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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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魔女の帰還ですわ~!!

「さあ、行ってこい」


 俺はあれにかけてやる言葉もないしな、と言いながら陛下はわたくしを下ろしました。


「ありがとうございます、陛下」


 深いお辞儀をして、すぐに走り出します。

 彼女がいるであろう場所めがけて、わたくしは必死に駆け上がっていくと。


「……やっぱり、ここにいましたのね~」


 アルヴァーン大火山頂上、その崖際に腰掛けていたカトレアはこちらへ背を向けていました。

 彼女の視線は下方、数刻前まで戴冠式を執り行われていたべラスティアの皇都へ向けられていたようです。

 わたくしの声に気付いてカトレアはちらりとこちらを見て、大層驚いた顔をしていました。


「え、あれ? フィアラさん? なんで……?」

「なんで、ってそんなの聞くまでもありません~! ここはわたくしとあなたの『想い出の場所』でしょう~?」


 戴冠の前、彼女と共に訪れた最後の場所。このアルヴァーン大火山はカトレアの心に深く刻まれた地のはずです。幕引きに選ぶのであればここでしょう、と思っていたのですが、予想が当たって助かりました。

 わたくしの言葉にカトレアは目を丸くし、それから顔をふにゃっとさせた笑顔にします。


「……覚えててもらえたんですね。やだ、嬉しいー」

「忘れると思っていましたの~? ほんの先月の事ですのよ~?」


 彼女の元に歩み寄り、同じように腰掛け……ようと思ったのですが、想像よりも凄まじい断崖絶壁だったので1歩引いた位置でカトレアの隣に立ちます。

 するとカトレアの方も立ち上がってくれたので、わたくしは彼女と向かい合いました。


「まったく、急にいなくなって~。心配しましたのよ~?」

「えへへ、ごめんなさい。……もう最後なんだな、って思ったら、またここからの景色を見ておきたくなっちゃって」

「……それを言われては、お説教もできませんわね~」


 あの日目にした光景を再び焼き付けておきたくなったというのなら、止めることもできません。


「それだけ、この眺めを気に入ってくださったのですものね~」

「はい。……まあ本当の所は、さっきまで物足りなかったんですけど」


 苦笑しながら言うカトレアにわたくしは首を傾げました。

 どういう意味でしょう、大火山からの眺めは1ヶ月前となんら変わってはいないはずですが……?


