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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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死の影ですわ~!!

「フィアラさん、ご両親と仲直りできましたね。良かったぁ」


 お母様とのやりとりを見ていたカトレアはそう言って笑顔を見せてくれました。


「カトレアも協力してくれたおかげですわ~。わたくしだけだったらお話を聞いていただけたかも難しかったでしょうし~」


 彼女にわたくしはそう返しました。

 今はしっかりと言葉を交わせているものの、カトレアが多少強引にでも2人を聞く姿勢にさせてくれてからこその結果でもあります。

 自分は関係ないかのように言い方ですが、そういう助力もあっての和解だったと思うのです。


「そんな、お手伝いはしたけど結局はフィアラさんの言葉が響いたんですよ! 私は関係ないです」

「またまた~、そんなに謙遜して~」

「本当ですよ! 私も両親とは喧嘩しちゃった事もあるけど、仲直りまではできてないですし」


 えへへ、と苦笑しながらカトレアはそう言いました。

 自分自身が両親との悪感情を解消できていないからか、わたくしの力になってくれたとまでは思っていないようです。


「そんな事関係ありませんのに~。カトレアの手助けあってこその結果ですのよ~?」

「……まあ、フィアラさんがそこまで言うなら、ちょっとだけ、そう思っておきます」

「ええ、ありがとうカトレア~。……あ、そうでした。これ~」


 そこで思い出したようにわたくしは彼女からお借りしていた手袋を返しました。


「え、フィアラさん、これ」

「わたくしはともかく、このまま付けていたら汚してしまうかもしれませんから、お城に戻るまではお返しさせてください~」


 まだ火傷の痕が残ってしまっているものの、お母様と触れ合っていると泥や砂が付いてしまうかもしれません。

 彼女にとっては大切なものだそうですし、こちらは汚してしまうわけにもいきませんからね。


「律儀だなー。別にそれくらいだったら私も気にしないんですけど」

「大切な想い出が詰まった品なのでしょう~? わたくしの方が気にしてしまいますわ~!」

「そうですか。じゃあしばらく預かってますね。……わ、あったかーい」


 本来の持ち主に戻った手袋を嵌めてカトレアは嬉しそうにしています。


「フィアラ……!? どうしたんですかその手の火傷は!?」

「あっ~。……その~、詳細は省くのですけれど~……誤って火の中に手を突っ込んでしまいまして~」


 わたくしの手を見てお母様は大慌てです。

 詳しく話してしまうとアッシュが聖剣レゼメルに操られていた事や、その聖剣を破壊してしまった事についても触れなくてはいけないかもしれないので、大雑把な説明のみです。

 アッシュも気まずそうな顔をしていますので、ひとまず話を変える事にしました。


「それより~! お2人と冷静に話し合えたのはリグレットが割り込んでくださったのも一役買っていますわよね~! 感謝しておりますわ~!」


 唐突ながらもそう言って彼の方に話題を振ります。

 強引さもありましたが、あの場面でリグレットがお母様に打たれた事も確かに効果が……。

 しかしリグレットはわたくしの言葉が聞こえていなかったのか反対側にお顔を向けていました。


「あら……リグレット~?」

「……ラグレイズ、そちらはどうだ」

「――4人ほどかと」


 真剣な声色で、しかしわたくしではなくお父様へ何事かを確認しました。


「へ、陛下~……? どうかなさいまし……」


 ただならぬ雰囲気を感じ、問いかけてみたのですが。

 その時、わたくし達の前に4人の人影が前方の道へ立ち塞がるように姿を見せました。

 いずれも陛下と似たような恰好をしていて、男性か女性かも分かりません。


「あ、あらあら~……これって、もしかして~」

「――フィアラだな」


 低い声色でそう問われて嫌な予感がしたのと同時、背後からも複数人が飛び出してくる気配が。

 同時にわたくしの視界に立つ方々の外套が捲れ上がり、その手に握られている小型の弩がこちらへ向けられているのが視界に入ります。


「ラグレイズ、貴様は前だ!!!」

「死んでもらう」


 陛下の絶叫と共にお父様が道の先にいる4人からわたくし達を守るように立ちはだかりました。

