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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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聖剣の腕輪ですわ~!!

「……それで、突然こうなっちゃったんですか」

「はい~……」


 わたくしの声を聞いてカトレアは大急ぎで来てくれました。

 そして先ほど起こった事を伝えますと、自然とその視線はわたくしの腕へ注がれます。

 彼女が到着するまでの間に、聖剣の破片はぴったりと腕に巻き付いてアッシュが手にしていた時のような赤白い輝きを取り戻していました。


「とにかく、それは外しちゃいましょう。熱いですよね?」

「いえ、それが不思議と熱くはなくって~。ほら~」


 熱せられた鉄のような色合いですが、どういうわけか温度は感じません。反対側の手で触れてみても特にやけどしたりもせず、ただ光を発しているだけのようです。


「あれ、そうなんだ? ……んーでもあの聖剣アッシュ君を操ってたりしたし、フィアラさんもおんなじような目にあわせたりしそうだから一旦取り外して、うわあっつい!!!!」


 腕輪のようになった聖剣レゼメルを引き抜こうとしてカトレアが掴んだところ、ジジジと音がしたかと思うと彼女は弾かれるように腕輪から手を離しました。


「!? ど、どうしましたのカトレア~!?」

「び、びっくりしたぁ……。激烈に熱いじゃないですかフィアラさん、よく平気な顔で触れましたね……」

「そ、そう、かしら~?」


 わずかに煙が上がったりしましたので、腕輪に触れたカトレアの手は焼かれてしまったのかもしれません。

 ですがわたくしの方はなんの熱も感じはしませんし、腕輪を顔に軽く押し当てたりしてみるものの、やっぱり彼女のようにその身を焼かれる気配すらありませんでした。


「ちょ、フィアラさん!? そんなことしたら顔に痕が残っちゃいますよ!?」

「……やっぱりなんともありませんわ、どうなっていますの~?」


 わたくしの手を取ってレゼメルの腕輪を顔から離すカトレアでしたが、彼女が心配するような現象は何も起きていません。

 焼けた様子のない頬に目を丸くして、カトレアは自身の手でその感触を確かめに来ます。


「あんなにぺったりくっつけてたのに……やけどもないし、綺麗なすべすべのまま……? フィアラさん、本当にどうやったんですか?」

「それがわたくしにも分からなくって~……」


 わたくしには無害で、カトレアが触れれば見た目通りの高熱を発する聖剣の腕輪。

 どうしてこんな事が起きているのか不思議でしょうがないのはわたくしも一緒なのですが、その答えは持っていません。

 一体、これはどういうことなのでしょうか。


「ふぃ、フィアラ……。何かあったのですか」


 2人で顔を見合わせて首をかしげていた時、背後からその声が聞こえてわたくしはビクッとしました。

 振り向けば、今最もこの場へ現れてほしくなかったお母様がよろよろとお部屋の中へ入ってくるところだったのです。


「お、お母様~!? どうしてこちらへ~!!」

「あなたが、助けを呼ぶ声が、しましたから……。カトレアが行きはしましたけれど、じっとは、していられなく、うぅ」

「今1番助けが必要なのはどう見てもお母様ですわよ~! ほら、ベッドで横になってくださいまし~!」

「よ、横はちょっと。どこか、座らせてください……」


 わたくしの悲鳴を聞いて駆けつけてくださったようです。……この調子だと走りはできなかったかもしれませんが。

 その行動自体は嬉しいのですが、苦しい状況なのは確実にお母様の方です。腕輪になってしまったレゼメルの事は置いておいて、ひとまず彼女をベッドに腰掛けさせました。

 一応、腕輪が嵌ってしまった側の腕はお母様の視線から隠すようにはしましたが。


「あら、フィアラ、その腕は」


 しかし、完全には隠しきれなかったのか赤熱する腕輪の存在にお母様は即座に気が付いてしまわれました。


「その~……これはですわね~……」

「赤く、白く、熱された鋼のような輝き。……リズモール様の伝承に残された聖剣と近しいものを感じます。綺麗ですね、どこで見つけたのですか?」


 近しいどころか、そのものです。アルヴァミラ家のご先祖様ゆかりの品の面影を感じてお母様は食べ過ぎの苦しみも忘れて問うてきました。

 聖剣が砕かれてしまったなどと本当の事を言うわけにもいきませんし、どう乗り切るべきかと頭を動かし、カトレアに視線を送ります。

 ……が、それだけで全てが伝わらなかったのか、彼女は可愛らしくウインクしてきました。


「……フィアラ? どうしたのです、答えられないような品なのですか?」

「な、なんと言いますか~、……答えようと思えば答えられないわけではありませんのですけれど~」

「煮え切らない言い方ですね……。ともかく、その輝きはやはり素晴らしいです。少し触らせていただいても?」

「やめておいた方がいいですよお母さん、あんなの触ったら手が使い物にならなくなっちゃいます」


 どこか惹かれるものがあるのかレゼメルの腕輪に触れようとしたお母様の手を、カトレアが掴んで止めました。

 さっきがっしり触ってしまったばかりの彼女が言うだけあって迫真の説得力があります。……そんなに熱かったということは、彼女の手は無事なのでしょうか?


「……? どうしてですか?」

「あれはですね、触ると普通に外見通りの温度で焼かれちゃうんですよ。私もお母さんが来る前に触っちゃって、やけどしそうになったんですから」

「なるほど。……しかし、フィアラは平気そうなのですね?」

「そうなんですわよね~。やはり聖剣が焼く対象を選んでいたりするのかしら~……。あっ」


 どんな仕組みでわたくしだけが熱を感じないのか、そう考えていたらつい秘密にしておこうとしたことまでポロッとこぼしてしまいました。


「……聖剣?」

「あ、うう~」


 その単語をお母様が聞き逃すはずもなく、鋭く聞き返してきます。

 誤魔化しようのないまっすぐな視線がわたくしを貫き、もうこれ以上真実を伏せておくことはできそうにありません。


「フィアラ、何があったのか説明してください。詳しく」

「……お、怒らないで聞いてさいまし」

「内容次第ではありますが、善処します」

「では~、それに加えて気を失ったり絶望したり発狂したり泣いたりその他諸々もしないでくださると約束してくださいまし~」

「注文が多いですね……私は今から何を聞かされるのです?」

「フィアラさんの勇姿ですよ。そんなに構えないで聞いてあげてください」


 覚悟を決め、全てを明かそうとするわたくしの前置きに身構えるお母様でしたが、その肩をカトレアが優しく叩きました。

 そうですわね、今から語るのはわたくしが聖剣を砕き、アッシュを救い出して皇都を救った時の……。


「って、聖剣を破壊したのはカトレアではありませんの~!」

「えへへ、そうでした」

「……え、フィアラ? 今、なんて」


 流してしまうところでしたが、考えるまでもなく聖剣を砕いたのはカトレアの力でした。語るのはわたくしではなく、彼女の勇姿でしょう。

 もうすでに不意打ちで衝撃の事実をぶつけられたお母様が頭に鉄塊が叩きつけられたような表情をしていますが、わたくしは改めて紅蓮の聖剣レゼメルとの戦いの一部始終をお聞かせするのでした……。

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