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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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カトレアがプンプンですわ~!!

 ロズバルトと共に訓練場へ行くと、そこはひどい有り様になっておりました。

 元々戦闘の、魔術の訓練を行う所ではありましたので破損などはしていたのかもしれませんが、それらを上書きするように一帯は焼け焦げておりました。

 先刻の凄まじい炎の塊が残した痕なのでしょう。訓練場からは反乱軍の皆様が外周の方へと散り散りになって退避しております。

 そして、カトレアは彼らとは逆にただ1人、訓練場の中心で佇んでおりました。


「……こ、こいつはまさか」

「は、派手にやってしまいましたのね~」

「あ、フィアラさんー」


 まるで空からお日さまでも落ちてきたかのような惨状にわたくしとロズバルトが慄いていると、カトレアはわたくしが現れたのに気付いて駆け寄ってきます。

 その手に纏われていた黒鉄の触媒をしまい、彼女はわたくしへと抱き着いてきます。


「えっと~、何が起きたのか、聞かせていただいてもよろしい? カトレア」

「聞いてください、ここの人たち酷いんですよ。フィアラさんの悪口ばっかり言うんです!」

「わたくしの、ですの~?」


 むーっ、とした顔でカトレアは訓練場の端で縮こまっている方々を見ながら言います。

 言葉だけでしたら子供の喧嘩のようなものに聞こえますけど、被害の規模を考えるとそう呑気な事も言っていられませんね。


「て、てめえ……フィアラだな。こんな化け物の手綱放り出してんじゃねぇよ!! 反乱の前に俺達が皆殺しにされるだろうが!!」


 髪も衣服も燃えかすのようになってしまった魔術師の方がわたくしへと怒りの矛先を向けてきます。

 やはりカトレアの扱う炎の魔術は規格外の力だったのでしょう。勇気を出してわたくしを非難する方も声が震えていますし、他の魔術師の方々も怒りと怯えの入り混じった視線をわたくしとカトレアに投げてくるばかりです。


「事情は分かりませんけれど、これから共に戦う方々ですし、いきなり殺めてしまうというのはやり過ぎているかもしれませんわね~……」

「そこは大丈夫です。今回はただ脅かしただけですから、誰も死なせてはないですよ」

「あら、そうでしたの~?」


 言われてみますと、確かに皆様装備や頭髪は灰になってしまわれたようですが、不思議と肉体を損壊させてはいないご様子。

 多少のやけどはあるかもしれませんが、命に別状はないようでした。……ですが、カトレアがその気になれば一瞬で跡形もなく焼き尽くせてしまっていたような。


「そういう問題じゃないんだよ! 俺達の武器が……!」

「知りません、フィアラさんの事悪く言った罰です。次はあなたたちがそうなると思ってください」

「……とりあえず減った顔は無さそうだが、お前ら一体何を言ってここまでカトレアを怒らせたんだ?」


 ざっと見てロズバルトが全員生存しているのを確認してくださったようで、わたくしも少し安心です。


「……何も間違った事なんて言っちゃいません。俺らは事実を言っただけなんスから」


 そして魔術師の方は苛立ちを抑えながらそう仰いました。

 するとカトレアがわたくしから離れ、その手に黒鉄の触媒を装着しました。


「はい、では反省の色なしという事で続きを……」

「!? うわっ……!!」

「お、お待ちになって~! 彼らは仲間ですのよ~~!!」


 有言実行とばかりに再び炎を現出させようとする彼女をギリギリのところで止めました。不服そうでしたが、わたくしの言葉をちゃんと聞いてはくれるようで、触媒はしまっていただけました。


「はぁ、はぁ……! クソ、脅かしやがって……!! なんで『不良品』にこんな怪物が付き従ってんだよ!!」

「あーまた言いましたねー!」


 今度は触媒を出そうとはしませんでしたが、カトレアはまた彼の言動に我慢ならない様子。

 不良品。それは魔術の才のなかったわたくしがいつの間にかベラスティア帝国民の間で呼ばれるようになっていたという蔑称。

 わたくしが町の見回りをしている間にどんなやりとりがあったのかは存じませんが、カトレアが怒ったというのはおそらくそこについてなのでしょうね。


「……ああ、そういや姫さんの事そんな風に呼ぶやつも多いんだったな」

「こんなに可愛らしいフィアラさんの事をそんな呼び方するなんて許せません! フィアラさん、やっちゃいましょうよ!」

「いえ、別に事実無根というわけでもありませんし~……。それに、実際わたくしってかなり不良だと思うんですのよね」


 これが根も葉もない噂から生まれた呼称でしたら思う所もありましたかもしれません。ですが、その呼び方は事実に即したものですので、否定しようもありませんし。

 だいたい今のわたくしは恐れ多くも皇帝の座を奪わんとしておりますから、そう言う意味では不良であるのは間違いないでしょう。


「フィアラさんがそう言うなら、見逃してあげましょう。良かったですね、フィアラさんが寛大な人で」

「お、おい! 俺達に対して謝らねえのかよ!? 殺されかけた上に武器も防具も炭になっちまってんだぞ!?」

「ふーん、謝りません。人が嫌がるかもしれないような呼び方する方が悪いんです」


 謝罪を求められますが、カトレアはまるで応じるつもりはないようです。

 まあわたくしは気にしておりませんけれど、他人を蔑称で呼ぶ、という行為は場合によっては命を奪われても文句は言えません。

 例えばこれがもし皇帝陛下を相手にしたものだったりすれば、陛下はともかく帝国兵の方々が問答無用で襲い掛かってくるでしょう。

 ……ですが反乱軍の一員になっている方々なのですから、そんなものは気にもしないかもしれませんでした。


「……皆様、やはりお父様の存在のせいでわたくしを恐れていたりするのでしょうか」

「そうかもしれないな。何にしても俺達に協力してくれる姫さんが蔑まれるのは忍びねえ。後で俺の方から注意しとかないとな……」


 ロズバルトが同意します。

 反乱軍の彼らが確実に敵対する、強大な魔術師であるお父様の存在が自然とわたくしを嫌悪の対象として見せてしまっているようです。

 彼は改善させようとはしてくれますが、こればかりはわたくし自身が彼らと打ち解けようとしなくてはどうにもならないでしょう。

 わたくしが反乱軍の味方である、それを行動や態度で示していかなければなりません。


「それはそれとして、燃えちまった武具も調達してこねえと」

「そちらは流石にわたくし達の方で弁償させていただきますわ~……」


 というわけでして。後日わたくし達は隣町まで足を運んで焼失してしまった反乱軍の武器や防具の買い直しを行う事になったのでした。

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