彼との出会いですわ~!!
「それで、そのオルフェットという子とはどこで知り合ったのです?」
厨房へ向かう途中、お母様はそんなことを聞いてきました。
どうやら興味は聖剣からそちらへと移ってくれたようで、わたくしとしてもひと安心です。
「家を出たその夜ですわ~。皇都から出た後、盗賊に襲われてしまいましたの~」
「盗賊! ……皇都周辺とはいえ、やはりそういった悪漢は帝国にもいたのですね」
「私が全部返り討ちにしちゃいましたけどね。フィアラさんはしっかり守りました!」
拳を胸の前に掲げてカトレアがお母様へ自慢げに言います。
あの頃は特にカトレアに助けられていましたね、懐かしいです。彼女がいなければ今のわたくしはなかったでしょう。
「なるほど、それではその時にオルフェットと?」
「そうですわ~。カトレアが盗賊達を全滅させて~……えっと、その、盗賊に襲われたわけなのですが~……彼が、生存しておりまして」
話題が変わったのは良かったのですけれど、よくよく考えればオルフェットはあの盗賊達の一員だったのを思い出しました。
彼は悪い子ではないのですが、もしかするとそこを話してはお母様に悪い印象を与えてしまうかも、と気付きます。
なんと説明したらいいものか悩み、恐る恐るお母様のお顔を伺いながら言葉を続けたのですが……。
「! あの子は盗賊に襲われた中の生き残りだったのですか……!」
「そ……そうですわ~! 襲われて、彼だけが無事だったのは、事実です~……」
比較的いい方向に勘違いをなさっていたようでした。
少し申し訳なく思いますが、悩んだ末にその勘違いを利用させていただくことにしました。
なんだか騙しているような気もしますが……で、ですが嘘は言っていません。カトレアの魔術に襲われ、そして盗賊達の中の唯一の生存者なのは偽りなき真実ですし……。
「なんてことでしょう、あの子にはそこまで辛い過去があったのですね……」
「あー、そういえばオルフェット君、両親も亡くしてるんでしたよね」
「まあ……! 家族を奪われてしまっているのですか!?」
ご病気で、なんですけれど。カトレアの補足に驚きを見せたお母様ですが、間違いなく「盗賊に奪われた」と思っていそうな反応です。
「なんと惨い事ですか……。これは彼には優しく接してあげなくてはいけません」
「……そうしていただけると、わたくしも嬉しいです~」
やや思い違いも混じっていますが、わたくしに負けずオルフェットが過酷な経験を送ってきたのは本当です。仲良くしてくださるというなら、わたくしから言う事はここまででいいでしょう。
そんな事を話しながら、ようやくわたくし達は厨房へのドアの前にやってきました。
「大丈夫でしょうか、フィアラ。随分と小さい子ですし、彼は虐められたりしてはいませんか?」
「おほほ、それは心配御無用でしてよ~! オルフェットは皆様から愛されていますわ~!」
かすかに食べ物の匂いが漂ってくるドアを前に、お母様はそんな事を気にし始めました。
わたくしも似たような事を心配していましたが、実際はその逆。オルフェットは厨房の料理人の方々から大層気に入っていただけていました。
年上の方に愛されやすい体質なのかとても厳しそうな料理長からも優しくされていましたので、お母様の考えは杞憂なのです。
「そうなの? ……それを聞けて安心しました」
「まああの感じだとちやほやされすぎてだらけちゃってないかは心配ですけど。みんなしてオルフェット君のお仕事とか代わりにやってそうじゃないです?」
「そ、それは心配ですわね~……!」
確かに、カトレアの言う事にも一理あります。
以前見た限りではオルフェットに対する彼らの扱いは手厚い、手厚すぎると言ってもいいほどでした。お庭に遊びに来た子猫くらいに。
わたくしであればきっと本来のお仕事も忘れてただただ流れのままに甘やかされ続けてしまう自信がありますし、彼がそうなっていても不思議ではありません。
「そ、そうなっていては流石にちょっぴりお叱りするしかありません~……! 心苦しいですが~!」
陛下から託された役割を忘れてしまっているなら、いくら子供とはいえそれは正さなくてはいけません。
「……でもできれば真面目に働いていらして~!」
しかしあんまり人を叱る経験なんてしていませんので、本当の所はやりたくないです。
今度はわたくしの方がお母様のように不安を感じながら厨房へと入っていくのでした。
「あ、またあっちの方にいますね」
厨房に入り、カトレアが真っ先にオルフェットを見付けたようでした。前に彼がいたのと同じ、部屋の奥側にあるテーブルです。
「……また味見をさせてもらっているのかしら~?」
「毎日あの量食べさせられてたら太っちゃいそうですよねー」
前回は味見どころかしっかりとした食事の量をお出しされていたのですが、今日もそんな感じなのでしょうか。
これはやはりオルフェットはきちんとお仕事ができていないのでは……と思ったのですが、なんだか以前とは雰囲気が違いました。
お料理中の方々のお邪魔をしないようにしながら奥の方へと進んでいくと、段々とテーブルの周囲には張り詰めた空気が漂っているのを肌で感じたのです。
「ふぃ、フィアラ。なんだかあの人達、顔が怖いのですけれど」
「あら~……? おかしいですわね、前はここまで緊張感ある雰囲気ではなかったはずなのですが~……」
「……! フィアラ様!」
その重圧の中心、複数の料理人に囲まれたオルフェットはわたくし達の存在に気が付いたのか手を振ってきました。
直前まで彼もこわばったお顔だったのですが、わたくしを見るやパッと明るくなります。
彼らの間を潜り抜け、オルフェットはわたくし達の前にやってきました。
「また来てくれたんですね!」
「え、ええ~、どうしているか気になりまして~。……ですが、随分と重苦しい空気でしたのね~」
感じたことを素直に告げると、彼は照れくさそうに微笑みます。
「……えへへ、実は料理長達に味見、お願いしていたんです」
「味見を、ですの~?」
想像とは反対の事を言われ、わたくしは彼の言葉を繰り返しました。




