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145 最初の一輪 3


光脈(パルス)』の青い炎に体を包まれた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が咆哮を上げた直後、周囲に閃光と共に衝撃波が迸った。


私は咄嗟に地面を蹴ってその場から飛び退き、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』と距離を取る。


ギリギリのタイミングで回避が間に合い、私自身にダメージは無かったが……。


「一体何なの……!?」


放たれた衝撃波によって『最初の一輪(オリジン・ブルー)』を中心とした地面は大きく抉られてクレーターを作り、飛び散った瓦礫の欠片がバラバラと音を立てて落下して来る。


巻き上げられた土埃が周囲を覆って視界を遮ってしまった為、クレーターの中心に居る筈の『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の姿も見えない。


周辺に積み上がっている巨大花の残骸には、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の体から噴き出していた『光脈(パルス)』が燃え移ったのか、青い炎があちこちから立ち上りつつある。


元々時計塔広場には、青い炎が燃え移った巨大花の残骸が散らばっていたのだが、先程の衝撃波が周囲に発された途端、『光脈(パルス)』の影響を受けて更に炎の勢いが増し、今や時計塔広場周辺は青い炎の海と化していた。


恐らくは、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の『光脈(パルス)』の影響を受けた事による活性化現象だ。


「今度は何だよ、全く……」


不意にやや離れた位置からライナの声が聞こえ、私はそちらに視線を向ける。


いつの間に移動して来たのか、ライナが私からやや離れた位置で頭を掻いていた。


……そして、当然の様に無傷だ。


そんなライナに内心呆れつつ声を掛けようとした時………私はもうもうと土煙が立ち込めるクレーターの中心で、青い光が瞬いた事に気が付いた。


「!!」


光弾などによる不意打ちを警戒し、念の為『茨の剣』を構えて防御態勢を取る。


だが、そんな私の警戒心とは裏腹に、これといった攻撃は飛んで来ない。


警戒しつつ疑問に思っていると――――土煙の中から『音』が聞こえて来た。


「……おいおい」


ライナが呆れた様な声を漏らす。


正直な所、私も同じ心持ちだった。


音の出所は当然ながら『最初の一輪(オリジン・ブルー)』だ。


ベキベキバキバキという、何度か聞いた事がある生木を裂く様な、或いは枝を折る様な音が広場に断続的に響き渡っている。


舞い上がっていた土煙が徐々に落ち着いて来るに伴い、クレーターの中心から動かない『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の姿が少しずつはっきりして来ると、そこで起こっている事を私とライナは正確に認識する事が出来た。



『GUUURRRRR――――UUGGYYYYYYYYYY――――!!!!!!!!!!』



唸り声を上げ、全身に青く光る葉脈の様な模様をびっしりと浮かび上がらせた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、メリメリと音を立ててその形状を急速に変えて行く。


歪に膨れ上がっていた上半身の両肩から巨大な蕾が出現したかと思うと、すぐさま毒々しい色の肉花が開花して大輪の花を咲かせる。


大型腐肉植物(ラフレシア)を思わせる巨大な肉花からは、時折バチバチと青い火花が散っていた。


更に背中からは、左腕から生えていた触手に似た蔦がミミズのようにうねりながら顔を出す。


蔦の先端には体のあちこちに咲く肉花と同じ様なグロテスクな色合いの花が咲いており、こちらも青い火花の様な物を発していた。


上半身の変化に伴い、ライナに切り落とされた左腕の傷口から一本の太い触手……それこそ、丸太の如き太さの触手が湧き出る様に生えて来る。


膨らんだ先端の部分からは無数の鋭い棘が生えており、触手自体の巨大さも相まって凶悪な雰囲気を醸し出していた。


右腕の大剣もまた形状が変化しつつある。


もはや剣なのか斧なのか分からない形に変化した大剣は、鋭い刃状に変化した筈の植物細胞をグネグネと蠢かせており、その動きは右腕だけ別の生き物の様にすら見えた。


その姿は既に剣ですらなく、刃状の触手と形容した方がしっくり来るかもしれない。


そして最も変化が激しかったのが、先程まで唯一人型の面影を残していた下半身だ。


基になった『偶像』は体高3メートルはあるとはいえそのフォルムは女性的なものだった。


それ故に、枯死毒の影響で細胞が破壊され、感染毒の影響で『ブルー』の『光脈(パルス)』が暴走した後も、体が異形化し上半身が歪に膨れ上がった形となってなお、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の下半身部分は不自然に細身のシルエットを保っていた。


だが、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の肉体に急激な変化が起きた結果、唯一人間の形を保っていた両足が失われ――――その代わりに、()()が追加された。


虫の節足を思わせる折れ曲がった巨大な四つ足は、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の巨躯を支える為に必要に迫られて生じた部位だろう。


