入ります。
皆様の命をお守りする頑丈な防具をお造りしようと鍛冶用のハンマーを持ち上げ……これとっても重いんですね、持ちあがりません。
「いや、姫さんは修理した武具の強度だけ確かめてくれりゃいいから、そいつは置いてくれ」
「あら、そうなんですのね~。まあ持ち上がってはいないんですけれども」
ハンマーの柄から手を離したわたくしはカトレアと一緒に修繕の終わった鎧や盾などの並ぶ場所へと案内されました。
そうしてロズバルトから小さな金鎚がわたくしに手渡されます。
「そいつで片っ端からぶっ叩いてってくれ。ここでなら力いっぱいやってくれていいぜ」
「え~? でもそれでは折角直したものが壊れてしまうのでは~……?」
「いいんだよ。姫さんの全力でぶっ壊れちまうんならそれこそ作り直さねえといけねえ証拠だからな。不良品を見付けてもらうのがメインかもな」
「なるほど、そう言う事でしたら~」
「フィアラさん、疲れたらいつでも言ってくださいね」
説明を聞き、納得したわたくしは早速近くの鎧へ金鎚を叩きつけます。
「えいや~!」
全力で叩かれた鎧のプレートは、なんと打撃の痕すらついていません。とても頑丈なようです。
そして、対するわたくしの手はなんと、ものすごくジンジンしていました。
「し、痺れましたわ~……」
「1個目でダウンか……」
「じゃあ私が代わりに叩いていきますね」
「やめてくれ!!!」
黒鉄の拳を振り上げようとしたカトレアがロズバルトに必死に止められています。
結局ここでもあまりお仕事を手伝えそうにはありませんでしたので再び移動する事になりました。
「残るのは……荷物運びくらいか」
他にもいくつかお手伝いできそうなことを探したものの、なんともいえない成果ばかり。
そうしてわたくしが最後に訪れたのは、オルフェットもいる物資を運んでくるための倉庫の前でした。
「慣れねえなりに色々やってくれた点は認めるが……流石にこれもできねえとなるとマジで何も仕事はやれねえかもしれんから、気合入れてくれ」
「わ、わかりましたわ~!」
ここまであまりいい所を見せられませんでしたので、最後のチャンスを掴むためにもわたくしは体に力を込め直します。
「大丈夫ですよフィアラさん。そんなに緊張しなくってもただ物を運ぶだけなんですから。重いのは無理しないで私に任せてください」
「カトレア……そうですわね~!」
「……まあ持ち上げるだけなら流石に平気か」
一瞬ロズバルトはカトレアを見ましたが、何かに納得してすぐ視線を戻しました。
そうして、わたくしは最後のお手伝いの場へと足を踏み入れようとし、
「だ、駄目だよみんな、こんなことしちゃ!」
倉庫の扉の向こうから、オルフェットの声を聞くのでした。




