143 最初の一輪 1
『―――――――■■◆◆◆◆■■■◆◆◆◆◆◆◆■■◆◆◆■■!!!!!!!!』
電子音、或いはノイズの様な叫び声を上げ、『最初の一輪』がこちらに振り返る。
ほぼ正気を失っているとはいえ、『探知』の様な感覚的な能力は残っているらしく、私とライナが行動を開始すると即座に反応して来た。
瓦礫の背後から同時に走り出した私とライナは、『最初の一輪』の左右からタイミングをずらして挟み撃ちをする形で接近して行く。
特にライナは私よりも足が速い為、先んじて『最初の一輪』へと肉薄する事となった。
しかし、ライナが接近し切る前に『最初の一輪』が仕掛けて来た。
『―――――◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!』
「うおっと!?」
『最初の一輪』の体から生じた肉花から、何本もの青白い光線が放たれる。
扇状かつ地面をなぞる様に放たれた光線はライナに向かって殺到するが………それをライナはあっさり躱してのける。
「あっぶねえな!この野郎!」
凄まじい反射神経で以て光線を全て躱しながら、ライナは悪態を吐きつつ左手に持った拳銃の引き金を引いた。
数発の銃声が響き渡り、放たれた銃弾が『最初の一輪』に着弾して……緑色の体液が撒き散らされる。
『――――――――GYYYYYYYYAAAAAAAAAッッッッッ!!!?????』
歪な姿に成り果てた『最初の一輪』の体の内、比較的変異が少ない両足に着弾した銃弾は、あっさりとその外皮を貫き『最初の一輪』へ傷を負わせた。
人間で言えば膝骨に当たる部分に数発纏めて銃弾を撃ち込まれた『最初の一輪』は片足を潰される形となり、自らの巨体を支えられずにバランスを崩してしまう。
致命傷には程遠いダメージではあるだろうが、先程まで戦っていた『偶像』の異常な防御力の高さを考えれば、かなり外皮自体が脆くなっている様だ。
「おお、確かに普通の攻撃も効くみたいだな?」
通常火器で『最初の一輪』にダメージを与えられる事を確認したライナが、『最初の一輪』からやや離れた位置で足を止めて声を上げる。
どうやら先程の攻撃は、『最初の一輪』に対して拳銃程度でどの程度のダメージを与えられるかを図る意味合いもあった様だ。
『――――――アア▲▲アAA●●●A◆AAAAア▲アアア◆◆◆アアアッッッッ!!!!!!!!!!!!!!』
……と、破壊された片足を即座に修復した『最初の一輪』が、暢気に足を止めていたライナに向かって左腕の触手を勢い良く振るった。
無数の触手が束ねられて腕の様なシルエットを作っているだけだった左腕の触手は、私の『茨の鞭』の様に解けると、低く唸りを上げてライナへと襲い掛かる。
一撃でも喰らえば即死まで行かなくとも、骨を砕かれ戦闘不能になる威力を持った超高速攻撃―――それも、何本もの鞭状の触手による同時攻撃だ。
やや距離があるとはいえ、常人には到底反応出来ない攻撃だが………ライナは普通の人間ではあっても常人ではない。
ライナは同時に襲い掛かって来る触手を、時には体を捻って躱し、時には空中で体を回転させつつ触手同士の間を擦り抜けて行く。
挙句の果てには触手を足で踏みつけて足場代わりにし、ライナを跳ね返そうとする触手の力を利用して宙返りで攻撃を躱す事までして見せた。
……何だか楽しそうにすら見える。
『――――――ガァァァァアアアアAAAAAAAAAAッッッッッ!!!!!!!!!!』
痺れを切らしたのか、『最初の一輪』が触手を一際勢い良く振り回した。
それまで以上の速度で振るわれた触手がライナに向かって振り下ろされ――――。
次の瞬間、ライナの短剣が視認するのも困難な程の速度で閃き、『最初の一輪』の触手全てを斬り飛ばした。
『―――――!!!????』
理性を失っている筈の『最初の一輪』から、驚愕の感情が伝わって来る。
そして、一瞬だけ『最初の一輪』の動きが止まった。
「……余所見してる場合じゃないんじゃないか?」
ぼそりと呟かれたライナの声がやけにハッキリと聞こえる。
触手を切断された『最初の一輪』が一瞬動きを止めたまさにその時。
大回りする様に走る事で攻撃タイミングを計っていた私は、『最初の一輪』の背後から斬り掛かった。
「はぁあああッッ!!!!」
『―――!!?』
完全に不意を衝いた筈であるにも拘らず、『最初の一輪』は凄まじい反応速度で私の方へと振り返りながら、右腕の大剣を横薙ぎに振るった。