足先には地面を蹴る為の物と思われる鉤爪が生えており、あれで蹴られればそれだけで致命傷となりそうな程鋭い見た目だ。


人型形態の際にも人間の関節の動作を無視した動きでこちらの攻撃を回避していたが、恐らくあれと大差ない形で動く事が出来るのではないだろうか。


外見上の変化を見るだけでも『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の厄介さがより一層増した事が分かる。


恐らく、私とライナの攻撃に対応する為に『環境適応能力』が発揮された結果だと思うが……あまりにも露骨すぎる。


言い換えればそれだけ私達が『最初の一輪(オリジン・ブルー)』を追い詰めているという事ではあるものの、その度に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の肉体が改良強化されてはたまったものではない。


やはり、このまま戦闘が長引く程こちらが不利になるのは明白だ。



『―――――※※※※※※●●●▲!!▲◆■●!■●●■■???■●■!!!■■――――』



肉体を大きく変化させ、完全に人型の面影が無くなった『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、体を震わせながら奇怪な電子音の様な声を発した。


すると、脈打つ様に泡立っていた胸部のアメーバが盛り上がり、かつて『偶像』の頭部があった場所から滲み出る様に外へと溢れ出す。


ゴポゴポと波打つように脈動しながら体外に溢れ出たアメーバはやがて上部が膨れ上がり、その形を逆さにした雫型に近いものへと変化させて行った。


まるで無くなった頭部をアメーバで補おうとするかのようなその姿からは、『ブルー』の意思が僅かとはいえ今も残っている様に感じられる。


彼女の望みだった『おかあさん』をもう一度造るという……いや、もう一度母親に会いたいという思考の残滓が変異に影響を及ぼしているのだろうか?


やがて、泡立つアメーバの動きが落ち着きその表面が滑らかになると、半透明のアメーバ内部に青白い光が瞬き始める。


チカチカと脈打つ様に輝くそれは『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の体全体を覆っている葉脈の様なラインと似ていたが、半透明のアメーバの中で部分的に強い光を放つ場所がある為、小さな星が空に瞬いている様にも見えた。


そして、その直後。


『―――――×××××※※※※****●●●●■◆◆◆●●―――――』


「――!?」


アメーバで形成された『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の頭部が光り輝く。


それに呼応するかのように頭部が蠢くと、頭部のあちこちから触手……或いは触覚の様な物が生えて来た。


ウネウネと蠢くそれは先端が青白い光を纏っており……何となく、深海に住むイソギンチャクなどの無脊椎動物を思わせる姿だ。


「……本当にどういう生き物なんだよ」


最初の一輪(オリジン・ブルー)』から放たれる眩い光を手で遮りながらライナが小さく呟く。


その声に反応した訳ではないだろうが、広場全体を照らす程だった光は徐々に収まって来る。


やがて完全に光が消え、動きを止めていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が……体の動作を確かめる様に、ぎこちなくその四つ脚を一歩踏み出した。


「ッ!!」


更なる異形の姿に変化して行く『最初の一輪(オリジン・ブルー)』を警戒していた私は即座に臨戦態勢を取った。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』との間にはそれなりの距離がある。


一歩踏み出したと言う事は、接近戦を仕掛けて来るつもりだろうか?


視界に相手の姿を収めて『茨の剣』を構えつつ、いつでも対処が出来る様に周囲に気を配る。


視界の端では右手に短剣を持ったライナが体の力を抜いた体勢で立っているのが見えた。


一見すると無防備に見えるが、ライナの場合はあれで良いので心配する必要は無い。


私はあくまでも私自身の行動に集中すれば良い筈。


だが、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の取った行動は予想外の……いや、ある意味では予想通りの行動だった。



『―――――――――………ッッッ!!!!!!!!』



「な―――!?」


「ちょ……!?」



唐突に歩みを止めた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が再び眩い光を放った。


しかし今度はただ単に光を放つのではなく―――明確な殺意を感じた。


それも、これまでで最も強い殺意だ。


猛烈に嫌な予感がした私は……殆ど反射的に地面を蹴り、受け身の事など一切考えず横に跳んだ。


瞬間、発せられた閃光が収まると同時に―――『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の青白い光が瞬く頭部から、極太の光線……最早()()()()()と言った方が分かり易いレベルのそれが放たれた。


「~~~~ッッッッ!!!???」


私が立っていた空間を()()()()()()()()極太のレーザーは、射線上に存在していた建物の内の一つをあっさりと貫いていた。


時計塔諸共に巨大花が崩れた際にも運良く崩落に巻き込まれずに残っていた頑丈そうなその建物は、レーザーに中心部を射抜かれて一気に崩れ落ちてしまった。


轟音を立てて崩れる建物の残骸が辺りに撒き散らされ、土煙が周囲に広がる。


『――――――――!!!!!!!!!!!!!!』


最初の一輪(オリジン・ブルー)』はそんな周囲の状況に構わず、極太のレーザーをそのまま横に薙ぎ払った。


時計塔広場の周りを囲むように立っていた建物が、横薙ぎに振るわれたレーザー砲に巻き込まれて両断されて行く。


まるで巨大な光の剣を振り回しているかのようだ。


「冗談きついぜ……! SF映画の見過ぎだろ!」


私と同じ様に飛び退いてレーザー砲を躱したライナが、破壊されて周囲に飛び散る建物の残骸を避けながら悪態を吐く。


実際、もう既に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の行動と言うか能力は、地球上の生物とはかけ離れたモノになってしまっている。


