反乱軍ですわ~!!
「あんた、反乱軍に入りたいのか」
殺気立つ店内。瞬きの後には首を刎ねられてしまうのではないかと思ってしまうほどの緊張感の中、酒場のお客の1人が鋭い眼をしたままわたくしに尋ねてきます。
「お、おほほ~……今のはですわね、なんと言いますのかしら~」
皆様、数刻前の盛り上がりが嘘のように剣呑な顔をしていらっしゃいまして、とても怖いです。
小さな町の酒場とはいえどここはベラスティアの領地。陛下に翻意を持つ者への対応は自然と一つに絞られるでしょう。
わたくしはしどろもどろになりながら必死に言い訳を考えます。
「しょうがないですね。ここは私が」
「カトレア!? 大丈夫ですわよわたくしがなんとかいたしますので~!」
手袋を取ろうとした彼女を止め、再びわたくしはお客の方と向き合います。流石に悪い事もしていない方々へその解決法を取る訳にはまいりません。
「で! 反乱軍がどうしたってんだ!?」
「っ、フィアラ様!」
すごむ男性がわたくしに詰め寄ろうとしてきた時、オルフェットが彼とわたくしの間に立ちふさがりました。
小さい体では大人の男性を止められはしませんでしょうけれど、向こうはオルフェットを押しのけてまではきません。
「ううぅ……」
わたくしを守るように前に立ちながら、それでも怖いのか体を震わせるオルフェットを見て、自分も怯えてばかりはいられないと思い、顔を上げて怖い顔をした男性をしっかりと見ます。
「別に、大したことは話しておりません。ただ反乱軍の噂を聞いて、驚いただけですわ~!」
「ほお、噂ねえ」
まあ噂までは話しておりませんでしたけれど。ですが向こうも少しばかり態度が柔らかくなったように見えます。
ここはもう少しそれらしい話をして流す事にさせていただきましょう。
「えぇそうですわ~! あのリゲルフォード陛下を打倒しようとする反乱軍が最近にになって結成された、だなんて聞いてビックリしてしまっただけなのですわ~! ……ね、カトレア!?」
「……はい、そうでしたね。1人で国を相手取れる方に挑もうだなんて信じられない愚行だなあ、って話をしてました」
「そ、そうですわ~! もしわたくしが反乱軍を見掛けたら、陛下に代わってわたくしがひっ捕らえて差し上げますわ~!」
「そりゃ勇気がある事だねえ」
カトレアに合わせて手で反乱軍を叩き潰すジェスチャーを披露してわたくしに翻意などないことを証明いたします。
そこまでするとわたくしの目の前にいる方や周囲のお客様方も笑顔になり、言いたい事が伝えられたと見ていいでしょう。
「……ところで、その反乱軍の拠点がこの町だってのは知ってたかい?」
「……。はい~?」
座っていた方々が立ち上がり、目をぱちくりさせるわたくしたち3人をいつの間にか取り囲んでおりました。
「おら、入れ」
「捕まってしまいましたわ~……」
そのままわたくしたちは酒場に集っていた反乱軍の方たちに取り押さえられ、彼らの本拠地まで連行されてしまいました。まさか、偶然立ち寄っただけの場所がまさに反乱軍のいる地だったなんて。
町の中でも一際大きな家へとやってきました。元はこの町の領主のものだったりしたのでしょうか。
縄で腕を縛られたわたくしたちはそのまま中へと入らされ、応接間のような場所へ押し込まれます。
「あの~、わたくしたち、これからどうなってしまいますの~?」
「うるせえ、そこで黙って待ってろ!」
怒鳴られ、わたくしはビクリと震えます。そのままわたくし達を連れて来た方はどこかへと行ってしまいました。
薄暗い部屋にはわたくしとカトレアとオルフェットだけが残されます。
「フィ、フィアラ様……僕達、もしかしてこのまま、殺されちゃうんですか……?」
「……否定できませんわ~。わたくし、元はアルヴァミラ家の娘ですし、もしもそれが分かっていらっしゃったら見せしめにされてしまう可能性はありますわ~……」
「フィアラさん、もうやっちゃいませんか?」
そう言ってカトレアは手袋を外させようとしてかわたくしに縛られた腕を差し出してきますが、少し悩んでからその手を押し戻します。
「も、もう少しお待ちになって~! 予定とはかなり違いますけれど、せっかく反乱軍の方にお会いできましたし」
「……いいですけど、フィアラさんが危なくなったらすぐやりますからね、私」
危険な状況ではありますが、まだ彼らを仲間にできなくなったと決まった訳ではございません。
望みは薄いかもしれませんが、わたくしだって皇帝陛下の座を奪おうとしているのは同じなのですから、どうにか彼らにそこを説明する機会がないかをギリギリまで探らせていただきたいです。
「リーダー、こいつらです」
そう思っていますと、ちょうど先程の方が誰かを連れて戻ってきたようでした。彼らの、反乱軍のリーダーのようです。
「お前らか、俺達を捕まえるだとか吠えてた3人は」
現れたのは、大きな男性でした。わたくしのお父様と同じか、少し下くらいの年齢のがっしりとした体つきの人。だいぶ疲れた顔をしています。
その方はソファーにどっしりと座ると、わたくしたちを見下ろしてきます。
「……ガキが1人に女2人。舐められたもんだな」
「まあ逆に捕まえてやりましたがね」
「別に、やろうと思えばみんな燃やす事もできたんですけどねー。フィアラさんの優しさに感謝してほしいです」
「あぁ!? 生意気言ってんじゃねぇよ! 何もしねえで掴まってただろが! 逆にその顔焼いてやるか!? あぁ!?」
「やめろ、みっともない。……下がれ、後は俺だけでいい」
乱暴な部下を制するようにリーダーの男が言うと、「へっ、命拾いしたな」と捨て台詞を吐きながら彼は部屋から出て行きます。
それを見届けると、リーダーの方が溜息を吐きました。
「……悪かったな、驚かせて。近々皇都に襲撃をかける計画があってな、あいつらもピリピリしてんだ」
「えっ。そんなお話、わたくし達にしてしまっていいんですの?」
「まあな。別にあんたらだって本気で俺達を捕まえようだなんて思ってないんだろ?」
「そう、ですわね。それは考えておりませんけれど~」
むしろ仲間にしてもらおうと考えていたんですが、凄いタイミングでやってきてしまったようですね。
「おおかた、この辺に旅行にでも来ただけだろ? 怖い思いさせちまったな。何日かしたら解放はしてやるから、ゆっくりしてってくれ」
「あ、あの~、その事なんですけれども~」
わたくしが手を挙げると、ちょうど窓から月の光が差し込み、わたくしの姿を照らし出しました。
自然と注目が集まり、リーダーの方もわたくしを見て息を詰まらせます。
「!? お、お前……その顔は」
「顔? わたくしの顔がなにか~……。あっ」
どうして彼がそんな信じられないものを見たかのような顔をしているのか、遅れて気が付きます。
わたくしは元アルヴァミラ家の令嬢。皇帝に反旗を翻そうという反乱軍のリーダーともなれば、そんな人物の顔を知っていても不思議ではありません。
つまり……わたくし、もしかしてとってもピンチなのではありませんこと?




