祖の眠る場所ですわ~!!
「ここですわ~!」
カトレアに、到着を宣言しました。
眼前には天へ向かって聳える巨山、代々アルヴァミラの家で管理しているアルヴァーン大火山が鎮座しています。
「わ、すごい。大火山っていうだけありますね」
「そうでしょう~? 頂上からの眺めも素敵ですのよ~!」
べラスティアでも最も大きな火山であるアルヴァーン大火山は頂上から皇都の景色が一望できます。
火口の中も同じくらいの絶景です。火山奥底でごうごうと燃え盛る溶岩は、まるで宝石のように輝いて見えるとも言われていますから。
そして、アルヴァミラ家の祖先であるリズモール様の眠る墓所でもあり、わたくしの家によって立ち入りは厳しく管理されている場所でもあるのです。
「本当は一般の方が入ることはできないのですけれど~、まあ大丈夫でしょう。わたくしもアルヴァミラの家の人間だったのですし、お父様とお母様も怒りはしないはずですわ~」
皇都の方々もここには入れませんし、静かな観光ができることでしょう。
「さあカトレア~! このまま頂上までお願いいたしますわ~!」
「はーい」
そう言って彼女に登山の開始をしていただきました。
わたくしは「歩き疲れてまた筋肉痛になったら大変ですから」とずっとカトレアに抱っこされてきていました。彼女なりの思いやりということですので、甘えさせていただいています。
「……そういえば、わたくしはレゼメルをお返ししようと思っていたのでしたわね~」
大火山火口までの道中、腕に装着された腕輪を撫でながらわたくしは過去を振り返りました。
比較的最近ですが、お母様にリズモール様の愛用していた聖剣を壊してしまった事がバレないようにレゼメルの破片をアルヴァーン大火山に返還しようと考えていた時があったのです。
その直後にレゼメルはわたくしを認め、正式な所有者として力をお貸ししてくれるようになったのですが。
「せっかくここまで来たんですし、ついでに返却しちゃいます?」
「そうしたい気持ちもありますが~……しばらくはまだ、わたくしに使わせてもらいます~」
いい機会ではありますが、わたくしがべラスティアの皇帝として国民から認めていただけたのはこの腕輪の力もあってこそ。
いずれリズモール様の元へ返すのが礼儀ではあるのですけれど、もう少し、レゼメルは借りたままでいさせていただきたいです。
「……具体的には、次の皇帝が決まるまでは~」
付け加えたわたくしに、カトレアは笑いました。
「ふふっ、それじゃあフィアラさんが生きてる間はずっと借りっぱなしですね」
「え~? どういう意味ですの~?」
「フィアラさんよりいい皇帝なんていないんですから、死ぬまで次代の皇帝なんて見つけられないってことです」
「……。まったく、まだわたくしは何もしていませんのに~」
今からわたくしの統治が立派なものだと確信しているかのような物言いに、呆れるような笑いが零れてきました。
彼女の期待に応えるためにも、陛下の跡を継いでべラスティアをより良い帝国にしていきたいと改めて思います。
「……こうしてあなたに抱きかかえられていると、あの夜の事を思い出しますわね~」
カトレアの腕に抱えられながら彼女の顔を見上げていると、家を追われた日の事が自然と頭をよぎります。
腕に怪我を負い、歩くのもしんどくなってしまったわたくしを彼女がこうして抱き上げてくださったのでした。
あの時の事はカトレアもしっかり覚えているようで、懐かしむように笑います。
「懐かしいー……って言っても1ヶ月経たないくらい前なんですけど」
「あそこから色々な事がありましたわね~。ひと月の出来事とはとても思えません~」
彼女と契約を交わしてオルフェットと出会い、反乱軍でロズバルトと出会って、陛下と戦ってその避難先でラトゥに出会って……最終的には来月に戴冠を控えることとなりました。
とても濃密で、そして……とても楽しいひと時でした。
「……カトレア、あなたの事も、たった1ヶ月未満のお付き合いとは思えないくらい、お別れが名残惜しいですわ~……」
