落ち着かないのですわ~!!
陛下のはからいもあって、わたくしとカトレアは一緒にお城を飛び出して皇都に2人で繰り出しました。
「なんだか、新鮮な気持ちですわね~。カトレアと2人きりで皇都を歩くだなんて~」
初めて彼女と出会った時くらいでしょうか。それ以外の時はいつも他の誰かがいましたから。
危ない目に遭うことも多かったですし、こんなに少ない人数でお出かけなんて少しドキドキしてしまいます。
「前まではフィアラさんの命を狙う人が多かったですもんね。今はもう心配しなくてよさそうですけど」
「……もしかして陛下が外出の許可をしてくださったのってそれも関係あるのかしら~?」
以前とは違い、わたくしには力があります。特にそれを振るおうとは思いませんが、おかげで帝国の皆様もわたくしを受け入れてくださいました。
暗殺の危険性も大きく下がった事でしょう。あれほどすんなりカトレアとお出かけする機会をくださったのはわたくしの安全が確保されたのも一因なのかもしれません。
「……そこまで考えてるのかなあ、皇帝さん。フィアラさんのお願いだからってだけに見えたんですけど」
「いえいえ、きっと陛下にも深いお考えがあると思いますわ~」
「ま、まあフィアラさんがそういうなら」
カトレアは少し首を傾げていますが、流石に陛下も考えなしに首を縦には触れないでしょうしそういった情勢を見越しての判断だったのかと思います。
偶然の出来事ではありましたが、レゼメルの腕輪を使えるようになったことは幸運でしたね。
「……あ、ずっと手をつないだままでしたわね~」
ふと視線を落とすと、お城でカトレアの手を取ってからそのまま皇都へやってきたことに気付いてしまいました。
「ごめんなさい、忘れていましたわ~。すぐ離しますから~……」
「え、このままがいいです! むしろ離すと泣きます!!」
「そ、そうですの~? ……でしたら、このままで行きますけれど~」
邪魔かなと思って聞いたのですが、そうでもないようでした。
カトレアがいいというなら手を握ったままでいましょう。猶予時間は今日1日。もしもはぐれたりしてしまったら目も当てられませんから。
「それじゃあフィアラさん。最初は私をどんな場所に連れて行っ」
「これはこれは! 紅蓮なる皇帝様ではありませんか!」
恭しくカトレアが聞いて来ようとしたとき、往来から声が上がりました。
見れば、周囲の帝国民の皆様がわたくしの存在に気付いて敬服のまなざしを送ってきていました。
「紅蓮なる皇帝陛下! 本日はどちらに御用向きで!?」
「え? いえ~ご用というほどでは~……。私用と言いますか~、ってそもそもわたくしまだ皇帝ではありませんのよ~!?」
「おお、これは失礼いたしました!」
「ですが我々べラスティアの臣民は皆、フィアラ様の戴冠を心待ちにしております!」
「リゲルフォード陛下と変わらぬ忠誠を誓いましょうぞ!!」
わたくしの存在に気付くや次々に人が集まり、口々にわたくしを称える言葉が波のように押し寄せてきます。
信頼を預けてくださっているのは感じるのですが、これほどまでに騒がしくては落ち着けそうもありません。
「……少々、人気のない場所へ行きましょうか~」
「え? あ……わかりました」
歓声の中、彼らに手を振って答えてカトレアとともにその場を去るのでした。
「やっぱり、この辺りは静かですのね~~」
民衆から逃れるように走り、わたくしがカトレアとやってきたのは何もない空き地でした。
正確に言うと、今は何もない、ですけれど。
「ここって確か……フィアラさんのお家でしたよね」
「そうですわ~。まあな~んにも残ってはいませんが~」
紅蓮の聖剣に操られ、アッシュが通り道にあったアルヴァミラのお屋敷を焼き溶かして無に帰してしまいましたから。
今は両親と弟を含めてお城で暮らしていますので、ここはほとんどそのままになっています。
しゃがみ込み、わたくしは溶けた石材を撫でながら当時の事を思い出します。
「あの時は驚きましたわ~。文字通りすべてが焼き尽くされて何も残っていなかったんですもの~」
「帰ってきたら実家が消えちゃってたんですもんね。私もそんなことになったら驚くだろうなあ」
「……どちらかといえばカトレアは驚かれる側のような気がしますわ~。元居た場所から急に消えてしまったわけでしょうし~」
「あ、そういうことになっちゃうのか。……どうしよう、心配させちゃってるかな」
