おつかいですわ~!!
反乱軍所属から2日目の朝を迎えました。
本日のわたくしはカトレアと魔術師の方々との諍いが起きた際に壊れてしまった武具を買い直しに近くの町までやってきております。
「今日はフィアラさんと一緒にいられますね」
「あんたを放ってったらいざって時の歯止めが効かないだろうからな……」
そして、そのカトレアはわたくしと手を繋いで一緒に来ていました。
ロズバルトが言う通り、彼女はちょっとだけやり過ぎてしまう癖があるようですから。
「うわあ、人がいっぱいだね」
「おう、離れねえようになオルフェット」
「よーし、俺が肩車してってやるよ!」
買い物にはわたくし達3人だけでなく、さらに数人が同行しています。壊れた数がそれだけ多かったのです。
その数人の中にはオルフェットもいました。彼はカトレアとは反対に反乱軍に溶け込めたのか、周りの方が世話を焼いてくれていました。
「あら~。オルフェットはお友達ができましたの~?」
「うん! フィアラ様、この人達、僕と一緒なんだって」
「……一緒ですの~?」
一緒? 外見としては共通点はないように見えます。オルフェットを囲む彼らは皆大人で、年も背格好も離れているような。
首を傾げているわたくしに、彼らが口を開きました。
「俺らも独り身ってだけっすよ。帝国の兵士に殺されちまったんで、経緯はちょい違うんすけど」
「あら……そういうことでしたのね」
反乱軍の所属というだけあって、彼らにも重い過去があるようです。
わたくしにはさらっと教えてくださいましたが、心の中ではきっとベラスティア帝国に対する強い感情を抱いているのかもしれません。彼を仲間にしたロズバルトも悲しそうに聞いておりますし。
「ウチにもこのくらいの弟がいたんだよな、病気で死んじまったけどさ」
「戦死したダチがガキの頃はこんな感じだったな、とか思っちまって。なんか放っとけないんだよな」
皆様、オルフェットに抱く感情はそれぞれのようですが、彼を大事にしようとしてくださっているのは伝わってきました。
「おほほ、昨日は1日会えないままでしたけれど、オルフェットが皆様と仲良くできているようで安心しましたわ~!」
「みんなすっごく優しくしてくれるよ!」
「早いとこおつかい終わらせて、余った金で美味いもの食いに行こうな」
「おい! 遊びに来てんじゃねぇのは忘れんなよ! ……それと当たり前みたいに資金を無駄遣いしようとするな!!」
部下の締まりのない顔を見て、ロズバルトの叱責が飛びます。
可愛がられているのは喜ばしいですが、横領はいただけませんわよね。
「おい、そこの貴様ら!」
と、町の入り口付近でお話ししていた所へ鋭い声がかけられます。
そちらを向いてみると、なんとわたくしたちの元に現れたのは武装した、帝国の兵士の方でした。
「……っ!?」
わたくし達に緊張が走ります。カトレアはきょとんとした顔ですが、わたくしの方は心臓が跳ね上がってしまいました。
そして、反乱軍として活動しているロズバルト達はより衝撃を受けているでしょう。
流石に顔を知られているとしたらこんなに堂々とお買い物になんて来ないはずですけれど、だとしたら何故声をかけられてしまったのかしら。
「……俺達が、どうかしたのか?」
ロズバルトは少しだけ怖い顔をしていましたが、すぐに平静を装って返事をしました。
すると兵士の方は焦りと苛立ちの混じった声を出します。
「人を探している。この辺りで目立つ方……いや、目立つ者を見ていないか?」
その質問にわたくし達は安堵します。どうやらロズバルト達が反乱軍の一員である事がバレてしまったわけではないみたいでした。
「すっごいざっくりした聞き方ですねー。他の特徴とかを言った方がいいと思いますけど」
「……言えん。とにかく、一目見れば分かるような人物だ」
「あらあら~! 少し見ただけで分かるほどに目立つお方とはどんな方なのかしら~!? わたくしも気になってしまいますわ~!!」
「……まあ、方向性としてはそいつみたいなものだ。印象には残るだろうから、もしも発見したら秘密裏に我々に教えに来るように」
わたくしが聞くと溜息を吐いて、兵士の方は駆け足で去っていきました。
それから町並みをよく見てみますと、至る所で帝国兵の方々が走り回って何かを探していらっしゃるご様子。
「うわ、兵士の人、いっぱいいる……」
「こんだけの数が動員されてるって事は相当なコトが起きてるのかもな。危険人物の脱走だとか。……姫さん、はぐれないように気をつけとけよ」
「大丈夫です。なにせこの私がフィアラさんにはついてますから!」
「カトレア……」
胸を張り、カトレアはわたくしへ微笑みかけて両手で繋いだ手を握ってくれます。
確かに、これは心強いですわね。どんなに危ない方がこの町に潜んでいたとしても、彼女が守ってくれそうです。
「……ところで、わたくしってそんなに印象的ですの~?」
「ん? まあ……お貴族様って感じはするかな」
ふと感じた疑問にはロズバルトが答えてくれました。
そうしてわたくし達はなにやら危ない雰囲気の町の中へと入っていくのでした。




