仲間を募るのですわ~!!
「それで、わたくし達の今後なのですけれど」
宿を出て、わたくし達は食事も兼ねて近隣の酒場へとやってまいりました。
あまり人気のない町とはいえこういった場所は民衆の憩いの場所の役割を果たしているのか、多くのお客様方で賑わっておりました。
そんな酒場の喧騒に紛れるようにわたくしはカトレアとオルフェットと共にテーブルを囲み、これからどうすべきかについて話し合います。
「やはり陛下に反旗を翻すとなりますと、カトレア以外にも戦力が必要ですわよね~」
「そうですか? 私だけでもどうにかなると思いますけど。そんなに皇帝って強いんです?」
「あ~ったり前ですわ~! このベラスティアを統べる者が生半可な強さのはずありません!」
特に現皇帝陛下であらせられるリゲルフォード様は歴代皇帝の中でも群を抜いてお強い方なのです。
わたくしと同年代のあのお方は、小国といえど単騎で敵軍を壊滅させ、そのまま帝国の領地にしてしまった事もあるほどの豪傑。
「それだけではありません、幾度か顔を合わせた経験のあるわたくしも惚れ惚れしてしまうほどの美貌を併せ持った、完全無欠のお方なのですわ~!!」
「ふーーーーん。フィアラさんが惚れちゃうような人なんですか」
リゲルフォード様の凄さをカトレアに説明しましたが、やはりそこまで興味を引かなかったようです。
本当に彼女だけでどうにかできる自信があるのか、それとも陛下の実力を見くびっているのでしょうか。
「……まあわたくしはもう陛下との縁談をなかった事にされた身ですので、何をどうしたところで敵わぬ恋ではありますけれど。とほほですわ~」
「じゃあ遠慮なく焼けますね! フィアラさんを手放した事、後悔させてあげましょう!」
「こ、声大きいですよ2人共」
わたくしたちの会話にオルフェットはおどおどしています。確かに、ちょっと物騒な話題ではありますものね。
「大丈夫ですわオルフェット。こんなに騒がしいんですから、叫んだりしない限り聞き取れもしませんわ~」
大勢の人が集まっているここでは心配の必要はないでしょう。
その証拠に、みんな自分達のお喋りに夢中なようで、わたくしたちの方など見向きもしておりません。
大きな声で叫んだりしない限りはこの喧騒が掻き消してしまうはずです。
「さて、お話を戻しまして。カトレアだってわたくしの身を守りながら陛下と戦うだなんて大変でしょう?」
「……いけると思うんだけどなぁ。でもフィアラさんがそこまで言うなら信じます。オルフェットも……戦力には数えない方がいいですよね」
「た、戦いは、分かんない、です」
視線を向けられ、申し訳なさそうにオルフェットは言う。
いいんですのよ、戦い方なんて知らなくっても。それだけがすべてではないんですから。
「大丈夫、きっとオルフェットには他に良い所があるはずですわ~! そう、わたくしのように!」
落ち込むオルフェットに、わたくしは胸に手を当てて励ましの言葉を。
わたくしも魔術師として育てられてきたものの、その才能がなく家を追われた身。ですが、それ以外の長所はあるのです。
「ほんと? フィアラ様はどんないい所があるの?」
「そうですわね~、例えば……。……あら~?」
すぐに出てくるだろうと思ったのですけれど、想像以上にわたくしが自慢できるような長所が思い当たりません。
魔術の代わりに剣術は試してみましたけど、せいぜい薪を割るのに使えるくらい。料理なんかも作れはしますが、絶品という領域にはありませんし、人にお出しできるほどの自信もありません。
歌や踊りを嗜んでいますが、群衆を感涙させるほどでもありませんし、勉学などもほどほど。どれもこれも、上を見ればキリがないほどに優れた方がいます。
できる事は多いですけれど、改めて考えてみると突出して優れている部分はないのかもしれません。
しかし彼を裏切る訳にはいきません。何か、1つくらいはわたくしの良い所を挙げなくては。
「例えば……そう! このわたくしの美貌! これは間違いなくわたくしの長所ですわ~!」
「うん、フィアラ様はとっても綺麗」
「ねー、食べちゃいたくなるくらい綺麗ですよね」
「……他意はありませんわよね? カトレア?」
自慢できることといえばそう、この両親譲りの美しさくらい。
これもお父様とお母様から頂いた物にすぎませんので、正確にはわたくしのものではないかもしれませんが、納得はしていただけたようです。
「そんなわけでして、わたくし達には共に戦う仲間が必要だと思うのですわ~! ……どうすれば仲間を集められると思います? カトレア」
戦えるのは現状カトレアだけという確認もできましたので、次は戦力を増やす方法です。
こんな話、不用意に町の方に話すわけにもいきませんし、ましてや堂々と募集を賭けるわけにもいきません。
わたくしには思いつかないので、素直にカトレアに聞いてみます。
「んー、そうですね。簡単なのは皇帝を倒したいと思ってる人の集まってる所へ行って仲間にしてもらうとかだと思いますけど」
「そんな方々帝国にいるんですの? 具体的にはどういった集団の事でして?」
「それはやっぱり、反乱軍とか」
「なるほど~、反乱軍……」
至極当然な流れです。わたくし達がやろうとしているのは、まさに反乱。
だとすればそういった勢力に所属して仲間とするのが最も効率がよいでしょう。
「は、反乱軍ですの~~~~~~~!?!?」
頷きかけて、そこでようやくわたくしも事の重大さに声を大にします。
そうでした、わたくし達は皇帝の座を狙おうとする不穏分子になろうとしています。
なんとなく理解してはいたものの、これから皇帝陛下へ弓引く方々の一員とならねばならない事実を突き付けられ、声を抑えられはしませんでした。
「あっ~……」
「……」
真っ青な顔のオルフェットと、ありゃりゃ、と言いたそうな顔で微笑するカトレア。
それから静まり返った酒場の視線は、思わずテーブルから立ち上がった姿勢のわたくしへと一身に注がれるのでした。