これ以上『適応』の機会を与えては、更なる強化を彼女に齎す事になりかねない。



『―――――EEEEEEEEEEEEYYYYYYYYYYYIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!!!!!』



奇怪な叫びを上げつつレーザーを無差別に乱射する『最初の一輪(オリジン・ブルー)』。


その体のあちこちからは青い『光脈(パルス)』の光が炎の様に吹き上がっており、一見すると全身火達磨になっている様にも見える。


当初、私の攻撃を受けて全身を炎に包まれた状態になっていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』だったが、今その体を包み込んでいるのは彼女自身の『光脈(パルス)』によるものだ。


特に何か攻撃能力があったりする訳では無いようだが、それだけ膨大な量の『光脈(パルス)』をその身に宿しているという事でもある。


幾度もの弱体化を経て尚あれ程の攻撃を乱射出来る事からも、内包した『光脈(パルス)』の総量はやはり桁違いだという事が分かる。


つまりは、如何に現状の『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が私で言う所の『強化状態』……時間制限付きのドーピング状態であったとしても、所謂『ガス欠』を期待する事は出来ないのだ。


「……ッ!!」


私は狂った様に高出力のレーザー砲を放ち続ける『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に向かって地面を蹴ると、一気に間合いを詰めて斬り掛かる。


姿形が変化し、周囲に対する無差別攻撃を始めた時点から『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は私とライナを認識していない様だった。


今なら不意を突いて攻撃する事が出来るかもしれない。


何より、一旦こちらに意識を向けさせないと、何時までも無差別攻撃を続けそうである為却って危険なのだ。


当然あのレーザーがこちらに向けて放たれる事になる可能性が高いが、このままだと街全体が瓦礫の山になってしまう。


右手に持った『茨の剣』を振り被り、私はレーザーを放つ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の頭……つまりレーザー砲の『砲塔』に当たる部分目掛けて剣を振り下ろした。


しかし。


『!!!!!!!』


「!?」


剣を振り下ろそうとした瞬間、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中から生えた何本もの蔦の先端に咲いた花が、ぐるりと蛇が鎌首をもたげる様にこちらを向いた。


そして、花の動きに呼応するかのように、レーザー砲を放ち続けていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が凄まじい速度で上半身を反転させる。


『!!!!!!!!!!』


「ぐッ!?」


上半身のみで右に高速回転した『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は、回転の勢いのまま右腕の大剣をこちらに向けて叩き込んで来た。


バネ仕掛けのオモチャの様な、冗談みたいな速度で放たれた斬撃を、私は慌てて『茨の剣』を自分の体と大剣の間に滑り込ませる事で防御した。


斬り掛かる直前に思わぬ形で反撃された為、体勢を崩し掛けた私はやむを得ずそのまま後方へ跳んで衝撃を受け流す。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』はそんな私に下半身ごと向き直ると……背中から生えた、蛇の様に蠢く蔦の先端を向けた。


『!!!!!!!!!!!!!』


花が青白い光を帯び、その先端から無数の光弾が連続して放たれる。


機関銃………いや、機関()による射撃の如く放たれる光弾の嵐が私を襲い、私は咄嗟に『茨の剣』を構えた。


次々飛来する光弾を後ろに退がりつつ、右手一本で保持した『茨の剣』を高速で振るって弾いて行く。


左腕には籠手を纏い、剣で弾き切れなかった光弾を受け流す事で何とか防ぎ切る事が出来ている。


しかし、光弾は一発一発はそこまで威力は高くないが、あまりにも連射速度が速い。


光弾を弾く事に集中していなければ、すぐさま対応し切れなくなってハチの巣にされてしまうだろう。


「くっ………!!!」


そんな時、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が左腕の触手を振るう姿が私の視界に映る。


光弾を防御する為に身動きが取れない私に対して追撃を加えるつもりの様だ。


先程までは何本もの触手が生えた形となっていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の左腕は、現在では触手同士が融合して一本の太い触手となっている。


丸太の様な太さとなった触手を用いた打撃は、まともに喰らえば私でも深刻なダメージを受けてしまう。


―――何とかしてこの場を脱しなくては拙い。


だが、光弾の掃射から抜け出る手立てが無い以上対応のしようも無い。


スローモーションで動く視界の中で、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が触手を私に向けて振り抜く。



しかしその時、広場に何発もの銃声が響き渡った。



『―――!!!???』


銃声の主は勿論ライナだ。


いつの間にか『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背後に回っていたライナは、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中の花を拳銃(ハンドガン)で狙撃したのだ。


銃声と共に放たれた銃弾が、光弾を放つ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中の花を正確に撃ち抜いて行く。


