お宝いただきですわ~!!
「んま~、ピッカピカですこと~!」
オルフェットの入っていた盗賊のアジトを壊滅させ、彼をわたくしの仲間に加えた後。
あれから陽が昇りまして、わたくしたち3人は近隣の町まで辿り着く事ができました。
荒れているといいますか、とっても暗い印象で寂れた場所でしたが、宿を発見したわたくしたちはそこでようやくカトレアが持って来た袋の中身を見せてもらえたのです。
「かなり悪い事して貯めこんでたみたいですね」
大きな袋には沢山の硬貨や高価な装飾品の数々。盗賊達が人々から略奪してきた物でしょう。
「これ、全部お金……?」
「そうですね、当面の私達の活動資金って事になるかと」
「あぁ~……これわたくし達が使っちゃうんですのね」
「気にしちゃだめですよ、どうせ持ち主にはもう返せないですし」
洞窟の中で何を見てきたのか、カトレアはそう言います。
抵抗感もありますが、人を襲った盗賊をやっつけた報酬と考えて使わせていただくしかないでしょう。どうせわたくし達にはお金なんてありませんでしたし。
「フィアラさんも疲れたでしょうし、今日はここで1泊していきましょう」
「そうですわね、長い事歩き続けて疲れましたわ~……」
とにかく、これでようやくわたくしは休む事ができます。
家から追い出され、腕を負傷して、それからカトレアと一緒に皇都からもだいぶ離れた場所までやってきて、オルフェットと出会って……実に波乱に満ちた1日でした。
はっきり言って限界です。わたくしは一刻も早くベッドで横になりたいと思っております。
「はあぁ~、やっとゆっくりできますわ~」
宿屋の部屋に入ったわたくしはすぐさまベッドへ体を投げ出しました。
アルヴァミラの家で使っていたベッドよりも硬いですけれど、怪我をして足も悲鳴を上げていたわたくしには天国へ到達できたかのような気分でした。
「2人で寝るにはちょっと狭いかもしれませんね」
「そうですわね~」
手足は伸ばせますが、それはわたくしだけで使う場合。もう1人寝所を共にするとなれば流石に手狭でしょう。
しかし問題はありません。だってここで眠るのはわたくし1人なので……?
「……あの~カトレア? なんでここにいらっしゃいますの?」
そこで顔を上げると、わたくしの隣でカトレアがベッドに腰掛けていました。
「え、フィアラさんと一緒の部屋に泊まるからですけど」
「……初耳ですわ~! でもさっき受付で複数お部屋を借りてませんでしたこと!?」
「オルフェットとは分けて借りました。女の子と一緒じゃ落ち着かないかなって思って」
「でしたらカトレアも別室をもう1つ取ったらよかったのではなくって……?」
「でもお金も有限ですし、少しでも節約した方がいいじゃないですか」
「そう言われてみるとそうですわね」
確かに、大金を得られたとはいえそれもいつまでも続くものではありません。
少し驚きはしましたが、最低限の部屋数で納めるのはそういった面では大事かもしれませんね。
「というわけで、お邪魔してもいいですか?」
「仕方ありませんわね。いらっしゃいな、重い物を持ち続けてお疲れでしょう?」
わたくしは毛布の中に誘い込むようにカトレアを迎え入れました。
素直に潜り込んできた彼女の手を握り、労うようにさすってあげます。
「あれくらいじゃ疲れません。……けど、こうしてもらえると嬉しいですね」
体力は多いのか、カトレアは平気そうでしたが照れるような笑みを見せてくれました。
そうして、もう片方の手をわたくしの方へ伸ばし、今度はわたくしの腕を撫でてきたのです。
「昨日は、乱暴な事しちゃってごめんなさい。傷は塞げましたけど、痕が残っちゃうと思います」
そこは昨夜の、カトレアと出会った時にできた傷のある場所。もう痛みは引きましたが、確かに目立つ傷跡があります。
「いいんですのよ。ああしないと血を流しすぎて死んでいたかもしれませんし。もう痛みもありませんし、むしろ感謝していますわ」
「……えへへ、そう言っていただけて嬉しいです」
本音を言いますとす~っごく熱かったのですけれど、喜ぶカトレアの顔が可愛らしかったので言わずともよいでしょう。
「でも、やっぱりこんな痕を残させちゃうのは申し訳ないので、ひとつお得な情報を教えさせてください」
「あら~、なんですの?」
「私とフィアラさんの契約は『1年以内に皇帝になる』というものでしたけど、実はちょっとだけ期限を延ばす方法があるんです」
彼女の囁く内容に、わたくしは目を丸くしました。
たったの1年で皇帝になるなんて無茶にもほどがあると考えていたわたくしは、それに当然飛びつきます。
「そうなんですの~!? どうしたら延ばせますの~!?」
「えっと、これって足りない魔力を別のもので補っている形なので、私にフィアラさんの持ってる魔力を分けていただければ、その分日数に猶予が生まれるんです」
魔力……。それがなさすぎてわたくしは無茶苦茶な契約を結んでいるわけなんですけれど。
しかし僅かでもあるにはあります。どうせ魔術なんてわたくしには使えませんし、少しでも魔力をカトレアに渡して時間の猶予は多くしておきたいですね。
「どうすればお渡しできますの~!?」
「……急にこんな事言うと、驚かせちゃうかもしれないんですけど」
そう言うと、カトレアはわたくしと繋いでいた手を持ち上げて視界へ入れてきました。
「こう……直接触れると、少しずつ私に魔力が供給されるんです」
「な~んだ、それだけでよろしかったんですのね~!」
「あ、でもそのために手を握ってもらってたりしたわけじゃないですよ! 本当に、こういうの嬉しくって。……それに、フィアラさんって綺麗ですし」
「ふふっ、そんなにおだてないでくださいまし。カトレアの気持ちは分かっているつもりですわよ」
カトレアは少しだけ驚いたような顔をして、それからまた嬉しそうに表情を緩めました。
彼女だって見知らぬ土地に呼ばれて心細い思いをしているはずです。そんな中で誰に言われるでもなくわたくしの方からその手を取ったのが、カトレアの言葉通りに「嬉しかった」のでしょう。
「もう……簡単にそんなこと言わないでください」
「まあ。膨れた顔も可愛らしいこと。でもわたくし、本当にカトレアの事……ふぁ」
彼女と喋っている最中、とうとう眠気も強くなってまいりました。我慢しきれずにあくびが出てしまいます。
「……。続きはまた今度聞かせてください。今日はもう眠りましょう」
「そうですわね~……。おやすみなさいませ、カトレア……」
消え入るように言いながらまぶたを閉じると、数分とかからずわたくしの意識はまどろみの中へ落ちていくのでした。




