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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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料理人オルフェットですわ~!!

「見てくださいフィアラ様、全部僕が作ったんです!」


 オルフェットはそう言ってテーブルの前にわたくし達を連れてきました。

 そこにはパンと、スープと、お肉の料理、サラダなど……1人前のお食事が並べられていました。


「これ、全部オルフェットが~……?」


 思わず、わたくしはそう尋ねます。

 どれもこれも、子供が作ったにしては見た目も美しくて、とても美味しそうだったのです。

 そんな考えが顔に出ていたのか、オルフェットは嬉しそうな顔で頷きました。


「はい! 料理長や他の先輩方にたくさん教えてもらいました!」

「……! まあまあ~! オルフェット、頑張っていらしたのね~!!」


 厨房で働くことになってから、彼はサボったりなんてしていなかったのでした。

 きっと、わたくしが知らない所で一生懸命周りの方からお料理を教わって、めきめきと腕前を上げていったのでしょう。


「……フィアラ様に、食べてほしくて。できるだけの力を尽くしてるんです」

「え、わたくしに~?」


 わたくしのために努力したと言われ、思わず驚きました。


「フィアラ様の食事に毒が入れられないようにするなら、僕が全部作れるようになれば1番簡単かなって思って。これなら全ての料理に変なものが入ってないか、確認しやすいじゃないですか」

「そのためにここまでお料理上手になってくださったのですね……感動ですわ~~!!」


 陛下からの命も忘れず、彼はしっかりとお役目を果たそうと奮闘してくれていました。

 さっきまでオルフェットが真面目に働いてくれているか不安がっていたのが恥ずかしくなるほどです。彼は決してそんな子ではなかったのですから。


「それに……僕の作った料理、美味しく食べてくれるフィアラ様の顔、見たくって」


 照れ笑いと共に、彼はそうわたくしに言ってきます。


「あらあら、それではわたくしも是非あなたのご期待に応えて差し上げなくてはいけません~」

「おっと、待ちな。フィアラさんよ、悪いがそれをアンタに喰わせてやるわけにはいかねえ」


 そんなタイミングで折角立ち寄ったのですから、と席についてわたくしも口を付けさせてもらおうとしたのですが制止の声がかかりました。

 それはこの厨房の料理長、ダルクバルクからでした。


「えっ、なんでですの~!? オルフェットはわたくしのために作っているのでは~!?」

「だからこそだよ。ここは厨房で、その坊主もここで働く料理人の1人だ。半端なモンは決して人には喰わせられねえ」


 彼のお顔は険しく、まるで譲る気がないようです。決して、ここに並べられた料理には欠片も触れさせない、という気概を感じました。


「は、半端なのですか~? こんなに美味しそうですのに~……」

「いいや、とてもじゃねえが人に出せはしない。こんな不良品じゃあまだまだフィアラさんに提供できるレベルじゃねえよ」


 以前にお邪魔した時とは別人のように厳しい目線でオルフェットの料理を見る料理長。それだけでなく、テーブルを囲んでいた他の料理人の方々も意見は同じようでした。

 やはり、いかに彼の事を気に入っているとはいえ料理人としての矜持ができの悪いものを他者へ供する事を良しとしていないのかもしれません。

 ……でも、と~っても美味しそうに見えるんですけれど……。


「あなたが料理長なのですね。私の目からは人にお出しするに足る品質かと思いますが……なぜそれがフィアラには食させられないと?」

「そいつは、喰ってみれば分かるさ」

「ですわよね~。……では、今度こそわたくしが味見を」

「あんたは駄目だ」

「ああ~~~~そんな~~~~!!」


 直接どこが悪いのか確かめようと思ったのですが、案の定料理長にブロックされてしまいました。


「フィアラさん本人が駄目なら……私とフィアラさんのお母さんは味見してもいいってことです?」

「ま、それならいいだろう。坊主が喰わせてやりてえのはあんたらにじゃねぇしな」


 カトレアの確認に料理長は肯定しました。……いいなあ、2人共。


「か、カトレア~! お母様~! どんなお味かちゃ~んとわたくしにも説明してくださいまし~!」

「任せてくださいフィアラさん、食べ物の感想とかあんまり言った事ないけど、できるだけ精密に伝えてみせます!!」

「フィアラ、それって余計に食べたくなるだけなのでは……」


 2人はテーブルに着き、早速オルフェットのお料理を口に運んでいきました。

 カトレアはパン、お母様はスープです。


「……わ、もちもち。ダルクバルクさんがあんなに言うからガチガチだったりパサついてたりするのかと思ったけど、美味しいじゃないですか。ジャムとか欲しいなあ」

「スープも……透き通るような琥珀色で、一口飲んだだけで野菜の甘みや鶏肉の旨味がしっかりと溶けだして混ざり合っているのを感じられます。これがレストランで出されていても文句は付けなかったでしょう」


 どちらも、想像以上に美味である事に驚きながら感想を伝えてくださいました。

 ……聞いていたら、なんだかお腹の辺りが食べ物を求めるようにキュッと動きます。

 そして、お母様は改めて料理長へ顔を向けます。


「やはり、何故これが及第点にすら達していないのか不思議でなりません。料理長、説明を求めても?」

「説明も何も、今味わってもらった通り。問題は」


 簡単な事を指摘するかのような前置きと共に、彼はお母様が飲んだスープの器を手に取ってみせました。


「温度だ」


 料理長が告げたのは、味ではなくもっと別の視点からの言葉だったのです。

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