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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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灰燼に手を伸ばす、ですわ~!!

「う、うう……食べ過ぎました」


 椅子にもたれかかりながらお母様は顔を青くして天井を見上げています。

 時間はお昼過ぎ、ちょうどわたくしとカトレアを含めた3人で昼食を食べ終えたところです。


「もう~お母様、無理して全部食べるからですわ~」


 少し前に厨房へお邪魔した後、すぐに時間は正午になりました。当然いつものお部屋で頂いたのですが……。

 お母様だけは変な時間に1人前のお料理を食べきってしまいましたから、苦しそうにしながら完食したのでした。

 その結果、今は瞳を閉じて限界まで膨らんだ胃の感覚に必死に耐えることに。


「途中でそうなる事も分かったでしょうし、無理せず残してもよかったのでは~?」

「……それは、いけません。折角作っていただいたものに、そんな勿体ないことは……」


 深くゆっくりと呼吸をしながらお母様は言いました。

 本日の食事もとても美味しかったです。それこそ母の気持ちも分かるくらいには。


「だからって、あんまり詰め込みすぎないでくださいましね~」

「ふふっ、フィアラさんのお母さんって可愛いところあるんですね」


 2人分の食べ物をお腹に詰め込んだお母様を見て、カトレアは微笑みました。


「可愛いと言いますか~……少々お恥ずかしいですわね~……」

「面目ありません……。ああ、陛下達がご不在で良かった、こんなみっともない姿、見せられませんもの」


 お父様とアッシュも陛下と共に帝国に潜んでいるかもしれない危険な方々を取り除くために同行しています。

 ラトゥとロズバルトは皇都に残っていますが、どちらもここにはいません。ラトゥは情報収集に励んで、ロズバルトも皇都の警備強化の指揮を執るために忙しくて城外にいるのです。