流石に拳銃(ハンドガン)弾では完全に花を破壊出来なかった様だが、花による光弾攻撃が中断される。


光弾の嵐が止み、動けるようになった私は即座に体勢を低くしつつ、花の射線を逃れて横へ跳ぶ。


直後、頭上を丸太の様な太さを持った『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の左腕の触手が猛烈な勢いで通り抜けて行った。



『――――GYYYYYYYYYYY●●◆◆▲▲◆■■■▲▲▲ーーーーーーーッッッッ!!!!!!』



怒りの声なのか、それとも意味の無い咆哮なのか分からない叫びを上げて『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が花の機関砲の『砲身』をライナに向ける。


例の如く蛇の様な動きでライナに照準を合わせた花達が一瞬の内に青白い光を帯びると、再び『銃撃』を開始した。


無数の光弾がライナに向けて放たれる。


『▲▲▲■■■●●■■●●●●!!!!!!!』


飛来する無数の光弾を、ライナは即座に真横に走る事で回避した。


しかし、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は射線をずらしてライナを追いかける様に光弾を連射し続ける。


幾らライナの走る速度が速いとしても、光弾を放つ射角を変えるだけで良い『最初の一輪(オリジン・ブルー)』からは逃れられない。


……が、そこでライナは予想外の行動に出た。


猛スピードで走っていたライナは突然両足で急ブレーキを掛けると、その場で地面を強く蹴って背面飛びの要領で飛び退いた。


『!!!???』


つまり、宙返りしつつ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が放つ無数の光弾の真っ只中に飛び込んだのだ。


そうなると、当然の事ながらライナを捉える弾道で飛来した何発もの光弾がライナに襲い掛かる事になる。


だが、ライナは右手に握った黒い短剣を空中で宙返りした状態という不安定どころではない体勢で振るい、さも当然の様に光弾を弾いて逸らしてしまった。


光脈(パルス)』を纏っていない短剣で弾かれた為、激しく青い火花が散って一瞬だけ視界が青く染まる。


『――――!!!???』


その一瞬の間に地面に着地したライナは、光弾の弾幕の中を潜り抜けられ、慌てて射線を再度ライナに合わせようとする『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に向かって猛然と駆け出した。


地面を滑る様に、体勢を低くして疾駆する姿はまさに獣の如しだ。


それに対し、光弾を上から撃ち下ろしてライナの動きに追い付かせようとする『最初の一輪(オリジン・ブルー)』だったが、ライナの行動があまりにも早い為、常に動きが一手遅れる状態となってしまっている。


だがこのままだと、流石にライナが『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の元へ到達するよりも『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の光弾がライナに追い付く方が先になるだろう。


そうなればさしものライナも回避行動を取らざるを得ない。


短剣を使った防御に関しても、『光脈(パルス)』を籠めていない物体でも光弾を弾く事は出来るが、着弾時に小爆発が発生してしまう。


今更ではあるが、ライナは光弾を短剣で防御する際、私の様に弾くのではなく爆発しない程度の力加減で『逸らして』いる。


要するに、そっと押し退ける事で自分の手元で光弾が炸裂しない様にしている訳だ。


私からすればどうすればそんな事が出来るのか全くわからないのだが、事実ライナはこれまでそうしてブルーフィリア達が用いる光弾系の攻撃を防御して来た。


だが、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の放つ高速連射される光弾は、同じ様に逸らす事は出来ても弾幕の密度が高すぎるせいで、自分に被害無く逸らし続ける事が出来ない。


故に現状でライナが選択出来る行動としては、回避するか、ダメージ覚悟で突っ込む位しかないのだ。


「ッ!!」


私は『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の触手攻撃を躱した直後、勢いを付けて体を捻る。


左腕を振り被り、体を回転させる勢いを利用すると、この一瞬の間に手の中に生成していた『棘のフレイル』を『最初の一輪(オリジン・ブルー)』目掛けて全力で投げ付けた。


籠手に覆われた私の左腕の筋力と、体の捻りを加えた勢いで以て放たれたフレイルの打撃部が、砲弾の如きスピードで『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に向けて襲い掛かる。


『――――!!!??』


フレイルが激突する直前、ライナに光弾を放っていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が自分に向かって飛来するフレイルの存在に気付いた。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』が反射的に右腕の大剣を盾にする様に掲げた事で、フレイルの打撃部はけたたましい金属音を響かせながら弾かれてしまった。


弾かれたフレイルは宙に打ち上げられ、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に対してはダメージを与えられていない。


けど、それで良い。


それが私の狙いなのだから。



最初の一輪(オリジン・ブルー)』は顔……顔らしき触覚の生えたアメーバの集合体をこちらに向けて私を意識しつつ、背中から伸びた花の咲いた蔦をライナに向け、そこから光弾を放ち続けていた。


しかし、私がフレイルによる攻撃を行った事で、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は更に私を意識しつつフレイルを防御する必要に迫られた。


