その一皿に情熱を込めて、ですわ~!!
「味に関しちゃあ問題のない範囲だ。極めたってのにはまだまだ遠いが、若いだけあって物覚えが良い」
料理長すら認めさせるほど、オルフェットの成長は著しいようです。……また贔屓目に見ているのではないかとも思いますが、流石にカトレアとお母様までうならせたのですからそういうのは抜きで考えます。
「だが、手際はまだまだ歳相応って所だな。分量、火加減、全部きっちり守ってはいるが、複数の事を同時にやれねえからその結果」
「お料理が冷めてしまう、と~」
彼の課題も料理長の言から察せました。
動作は丁寧ですが、その分一皿ごとに時間をかけてしまうのでしょう。
そうして美味しい料理が完成してもわたくしの元へ運ぶ前に冷たくなってしまう、といったところでしょうか。
「そういうわけだ。坊主は「美味しく料理を食べてもらいたい」って言ってたからな、冷めたスープも、脂の固まった肉もまだあんたに喰わせるわけにはいかねえんだ」
頷き、料理長がオルフェットに視線をやります。
彼もダルクバルクとは同じ思いなのか、悔しそうにしながらも小さく首を縦に振りました。
「……はい、僕の腕ではまだ、フィアラ様の元へ届けられる食事を作れそうにないんです」
「そういうことだったのですね~……」
オルフェット自身も納得はしているようです。お料理を温かいままお出しできるようになるまでは、わたくしには食べさせたくなさそうでした。
……でもちょっとくらい冷めてても、わたくしは気にしないのですけれど……。
「言われてみれば、私の飲んだスープ、味は良かったですが少々温度は低かったですね」
「パンはあのままでもいいと思うなぁ。焼きたてだったら嬉しいですけど、普通に温め直せばいいだけですし」
オルフェットの料理の問題点を知り、2人も思い思いの感想を述べています。
味には申し分ないみたいですから、あとは速度だけですね。
「では、これからオルフェットは素早くお料理を完成させる修業が必要なのですね~」
「はい、頑張ります。待っててくださいフィアラ様! 今は時間をかけてしまっていますが、必ず熱々の料理をお届けできるくらい素早くなってみせます!」
「ふふっ、楽しみにしておりますわ~」
そう意気込むオルフェットに、わたくしは微笑みました。
安全で、なおかつぬくもりを感じる食事がわたくしの元へ届くのにはまだまだ時間がかかりそうですが、それがやって来る日を待つことに……。
「……? オルフェット君、それって温め直せばいいだけじゃないです?」
と、そこにカトレアがそんな事を言ったのでした。わたくしもオルフェットも、お母様や、話を聞いていた厨房の方々は全員目を丸くしました。
「え、あの、カトレア様。温め直すって、どういう……?」
「もう、そんなの聞くまでもないじゃないですか。冷めちゃったらあっためて食べれば熱々にできますよ?」
「それはそうなのでしょうけれど、肝心の温めはどうやりますの~!? ……あ、蒸したりするんですの~?」
「おいおい、そんな事したら折角の料理が蒸気でビシャビシャになっちまうだろ! 熱は戻るだろうが、間違いなく味が落ちるぞ!」
パッと思いついたのはそんな方法だったのですが、料理長から直々に否定されてしまいます。
美味しい料理を温めるためにまずくしてしまっては意味がありませんものね。
対するカトレアはどんな顔で聞いているかと思えば、料理長の剣幕を見てもすごく平然としていました。
「ふふん、問題ありません」
「ほほお、それじゃあ余計な水分も付けずに冷えた料理に熱を取り戻せるって言うんだな?」
「もちろんですとも。なんてったって私は魔法使いですからね。あ、それ貸してください」
自信ありげに言うと、カトレアは料理長が手にしていたスープ皿を引き取りました。
そうして彼女は自身の腕を黒鉄の触媒に変化させて、その掌の上にお皿を乗せます。
手の甲に当たる部分へ埋め込まれている宝玉がきらめき、何らかの魔術が発動しているようです。
「……はい、どうぞお母さん。もう1回飲んでみてください」
「っ、これは」
コトリ、とお母様の前に置かれた器の中からはいつの間にか湯気が立ち上り始めていました。
同時にふわりとスープの香りがわたくしの鼻にまで漂ってきます。野菜が蕩けるまで煮込まれたのか、微かな甘さを感じる芳香は食欲を刺激してくれます。
「……素晴らしい、先程以上にスープの味をしっかりと感じられます! 冷えていても十分な味でしたが、熱を帯びる事によってようやくの「完成」を迎えたと言った所でしょうか」
「なっ!? あの一瞬で熱を戻せたってのか!」
感嘆の声と共にスープを味わうお母様を見て、料理長は慌てた様子でスープの器に手を触れました。
「……驚いた、こりゃあまるで出来たてだ。さっきまであんなに冷めきってたってのに」
「完璧でしょう? よーし、それじゃあ他のも温め直しちゃいますよー!」
そう言ってカトレアは次々と冷たくなってしまったお料理を温めていきました。
失われた熱を取り戻し、どれもこれもほかほかに湯気を立て始めます。
「まあ、お肉も脂身が溶けてぷるぷるになっています! やはり肉料理は温かくあってこそですね!」
「どうですオルフェット君? これでフィアラさんにあったかいごはんを届けられるようになりましたよ?」
「あ……! そっか、カトレア様は炎の魔術が使えるんでしたよね。アッシュさんもそうだし……2人にお願いすればよかったんだ」
「オルフェット君が上達するまでは、ですけどね。1番いいのは人の手を借りなくても美味しい食事を作れるようになる事なんですから」
時間がかかるかと思われたオルフェットの料理の完成ですが、カトレアの手によってそれは一気に解決しました。
やっぱり、魔術が使えるって便利なんですね。アッシュも炎の魔術が扱えるわけですし、彼女のように日頃から何かに活用してたりするんでしょうか。
「それにしても、よかったですわねオルフェット~。これであなたの作った美味しいお食事、わたくしも味わえますわ~」
「はい! ……って言っても、僕は僕でまだまだ修行はしないとですけど。それはまた別で頑張ります」
嬉しそうに頷く彼に、わたくしはなんだか温かい気持ちになってきたのでした。
「じゃあ早速、フィアラ様も食べてみてください! 問題も解決できたし、これならいいですよね、料理長!」
「そうだな。……って言ってやりたかったが、それは無理そうだ」
「えっ……」
円満解決、かと思いきやダルクバルク料理長は首を横に振りました。
冷めてしまった料理を温める方法も見つけ、何も障害はなくなったはずですのに、どうして……?
「そ、そんな~! 料理長、この上で何がご不満ですの~~!?」
「いや不満っつーかなあ、無いものは喰えないだろ」
「無い~!? なにを仰いますの、お料理はここにあるじゃ~……」
テーブルへと目を向けると、そこにはいつの間にかからっぽになったお皿の数々が。
見れば、お母様が最後のお皿に残されていたパンを手に取った瞬間でした。
「……。あっ……フィアラ」
「お母様~……?」
「ご、ごめんなさい……美味しくって、つい」
わたくし達が話している間に、お母様はオルフェットの作ったお料理を全部食べてしまったようです。
じと~っと目を向けるとお母様はわたわたして、しばらく迷った末にその手に持っていたパンを差し出してきました。
「た……食べますか?」
「……いただきますわ」
そう言って、わたくしはオルフェットの焼いたパンにかじりつくのでした。
それは、ついつい全部食べたくなっても仕方のない味がするのでした。