「……えへへ、そこまで言ってもらえたなら私も嬉しいなぁ。フィアラさんのお手伝いをしてきて、大正解でした」
わたくしの言葉にカトレアは悲しむでもなく、喜んでいました。
もうどうしようもないものとして、離れ離れになることを受け入れているかのようです。
そんな彼女に、わたくしは何も言えなくなってしまいました。カトレアが許容しているのなら、これ以上何を言っても覚悟を鈍らせてしまうだけ。
わたくしがするべきなのは彼女に倣って楽しい冒険の想い出に傷を付けないよう、引き止めずに送り出す事なのだと思います。
「あ、もうすぐ頂上みたいですよ」
もどかしい気持ちを感じながら沈黙していると、カトレアは山道の先を見上げてそう言いました。
見れば、道の切れ目がもうすぐそこ。それを越えればアルヴァーン大火山頂上へ到着です。
彼女も分かっているようで、駆け足気味に火山の斜面を走り抜けていきます。
「……わぁ」
あっという間に登りきり、頂上からの景色にカトレアの感嘆の声が上がります。
皇都はもちろん、ロズバルトと出会った町までもが見下ろせる光景は、ただカトレアに抱かれて上がってきただけのわたくしにも息を飲ませる感動がありました。
「絶景ですわね~……」
「はい……フィアラさんと一緒に綺麗な街並みが見られて、本当に良かったです! ずっと、忘れません!」
嬉しそうな声を上げるカトレアを見て、わたくしまで笑顔になりました。
直前の会話でしんみりした気持ちになってしまっていましたが、彼女のこんな表情を見られただけで、ここまでやって来てよかったなと思い直すのでした。
「ほら、これだけではありませんのよ~? あちらもご覧くださいませ~」
そう言って、彼女を火口の方へ導きます。
巨大な火山だけあって、やはりその底で煮え滾っている溶岩の迫力は凄まじいものでした。
「うわー、落ちたらひとたまりもなさそう」
「圧倒されますわよね~。リズモール様が惚れ込んで、最期の地に選んだのも分かりますわ~」
カトレアが言うように、誤って落下すれば命はないでしょう。しかし、それ故に強く惹かれる者が現れるのも納得の有りようでした。
「こういう「入ったら絶対に死んじゃう!」っていう場所って実際に入ってみたくなりますよねー」
「えっ? か、カトレア~……?」
「あ、そうじゃなくて。本当に飛び込んだらどうなるのかなー、って想像したりするじゃないですか」
「な、なんだ~、そういう意味でしたのね~」
抱っこされたままだったものですから一瞬だけドッキリしました。
まあ、分からなくもありません。死ぬのは間違いありませんが、どんな過程を経てそうなってしまうかは気になってしまうものです。
「……考えるだけですからね~?」
「しませんってば。……フィアラさんにお願いされちゃったら別ですけど」
「なんでわたくしがそんなことお願いしますの~……!?」
「え? ほら、さっき私と離れるのが寂しいって言ってましたし。どうしてもと仰るなら、あの中でフィアラさんとずっと一緒に居ることもできそうじゃないですか?」
「そ、そういうのは求めておりませんわ~~!!」
「あはは、ごめんなさい。冗談が過ぎましたね」
笑って謝るカトレアですが、冗談か本気か分からなかったわたくしはドッキドキでした。
離れ離れにはなりませんが、それ以外のすべてが台無しです。わたくし、自分が死なないためにここまで頑張ってきましたのに。
「ふぅー。いい気分転換になりました。そろそろ帰りましょうか」
「あら……もうよろしいんですの、カトレア~?」
「はい。フィアラさんの面白い顔もいっぱい見られましたしね」
「!? カトレア、まさかそのためにあんなこと言いましたの~!?」
「さぁ、どうでしょう?」
言われてみれば、ここに来るまでのわたくしはさぞ表情の切り替わりが激しかった事でしょう。
晴れやかなお顔をしていますが、とぼける彼女が癒されたのは果たして大火山からの景色なのか、それともわたくしの顔面七変化なのかは最後まで分からないのでした。