その際、本来なら武器である大剣を盾にしたという事は、それだけ余裕が無かった事を現しているとも言える。


結果として本当に一瞬、ほんの僅かな隙がライナに向けて放たれていた光弾の射線に生まれた。


ライナの動きを追尾し、その背に追い付こうとしていた光弾の弾幕が、一瞬だけ揺らいだのだ。



―――私はライナの様に戦闘経験が豊富ではないし、戦闘技術に至っては全く勝負にならない。


だから戦闘の際、どんな風に立ち回るのが最適解なのか分からない。


相手にほんの少しの隙が出来たとしても、それをどうすればいいのか察する事なんて出来ない。


だからこの場合、私に出来る事は――――ライナを信じる事だけだ。



最初の一輪(オリジン・ブルー)』に向かって猛然と走っていたライナは、私が『最初の一輪(オリジン・ブルー)』を攻撃する事で生じた一瞬の隙に、前方へ飛び込む様にして地面に身を伏せた。


四つん這いに近い体勢……と言うよりいっその事、『地面に身を伏せた猫』と言い切ってしまった方がしっくり来る姿だ。


信じているとは言ってもライナが一体何をするつもりなのか私にも分からないので……正直言って困惑していた。


だが、私の困惑は更に深まる事になる。


現状、私とライナはそれなりに離れた位置にいる。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』を挟撃する形で意識を散らしつつ、私が攻撃を加えて行くという作戦であるので、必然的に私とライナはお互いに離れて戦闘を行う事にしたからだ。


故に、離れた位置にいるお互いの状況は目に見えない位置であれば音で判断するか、私であれば『探知』を用いる形になるのだが、探知はともかく音で状況を正確に判断するのは難易度が高い。


距離が離れている今の私とライナの状況も同様であり、ライナが何か行動を起こそうとしても、何をしようとしているかは判断が付かない。


―――その筈だった。



ミシリ



私の耳に、確かにそんな音が届いた。


何の音なのかは分からない。


だが、間違いなくその音はライナの居る位置から聞こえた。


思考速度が加速した結果、スローモーションで流れて行く目の前の景色の中で、撃ち下ろされる無数の光弾がライナの背に迫り、ライナは地面に身を伏せた体勢で両腕と両足に力を溜めている。


……力を溜めている?



ミシミシッ



再び私の耳に届く音。


その段階になって、漸く私は気が付いた。



ライナが地面に突いた両手が……より正確に言うなら両手の指先が地面にめり込み、周囲の石畳に()()が広がっている事に。



そして、次の瞬間



「……フンッ!!」


ライナが、加速した思考の中の世界など無視するかの如き超スピードで前方へ向けて飛び出した。


バンッ!!という地面を蹴る音と共に石畳が爆ぜ、ライナの背後に迫っていた光弾の弾幕を置き去りにする。


弾丸と化したライナは、いつの間にか黒い短剣を口に咥えており、瞬く間に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の足元を潜り抜ける。


そして、擦れ違い様に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の脚を、口に咥えた短剣で深々と切り裂いた。



『!!!!!!!!?????????』



予想外の攻撃を受けて『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が怯む。


恐らく彼女が自分の足の数を増やしたのは、自らの巨体を支え易くする事でバランスを崩す事が無くなる様にする為だった筈だ。


しかし、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の足元を文字通り飛び抜けたライナは、そんな相手の思惑を無視する様に四脚となった『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の脚の内、片側二脚を一遍に切り裂いてしまっていた。


おまけに狙ってやったのか、正確に足首の部分を半ばまで断ち切っている。


あれでは『最初の一輪(オリジン・ブルー)』自身の体重を支える事は出来ないだろう。


何より驚きなのが、口に咥えた短剣でそれを行っている事だ。


……そんな戦い方、あるの?



そして、ライナの攻撃は終わらない。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』の足元を潜り抜けた直後、ライナはバランスを崩して怯んだ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背に対し、後ろ手のまま両腕のワイヤーを射出した。


いつの間にかワイヤーの先端には返しが付いた小さな錨の様な物が取り付けられており、射出された二本のワイヤーの先端が『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中に突き刺さる。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中で固定されたワイヤーが地面すれすれを滑空するライナに引っ張られてピンと張り、その反動を利用してライナは『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の頭上へと跳び上がった。


その時、宙を舞うライナが手元でワイヤーを僅かに操作したのが微かに見えた。


途端に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中に突き刺さっていたワイヤーの先端が抜け落ち、自由になったワイヤーはライナの袖口に巻き取られて行く。


ライナはそのまま『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の頭上でくるりと身を翻すと、重力に従って落下しつつ空中で両手に握り直していた短剣を逆手に持ち―――。