「ん~? この間とは何か違いますかしら~」

「ほら……前は一緒だったじゃないですか、フィアラさんが」


 照れくさそうに言われ、わたくしは気づかされました。確かに、以前とは違い先ほどまでわたくしはいませんでしたからね。

 彼女が以前ほどの感動を得られていなかったのは、わたくしという存在の不足が原因だったのかもしれません。


「……って、それじゃあ景色を見てたのかわたくしを見てたのかわからないではありませんの~!?」

「ふふっ、そうですね。『フィアラさんと見た』っていう部分込みで想い出の場所なのかも」


 満面の笑みで彼女はそう言いました。


「……あぁー、最後にまたフィアラさんに会えて良かった。あのままずっと1人だったら心残りができちゃう所でした」

「あらあら、それではもう何も思い残すことがないかのようですわよ~?」

「えー、ないですよ、最後に1番会いたい人に会えたんですから」

「ありますでしょう~? ……ほら、忘れものでしてよ~」


 わたくしに会え、とても晴れやかなカトレアは未練などなさそうな雰囲気で、すぐに消えてしまっても違和感はないほどでした。

 ですが彼女にはまだお返ししていないものもありましたので、急いでそれを渡します。


「あ……これ」

「手袋ですわよ~。大切な方からの贈り物、だったのでしょう~?」


 暴走した聖剣との戦いの折に火傷を負ったわたくしの手。それを守るためにカトレアが貸し与えてくれていたものです。

 とても思い入れの深いものだった、そう伺っていますからこれを返さずに彼女を元の世界へ帰すわけにもいきません。


「……もう、そんなのどっちだってよかったのに」

「た……大切なものだったのですわよね~……?」

「ええ、すっごく。……でも、預けたままにしておいたらまた会いに来る口実ができたじゃないですか?」

「えっ!? ……ま、また会えますの~?」

「……。ずっとそう思っててもらえるかなって考えただけです。ありがとうございますフィアラさん、ちゃんと返しに来てくれて。素敵な国、作ってくださいね?」

「そんなの、言われなくっても……」


 いつか再開できる日を思わせる発言でしたが、それはただの願望のようでした。

 やはり、こうして彼女と触れ合えるのも、話し合えるのも、本当の本当に、今が最後なのでしょう。

 それを証明するかのように、カトレアの体が薄っすらと透け始めているのに気が付きました。


「っ~……!!」

「あ、もう時間かな。……最後にこうやってお話できて、すっごく嬉しかったです。ずっと一緒に寝てたりしたおかげかな」


 そんなことをカトレアは呟きます。

 わたくしの体の中にあった微かな魔力。それを毎日少しずつ徴収した結果が、今のこの時間として与えられていたのでしょうか。


「……本当に、心残りはありません?」

「そうですね、こうしてきちんと手袋も返ってきましたし。んー、できればもっと積極的になってほしかった……くらいかな」


 最後の質問に、彼女は手袋を嵌めながらそう呟きました。


「とはいえ総合的に見て大満足です! フィアラさんと過ごした日々は私の大切な想い出として一生記憶に残りますよ! なので、フィアラさんも皇帝さんと……」

「待ってカトレア~!!」


 手袋を嵌めている最中の彼女の両手を掴み、締めの言葉を残そうとしたカトレアに、わたくしは叫びます。

 ビクッとした彼女は驚いて、こちらの顔をまっすぐに見てきました。


「な、なんです? 私、まだ何か忘れ――」


 戸惑った彼女に構う事なく、わたくしは顔を近づけて……口付けをしました。……ほっぺに。

 唇にカトレアの柔らかな肌が当たるのと同時、すぐ耳元で呼吸の止まる音が聞こえます。

 ――時間にすれば、ほんの数秒とかかっていない秒数。顔を離し、わたくしは彼女に申し訳ない顔をしながら口を開きます。


「……申し訳ありません、カトレア。今のわたくしには、これが精いっぱい、あなたにしてあげられる限界ですわ~……」


 カトレアに、何も思い残す事なく消えて行ってほしい。そういう思いと、これまでの感謝がわたくしにその行動を取らせました。

 救われてきた数を思えば、この程度では到底足りはしないはず。できることなら、彼女の求める全てをしてあげたくはあったのですが……勇気が足りませんでした。


「本当にごめんなさい、カトレア~……。最後だというのに、こんなものしか返せなくて……」

「――嬉しい」

「……え……?」


 彼女から手を離し、深く頭を下げていた時に聞こえてきたのは、そんな呟きでした。

 顔を上げれば、カトレアは――泣いています。


「今までで、1番嬉しかったです」


 笑った表情のまま、大粒の涙を零し続けるカトレアは優しく自身の頬を撫でていました。

 彼女はその言葉だけを残し、完全に消滅してしまいました。


「カ……」


 慌てて手を伸ばしますが、そこにはもう何も残ってはいません。それ以上先に進んでも、大火山の頂上から地上まで転がり落ちていくだけ。

 行き場を失った手を戻し、ほんの少し前まで少女が立っていた場所へ視線を向けてわたくしは静かに佇んでいました。





「――帰った、か」

「はい~」


 時間を置いて、背後から陛下の声が飛んできました。呼吸を整え、それに返答をします。


「……最後に、ゆっくりと話せたか?」

「ええ、……今までで1番の笑顔を見られましたわ~」

「そうか。それは良かった」


 最後に見た彼女の顔を思い出しながら言うと、陛下は嬉しそうな声色でした。カトレアと笑顔でお別れできたことを喜んでくださっているふうです。


「さあ、では戻ろうか、フィアラ。皇帝としてやっていくため、教えておかなくてはいけない事が沢山あるからな」

「……頑張りますわよ~! あの子にも期待されてしまっていますからね~~!!!!」


 彼女は、わたくしの統治がとても素晴らしいものになると確信してくださっていました。

 その信頼を裏切らないために、これからは陛下と、そしてお父様お母様にアッシュ、オルフェット、ロズバルト、ラトゥ達と共にこのべラスティアをよりよくしていく所存です。

 心の中でそう決意し、彼女が立っていた場所から背を向けて陛下へと振り返るのでした。


「さあ陛下、わたくし頑張りますわよ~~!!」

「では……差し当たって、すぐに城へ帰って顔を洗うところからだな」


 頂上に来てから初めてわたくしの顔を見た陛下は、そう言って苦笑するのでした。

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