 早く2人の事もお母様に紹介したいものです。特にロズバルトは。


「夜にはオルフェット君のお料理が来るそうですから、それまでにはお腹を空かせておきましょうね、フォルトクレアさん」

「そ、そうですね。今から軽く運動でも……う、あ、……やっぱり、しばらくこのままで」

「……カトレア、お母様の事見ててあげてくださいまし~。1人だと辛いでしょうから~」


 呻くお母様にカトレアを付け、わたくしは席から立ちあがりました。


「いいですけど、フィアラさんどこか行くんですか?」

「ええ、そろそろ荷物の整理でもしようかな~、と思いまして。お母様は動けそうにないですし、今のうちに雑用を済ませておきたいんですの~」

「はーい、じゃあ私が必要になったら読んでくださいね」

「うう……カトレアさん、少し手を握っていてもらえますか……」

「はいはい、いいですよー。……よし、それではゆっくりと深呼吸してリラックスしましょう。吸ってー、吐いてー」


 わたくしより先にお母様からお呼びがかかってしまいました。

 まあ、ひとまずカトレアに任せておけば問題はないでしょうから、わたくしはお食事部屋から出ていくのでした。






「――さて~」


 食事部屋を出て、わたくしは寝室まで戻ってきました。

 そして私物を収めた引き出しを開け、そこから大きな袋を取り出してベッドの上に置きます。

 中からはカチカチと、小粒の金属のぶつかり合う音がわずかに聞こえました。


「これ、どうしましょうかしら~……」


 袋を開け、中身を確認しながらそう呟きます。

 そこには構成物不明の大量の金属片……紅蓮の聖剣レゼメルのバラバラになったものがぎっしりと詰まっていました。

 わたくしが皇都へ戻った際の激しい戦闘の末に破砕されたものですが、いまだにどうやってお片付けすべきか悩んでずっと預かっていたのです。


「万が一にでもお母様には見せたくないですし、やっぱりどこかへ捨てるべきですわよね~……?」


 もはや剣だったどうかすら定かでないそれを見ながら、わたくしは呟きます。

 なんとかうやむやにはしましたが、またすぐにレゼメルをわたくしに与えようとしないとも限りません。

 そして何かの拍子にこの破片を見たお母様がこれを聖剣レゼメルだと悟ってしまえば、どれほどの衝撃を受けることか……。

 今はお城の外に出られませんし、すぐにはどうにかできないにしてもせめて廃棄方法ぐらいは先に考えておきたいのです。


「あんなことになってしまったわけですし、その辺りに捨ててしまうわけにはいきませんし~」


 弟の精神を操り、多大な被害を引き起こした聖剣を他の鉄くずのように廃棄するのは気が引けます。

 特に何の反応もないとはいえ、元は人格のようなものすらあった剣です。誰かが復元でもしてしまえば同じような事件が起きないとも限りません。


「……では元あるべき場所へお返しするのが自然、ですかしら~」


 聖剣が眠っていた地、アルヴァーン大火山への返納。やはりこれが丸いでしょう。

 そのお返しする聖剣が原型を留めていないのはリズモール様に申し訳ないですが、まあ野ざらしにしてしまうよりは誠意があると思いますし……。


「ん、やはりそうですわ、陛下が戻ってきたらお母様には見つからないようこっそりレゼメルをお返しにいきましょう~」


 わたくしは頷き、聖剣の破片をどうするかについては方針が固まりました。

 とはいえ今からはできませんし、しばらくはこれがお母様に発見されないよう厳重に隠しておきませんと。

 そう考えながら袋を持ち上げた時、ビッと嫌な音がしました。


「!? あわわ、聖剣が~~!?」


 破片が内側から袋に傷でもつけてしまっていたのか、持ち上げた拍子に広がった裂け目から聖剣のかけらがベッドへぶちまけられてしまいました。


「い、いけませんわ~! 急いで戻しませんと~……!!」


 慌てて、わたくしはレゼメルの破片を拾い上げていきます。お母様はまだこちらに来ないでしょうが、放っておいて怪我でもしたら大変ですから。

 しかし粉々に砕かれた剣のかけらを集めるのは至難の業です。よく見ないと見えないものもあるくらいには細かいですし、いくつかベッドから転げ落ちていったものもあります。

 カトレアを呼んでしまおうかとも思いましたが……流石にわたくしのミスの後始末を手伝っていただくのは申し訳ないので、自分で全て回収するしかありません。


「うう~……。ど、どうか1か所に集まってくださいまし~……!」


 叶わぬ願いをぼやきながらも代わりの袋を用意してかけらを集めていきます。

 比較的形を留めていた聖剣の柄らしき部分を手に取り、そのまま袋の中へ。


「……。……ん~?」


 手に違和感を覚え、わたくしは自分の手を見ました。

 するとなぜか放ったはずの柄がぴったりと、手袋に張り付くように残っていたのです。


「えっ!? 大変ですわ、どこかに引っかかってしまったの~!?」


 カトレアからお借りしている大事なものに傷でもつけたら大変です。すぐに外そうとしたのですが……。

 不思議なことに手袋に引っかかっていたわけではなく、軽くずらそうとしてみると何の抵抗もなく動いたのでした。

 ただ、それでも聖剣の柄は落ちたりもせず、ずらした先の手首にまだ張り付いています。


「……ど、どうなっていますの~?」


 手袋ではなく、わたくしの体に吸い付いているようなそれはとても奇妙です。

 ですがそれはそれとして片付けも忘れるわけにはいきません。変な感じはしますが、特に動くのに支障もないのでまずは聖剣の破片のお掃除を再開することに。


「あぁ~……やっぱりこんなところまで転がっていったのですね~」


 ベッドの下を見ると、奥の方にきらきらした金属片がいくつか見えました。

 手を伸ばしてみますが、ちょうどひと間隔空いた場所に落ちていて、届きそうもありません。


「仕方ありません、何かあそこまで届きそうなものを~、えっ!?」


 諦めて手を戻そうとしたその時、落ちていた聖剣の破片がこちらへ飛んできたのです。

 それは柄と同じく、なぜかわたくしの腕にぴったりと張り付いたのでした。


「~……。これは、もしかして~」


 腕にくっついた破片を見て、わたくしはあることに気が付きました。

 それが正しいかを確認するため、ベッドに残った破片へとわたくしは柄のくっついている側の腕をかざします。

 すると、先ほどと同じように聖剣の破片が浮き上がり、わたくしの腕に張り付いたのでした。

 たくさんの破片が密集し、まるで腕輪のように纏わりついています。


「……! やはり、わたくしの思った通りですわ~!」


 まるで吸い込まれるようにわたくしの腕に集まった聖剣の破片たち。なぜこんなことが起きたのかといえば簡単な事。

 聖剣はわたくしの願いを聞いていたのでしょう。1か所に集まってほしいというその願いを聞き届け、こうして……。


「……ということはこれって、まだレゼメルには意識が残っているから大変に危険な状態~……?」


 それに気づいた時には更に聖剣の破片が集まり、回収済みだったものを含めて全部わたくしの腕に張り付いてきました。


「か、カトレア~~~~~~!!!!」


 ひとところに集まったレゼメルは徐々に聖剣だった時のように赤熱した色合いを取り戻していき、そこでようやく緊急事態だと気付いて彼女を呼ぶのでした。

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