大きく振り被った短剣の切先を、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中に深々と突き立てた。



『!!!!????GYYYYYYYEEEEEYYAAAAAAAAAAAッッッッッッ!!!????!???!?!?!?!?』



落下の勢いとライナの全体重が加わった短剣は分厚い外皮を貫通し、短剣の鍔元まで突き込まれていた。


傷口からは青白い分泌物が大量に噴き出しているが……恐らく、それでも致命傷には程遠い。


ライナの攻撃には『光脈(パルス)』が込められていない為、すぐに傷が再生してしまうからだ。


しかし、ライナはそんな事は知った事かと言わんばかりに短剣へ更に体重を掛けて行く


『GYYYYEEEEEEE!!!!!!!????』


背中に生えた『砲塔』である花の触手をうねらせながら、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が体を激しく揺すってライナを振り落とそうとする。


だが、ライナはその動きすら利用してその場で跳び上がると、勢いを付けて突き刺さった短剣を『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中を大きく引き裂く様にそのまま切り下ろした。


『――――ッッッッGYYAAAA▲▲▲AAAA■■AAA●●●AAッッッッ!!!???!!????』


ざっくりと背中を切り裂かれた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が絶叫を上げる。


身を捩って暴れながら、地面に降りたライナを振り払う様に手足を振るうが、ライナは最小限の動きでそれを躱すとさっさとその場から離脱してしまった。


すると、怒りの感情を燃え上がらせた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、再びライナに向けて光弾を放とうとその背に『光脈(パルス)』を収束させた花の触手を向ける。


『――――!!!!!!!!!』


「―――進化はしても、学ばない奴だな」


光弾を放とうとしていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、そんなライナの呟きに僅かに反応する。


もしかすると、違和感を感じたのだろうか?



彼女は気付いていなかった。


ライナがわざと分かり易く正面から攻撃を仕掛けていた事に。


ダメージを与えられる様になったとはいえ、すぐに傷を再生されてしまう状況で、それでもなお危険を冒してライナが接近戦を挑んだ理由に。


そして―――自分が今、どの方向に背を向けているのかを。



「……ッりゃぁぁああああッッッ!!!!」



私は裂帛の気合と共に『鞭剣』形態の『茨の剣』を『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背に向けて振るう。


先程投げ付けた『棘のフレイル』を左腕に引き戻すと同時に体を捻り、回転を掛けて放たれた『鞭剣』による横薙ぎの一撃は、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背中から生えた何本もの花の触手を全て断ち切った。


『――――!!!!!!??????』


断ち切られた花の触手は私の『光脈(パルス)』によって再生が阻害される。


これで暫く『最初の一輪(オリジン・ブルー)』はあの機関砲めいた光弾の連射は出来ない筈だ。



『――――GGGGGG!!!!!GYYYYYYYYYYY……!!!!!!!』



怨嗟の声を上げた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が左腕の触手を横薙ぎに振るう。


極太の鞭の様に唸りを上げて迫る触手を、私は剣で受けずにそのまま身を沈めて回避した。


流石に、正面からあの触手攻撃を受けるのは得策ではない。


単純なパワーではやはりまだ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』には敵わないからだ。



『――――■■■■■■■▲▲▲▲▲▲!!!!!!!!!!』


触手を振り抜くと同時に私へと向き直った『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は、既に再生し終えた四脚で地面を蹴って私に向かって突進して来た。


四足歩行である為か、その巨体からは想像出来ない程の速度で一直線に突っ込んで来る。


右腕の大剣を振り被りつつ、擦れ違う形となる私に向けて、下から上へと掬い上げる様な斬撃を放つ。


それに対して私は左腕の『籠手』を『鉤爪』に変化させると、盾の如き強度を持ったその植物装甲で以て大剣の一撃を受けた。


只でさえ大剣は凄まじい威力を持っているが、突進の勢いも加えた一撃は『茨の剣』で受け流すのは不可能と即座に判断出来る程のものだった。


おまけに、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は大剣に『光脈(パルス)』を纏わせている為、その破壊力は更に底上げされている。


未だに詳しいメカニズムは不明だが、『光脈(パルス)』は直接攻撃の威力を飛躍的に強化出来るのだ。


故に、『光脈(パルス)』を含めた様々な要素を以て強化されている大剣を正面からそのまま受けた場合、下手をすれば『茨の剣』ごと両断されてしまう恐れすらある。


その様な状況を回避するべく、私は相手と同じ様に『光脈(パルス)』を纏わせた『鉤爪』を盾代わりに使って上手く衝撃を逃がそうとした。


「………ッッ!!!」


私の用いる事が出来る植物装甲としては最も強度が高い『鉤爪』は、『光脈(パルス)』を纏う事で更に防御能力が強化されており、驚異的な破壊力を秘めた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の大剣を防ぎ切る事が出来た。