 彼らの告げた言葉に、刺客である事を理解するのと同時にアッシュもお父様と共に敵を排除すべく魔術を行使し始めます。


「……え、今です!? 待って、手袋を」


 そんな中、いきなりの敵襲にカトレアは初動が遅れてしまいました。

 わたくしが手袋をお返しした直後だったのもあって脱ぐのに手間取ってしまったのです。

 しかしそれを待ってくれるほどに甘くもなく、一斉に弩の引き金が引かれて矢の射出される音が。


「っ! お母様!」

「あ、駄目ですフィアラ様!!」


 アッシュとお父様が矢ごと4人の刺客を焼き払いますが、その内の1本がお母様の元へと飛んでいくのを見てしまいました。

 オルフェットの制止も聞かず、気が付いた時にはわたくしはその脅威から母を守るべく、抱きしめてかばったのです。


「いっっっ……」

「……え!? カトレア~!?」


 そして、そんなわたくしを更にかばうようにカトレアが自らの腕で弩の矢を受け止めたのでした。

 容易に袖を貫通し、じわりと赤く染みが広がり始めています。

 すぐにそれを引き抜き、痛みをこらえるような表情で手袋を外しました。


「出遅れた、けど一応仕事はできましたね……!」

「な、何をしてますの~! 血が出ていますわ~!!」

「えへへ、何してるはお互い様ですよ。それに私ならこれくらい」

「馬鹿め……その弓矢には毒が塗ってあるのだ!」


 アッシュ達の炎魔術から逃れた刺客は笑いながら再び矢を装填しようとします。

 しかしそれが放たれる前に2人によって焼却されました。


「毒……!? か、カトレア~~!!」

「……私は大丈夫です。こういうの効かないので」


 痩せ我慢なのかそんな事を言い出す彼女。そんなはずが……とすぐに顔を覗き込んだのですが、本当に平気なのかいつもと変わらない顔色でした。


「――姉さん、母さん! 無事!?」


 敵を片付け、アッシュがお父様と共にこちらへ戻ってきました。


「! カトレアと言ったな。まさか毒矢を?」

「あ、平気です平気です。私には毒とかあんまり意味ないんですよ、お義父さん」

「……冗談を言う余裕もあるようだ、無事という事で良さそうだな」


 笑いながら言うカトレアに困惑しながらも、ひとまず被害がない事にお父様は安心したようです。

 お母様やオルフェットも怪我をしていないのを確認し、アッシュは顔を上げました。


「そうだ、陛下は!?」

「皇帝さんは心配しなくても良さそうですけど」

「……まったく、酷い言いようだな。それと、今はリグレットだ」


 素っ気なく言うカトレアに呆れながらリグレットも戻ってきました。

 その後方を見れば、アッシュとお父様が相手にしていた数の3倍以上はある人数が横たわっています。

 これは流石にリグレットでも危うかったのでは……と思いましたが、身体の前面にはまるで負傷の痕は見られません。


「……やっぱり心配いらないじゃないですか」

「おいおい、じきに退位するとはいえ皇帝だぞ。事実とはいえ少しくらいは……おっと、今はリグレットだったな」


 自分で決めていた設定を忘れかけて彼はそう言いました。

 わたくしも対峙していた数を知ると無事を案じたくはなりましたが……掠り傷すら見受けられませんし……。


「フィアラもか。やれやれ、多少剣の腕が立つとこういう時には損だな」

「ごめんなさい、つい~……。多少……?」

「ふう……。さて、少し疲れたな。悪いがフィアラ、少し休ませてくれ」

「え? はい~……って、陛下~!?」


 そう言うと陛下はわたくしにもたれかかってきました。

 急すぎてビックリします。確かにあの人数相手に単身で戦うのは大変な事かもしれませんが、こんな道のど真ん中でだなんて。


「あー! 何してるんですかちょっとー!!」

「へ、陛下~……? ここでは流石に往来もあるでしょうし、もう少し別の場所に~……」


 声をかけますがもう体を休める体勢に入ってしまったのか返事がありません。

 仕方がないのでどこか日陰にでも引っ張ろうと考えて背中に手を回します。

 その時、わたくしの手になにやら尖ったものが当たりました。


「あら、背中になにかくっついていましてよ~」


 摘まみ上げてみると、それは細長い棒でした。

 金属製のそれは半分ほど赤く染まっています。……あれ、なんだかついさっき見かけたような……?


「ってこれ毒矢ですわ~~~~~~!!!!!!」


 陛下の背中には、刺客が放ったと思われる毒の塗られた矢が複数本刺さっていたのでした。

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