「お帰りになったら、あなたの知人にわたくしの分も謝罪をお願いいたしますわ~……」
指輪の召喚がどういった仕組みなのかは分かりませんが、べラスティアにやって来てしまった分の時間がそのまま流れているなら大変です。
戴冠までの日取りを考えればゆうに1月以上の失踪。さぞカトレアのご友人などは不安になってしまうはずですから。
彼女の事を案じているであろう方々への申し訳なさを感じていると、カトレアは笑みとともに首を振りました。
「大丈夫です。私って1人旅とかたまにしますし、それに『楽しかったです!』って言えば許してもらえますから」
「そうですのね~。……ああっ、でも何度か命の危険もありましたし、できることなら直接謝りに行かせていただきたいですわ~……!!」
わたくしを守るため、彼女は幾度もその力を使ってくれました。
その中には致死性の負傷や、ずっと残り続ける傷跡を残してもおかしくない戦いだって含まれています。
「気持ちだけで充分ですよ。私の住んでる所って危ない魔物とかもいますし、フィアラさんが来たら大怪我しちゃうかもしれませんから」
「……魔物。そんなに危険な場所に暮らしていますの~?」
「慣れればそこまででもないんですけどねー」
なんてことないように話すカトレアを見て、わたくしは彼女の強さに納得がいきました。
命を脅かす危険な存在が跋扈する世界で生きるカトレアが身を守るため、あれほどの力が必要だったのでしょう。
わたくしからすれば突出した強さを持つ彼女も、もしかしたら元の世界では普通ぐらいなのかもしれません。
「むしろ、帝国は平和すぎるくらいです! ここまで旅してきた間、魔物どころか野生動物にだってほとんど会いませんでしたし!」
「べラスティアでは魔物なんて見たこともないですからね~」
帝国内ではそういった類の存在は噂すらあまり聞きません。……ヴァンパイアはいましたが……他は少なくともべラスティアの領地にはいないと思います。
普通の動物は……多分陛下に恐れをなして近寄ってこなかったのではないでしょうか。
「……。ごめんなさい、カトレア~」
「? どうしたんですいきなり?」
急な謝罪の言葉に、彼女は頭に疑問符を浮かべています。
「あなたに楽しい想い出を作ってあげようと思ったのに、皇都があの調子ではどこに行っても楽しめそうもありませんから~……」
わたくしが現れた途端、民衆からはわたくしを称える声が上がっていました。
そこに悪意などもちろんなく、ただただ彼ら彼女らは新たなる皇帝を迎え入れてくれているだけなのです。
ですが……それはとても騒々しくもあります。あの環境では声も届くかどうか……何かを楽しむというのには、どうしても向かない状態だと判断しました。
だからこそこうして人の寄り付かないような場所まで足を延ばしたのですが。
「でも、こんな所でお話しするだけでは楽しくありませんわよね~」
「何言ってるんですかフィアラさん。私はフィアラさんと2人っきりでお喋りしてるだけでも素敵な想い出になりますよ?」
「……もう~、そんなことばかり言って~」
嘘やお世辞の類ではないようですが、ここまでついてきてくれた彼女への報酬がそれだけなんて、わたくしがどうしても許せないのです。
「お願いですからもっと、何か~……教えてくださいまし~! 行ってみたい場所とか、したいこととか~!」
「んー、あるけど、どうしようかな……」
「ありますのね! でしたらどうぞ言ってください~~!!」
「えぇー? ……私から言ってやってもらうのはなぁ……」
視線をそらし、ためらいがちに彼女は頬をかきます。カトレアからは言い出しづらい事なのでしょうか……。
と思ったのですが、少しして彼女はこっちを向いてくれました。
「それじゃあ、観光とかしたいです!」
「観光ですのね、わかりましたわ~~!! でしたら~……」
カトレアの望みを聞くことができました。すぐにわたくしはどこへ向かうべきか考え始めます。
やはり、記憶に強~く残るような名所へお連れすべきでしょう。べラスティアは広いですから、そういったものには欠かしません。
ただ皇都の名所以外に絞られます。加えて1日でお城まで戻れる範囲のもの。そうなってくると……。
自然、わたくしの知る候補は1つになりました。
「……よろしいですわ、我が家の誇る名所へご案内いたします~~!!」