しかしそれでも完全に威力を完全に殺す事は出来ず、私は両足で地面を削りながら大きく後退する事になった。


全力の防御に『光脈(パルス)』の力を集中しているにも拘らずこの威力。


万が一ガード出来ずに直撃を受けたなら、『光脈(パルス)』を纏った攻撃である事を考えると私でも即死しかねない。


まるで騎兵突撃の様な、巨体を利用したシンプルな攻撃だが、それ故に厄介極まりないとも言える。


この上、光弾の連射は封じたと言っても誘導弾や光線、更には先程見せた主砲(レーザー)まであるのだ。


なんと言うか、戦車でも相手にしている気分だ。


とにかく、そうした生物の枠を超えた厄介な攻撃をさせない為には、ライナと連携を取りつつ絶え間なく攻め立てなければならないだろう。



最初の一輪による突進攻撃を『鉤爪』の植物装甲で防御した私は、そのまま後退して『最初の一輪(オリジン・ブルー)』から距離を取った。


追撃を警戒しての事だったが、騎兵の如く突撃からの大剣による攻撃を仕掛けて来た『最初の一輪(オリジン・ブルー)』はそのまま私を通り過ぎて行った為、結果としては互いに距離を空ける事となった。


そこへ、牽制する様にライナが銃撃を加える。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』はその場を走り抜けて行った後、スピードを緩めずに広場を大回りに旋回する様にして走行を続けていた。


故にライナからはかなり距離が離れた位置を猛スピードで移動している形なのだが、放たれた銃弾は正確に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』へと襲い掛かる。


『―――――!!!!!!!!!!』


だが、飛来した銃弾は『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が振り回す左腕の触手に阻まれ、地面に叩き落とされてしまう。


「……チッ!」


それを見て舌打ちしたライナはすぐさま走り出す。


銃撃を防いだ『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が自らの方へと急旋回して来たからだ。


『――――ZYYYYYYYEEEEEAAAAAAA!!!!!!!!!!』


奇怪な咆哮を上げながらライナに向かって突進して来た『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は、私に対して行ったのと同様に右腕の大剣を振り上げる。


走りつつ、前方に飛び込む様にしながらそれを回避したライナは、横を通り抜けて行った『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の背に向かって再度銃撃を加えるが、先程と同じ様に触手によって銃弾を防がれてしまった。


「……ッ!」


縦横無尽に広場を走り回る『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に対し、私は『光脈(パルス)』を纏わせた『茨の剣』を構える。


再度剣に纏わせた『光脈(パルス)』を活性化させ、刃に収束した『光脈(パルス)』を剣を振り抜くと同時に前方へ放った。


濃い青色に輝く『光刃』が、走る『最初の一輪(オリジン・ブルー)』へ向かって襲い掛かる。


『――――!!!!!!!!』


それに対して『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は炎の様に青い光を吹き上がらせた右腕の大剣を振るい、自分へ向かって飛来した『光刃』を迎撃した。


「くっ……!!」


予想はしていたが『最初の一輪(オリジン・ブルー)』もこちらの『光脈(パルス)』による攻撃を大剣で打ち落とす事が出来るらしい。


大剣に『光脈(パルス)』を込めた状態ならもしかして……とは思っていたが、私が『光脈(パルス)』による遠距離攻撃が使える様になったとはいえ、簡単にダメージを与える事は出来ないようだ。


私はダメ元で『光刃』を連続して放つが、四脚を忙しなく動かしながら高速移動する『最初の一輪(オリジン・ブルー)』はその悉くを大剣で打ち払ってしまう。


青い『光脈(パルス)』の光を纏った大剣はその巨大な刃を触手の様にうねらせ、様々な角度から飛来する『光刃』を切り裂いて行く。


既に右腕も左腕も別の生き物の如く蠢く様になった『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は防御を()()()()()、自身は『光脈(パルス)』による攻撃に注力し始めている様だ。


『――――――!!!!!!!!!!!!』


と、突進から動きを止めずに走り回っていた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、突然こちらに向き直りつつ自身に急制動を掛ける。


その直後、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の体から生じた大小の肉花から、前方へ向けて青白い光線が放たれた。


一斉に放たれた光線は私とライナを同時に射程圏に収めており、バラバラに動く光線が地面と地面に転がる瓦礫を削り取って行く。


「ッ!!」


その場から飛び退き光線を躱すが、躱した筈の光線が地面に青い炎の帯を作り出しながらこちらを追いかけて来る。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』が私の動きに合わせて光線の射線を変更しているのだ。


視界の端では同様にライナが光線に追われているのが見える。


「……鬱陶しいな!この野郎!」


悪態を吐きながらライナが『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に銃撃を加えるが、やはり触手で防がれてしまう。


触手自体は大剣程の強度を持っている訳では無いが、通常火器ではその外皮を破る事は難しそうだ。


『光刃』なら触手を切り落とす事は出来ると思うが、先程と同じ様に大剣で打ち払われてしまう為、この場合に最も有効な攻撃手段は間合いを詰めての接近戦だろう。


しかし、迂闊に接近しようものなら大剣で迎え撃たれるか、その巨大な四脚の足で踏み付けられるか……といった所だろう。


であれば……ここは搦手、或いは騙し討ちの出番だ。



私は光線を躱しつつライナにアイコンタクトを送った。


すぐにこちらの視線に気づいたライナと目が合い、お互いに目線での遣り取りを行う。


ライナは私の言いたい事がすぐに分かった様であり、光線を躱しながら拳銃(ハンドガン)の弾倉を交換すると……再び『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に銃口を向けて引き金を引いた。


銃声が響き渡り、何発もの銃弾が『最初の一輪(オリジン・ブルー)』へ向かって飛ぶが………これまでと同様に触手が生き物の様に蠢き銃弾を防いでしまう。


しかし私はその瞬間を狙い、右手に握っていた『茨の剣』を素早く振り被った。


剣には活性化した『光脈(パルス)』が既に纏わせてある為、このまま振り抜けば『光刃』を放つ事が出来る。


――――狙うは、左腕の触手だ。


言葉を交わす事も無く、ライナの銃撃の直後に即座に剣を振り被った私に対し、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は………狼狽えた様子も無く、素早い動きで大剣を構えた。


私達はほぼ間髪入れずに動いていた筈だが、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』はこちらの動きを読んでいたらしい。


このまま『光刃』を放ったとしても、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は余裕を持って大剣で『光刃』を迎撃出来るだろう。


どうやら――――上手く引っ掛かってくれた様だ。



私は振り被った『茨の剣』の柄を素早く逆手に持つと、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に向け槍投げの要領で投擲した。


投げ放たれた『茨の剣』は凄まじい勢いで矢の様に飛ぶと、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が体の前に構えようとしていた右腕の大剣に突き立つ――――手前で剣身を構成する茨が解け、ぐわっと口を開く様に広がった。


『!!!!?????』


広がった茨は大剣ごと『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の体に絡み付きながら広がって行く。


大剣、つまり自分の右腕を自分の体に縛り付けられる形となった『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は、何とか茨を引き剥がそうと上半身を大きく仰け反らせた。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』が放つ光線は、その上半身から生じた大小様々な大きさを持った肉花から放たれている。


故に、攻撃の最中に反射的に上半身を仰け反らせてしまった事で、光線の射線が上方へ大きくズレた。


その瞬間を狙って………私は一気に『最初の一輪(オリジン・ブルー)』との間合いを詰める。


『!!!!!!◆◆◆◆●●●▲▲▲▲!!!?????』


私の接近に気付いた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、慌てた様に左腕の触手を私に向けて振るって来た。


苦し紛れに放たれた攻撃を、私は体勢を低くして躱す。


そして、頭上を触手が通り抜けて行った直後、その場で大きく跳躍すると空中で前転し――――『足甲』を纏った右足で、踵落としを触手に見舞った。


『――――!!!!!?????』


『足甲』の踵から生えた刃が『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の触手に深々と突き刺さり、青白い液体が勢いよく噴き出す。


落下の勢いと回転の勢いが加わった踵落としの威力は、銃弾を弾いてしまう程の強度を持った触手の外皮も易々と貫いていた。


私はそのまま右足を手前に引いて『足甲』の踵から生やした逆向きの刃を用い、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の触手を一気に引き裂く。


『―――GYYYYEEEEEAAAAAッッッッ!!!!!??????』


最初の一輪(オリジン・ブルー)』の絶叫と共に触手が切り落とされ、私もまた地面に着地した。


そこへ、一時的に右腕を封じられ、左腕を落とされた『最初の一輪(オリジン・ブルー)』が、再び私へと向き直る。


『――――●■■▲▲▲◆◆◆■■■!!!!!!!!!』


憎しみの籠った叫び声を発しつつ、自らの体から生じた肉花に『光脈(パルス)』を収束させると、目の前の私へ向けて放とうとした。


しかし。


『――――!!!!!???』


再度銃声が響き渡り、光線が放たれようとしていた肉花を銃弾が射貫く。


拳銃(ハンドガン)弾程度では肉花を完全に破壊する事は出来ないが、攻撃を止める位の事は出来る。


それを理解していたライナは、光が強まった肉花を横合いから撃ち抜き、『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の射撃を妨害したのだ。


攻撃を妨害された『最初の一輪(オリジン・ブルー)』は大きな隙を晒して動きを止めている。


このチャンスを逃すつもりは無い。


……と、言っても、『茨の剣』を再生成している余裕は無い。


最初の一輪(オリジン・ブルー)』の右腕を封じている茨も、彼女が全力で拘束を解こうとすれば呆気なく千切れてしまうだろう。


だから私は、右手から素早く『棘』を生やすと、『茨の剣』と同じ様に『棘』に『光脈(パルス)』を籠めた。


活性化した『光脈(パルス)』が濃い青色に変わり、肉眼上では漆黒と言って良い色合いをしていた『棘』が青い輝きを放ち始める。


やがて、全体が青色の光を放つ様になった『棘』の先端を、私は『最初の一輪(オリジン・ブルー)』の胸部―――青白いアメーバ状の塊に向けて―――。


「……ッッッ!!!!」


―――青い光の槍と化した『棘』を、ありったけの力を籠めて『最初の一輪(オリジン・ブルー)』に突き刺した。


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