大上段から振り下ろされた私の『茨の剣』と『最初の一輪』の大剣が切り結び、青い火花の様な『光脈』の粒子が撒き散らされる。
互いに押し合いつつ、攻撃を脇に流した私と『最初の一輪』は、擦れ違う様に立ち位置を入れ替わった。
「……ふッッ!!!」
『―――――!!!!!』
斬り、受け流し、躱し、離れたかと思えば一息の内に間合いを詰め、また斬る。
やはり『最初の一輪』は『偶像』の姿だった時に比べて単純な身体能力が落ちている様であり、私の筋力でも押し返せる程度の力でしか大剣を振るわなかった。
しかしその一方、歪なその姿からは想像もつかない程に精緻な太刀筋で時に私の攻撃を往なし、時には反撃を加えて来る。
力任せに大剣を叩き付けて来た先程の戦闘での様子とは一線を画する、『技術』を用いた戦い方だ。
その動きは『偶像』との戦いで私が見せた防御とカウンター主体の戦法に似ており、自我が失われてなお『最初の一輪』の記憶が完全に消えた訳ではない事を示すと同時に、『最初の一輪』の能力が依然高い事を伺わせていた。
だけど……負ける訳にはいかない。
これが最後の戦いであると同時に、彼女を止める最後のチャンスなのだから。
「……ッッ!!!」
『最初の一輪』の大剣を受け流すと共に、私は『茨の剣』の剣身を用いて大剣と一体化した状態の『最初の一輪』の右腕を強く弾いた。
ギャリィンッ!という金属音が響き渡り、『最初の一輪』の右腕が体の左側に大きく逸れる。
『――――!!?』
腕を勢いよく弾かれた『最初の一輪』は上半身のバランスを崩してよろめき、ほんの僅かな隙を生んだ。
私はその隙を逃さず、手首を返すと『茨の剣』を自分から見て左へと真一文字に振り抜いた。
「でっ……りゃああああああッッッ!!!!」
『最初の一輪』の左脇腹に叩き込まれた『茨の剣』は、そのまま『最初の一輪』の外皮を内部の肉ごと引き裂いて行く。
しかし、私が更に踏み込んで深く『最初の一輪』の体を切り裂こうとした時、唐突に剣を通して感じる肉を引き裂く感触が消えた。
「!?」
『――――!!!!!!!』
『茨の剣』による斬撃を受けた直後、『最初の一輪』は即座にその場から飛び退き、私の剣による攻撃を回避していた。
完全に回避する事は出来なかったようだが、体の表層部を抉られた程度の傷では大したダメージにはなっていないだろう。
更に『最初の一輪』は後方にそのまま飛び退くだけではなく、置き土産と言わんばかりに体に生じた肉花から青白い光弾を放って来た。
『探知』を用いて感知した限りでは、先程まで多用していた光線ではなく、『偶像』形態の時に使用して来た光弾と近い物に感じられる。
私は剣を振り抜いた体勢から即座に『最初の一輪』の方へと向き直ると、光弾を迎撃する体勢を取った。
『偶像』の時に比べると光弾に込められた『光脈』の量はやや少ない。
恐らく、剣に『光脈』の光を纏わせれば弾いて逸らす事が出来る筈。
そう考えた私は、『最初の一輪』を追撃せずに光弾の迎撃を優先しようとした。
しかし。
『―――――カアアアアAAAAAAAAAAァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!!』
「!!」
その場に動きを止めて剣を構えた私に対し、『最初の一輪』が大きく跳躍して飛び掛かって来た。
後方に飛び退きつつ光弾を放つという器用な真似をしただけではなく、着地と同時に両手両足を地面に付きつつ、獣の如く空中に飛び上がったのだ。
歪ではあるが一応人型をしているので、人間に近い動きをすると思い込んでしまっていたが、どうやら人型に見えるだけらしい。
考えてみれば当然の事で、肉も骨も自分の植物細胞で構成されているのだから、必要に応じて自在に変形させる事が出来るのだろう。
いずれにしろ、このまま光弾を迎撃していては光弾の弾幕の向こうから飛び掛かって来る『最初の一輪』の巨体を押し留める事は出来ない。
やむを得ず、被弾覚悟で後方に跳んで逃れようと両足に力を込める。
「!?」
『――――!!!??』
―――直後、私の視界の外から飛び込んで来た黒い何かが、目の前に迫りつつあった光弾に横から突き刺さった。
バチッ!と空中で炸裂して弾け飛んだ光弾の青い火花が散り、その衝撃で弾かれた黒い何かが上空に打ち上げられる。
しかし、光弾を撃ち落とした黒い物体……ワイヤーが連結されたライナの黒い短剣は、まるで生き物の様に空中で翻ると飛来した光弾に次々と振り下ろされた。
視界の端で、右腕から伸びたワイヤーを腕と指先に絡め、糸を手繰る様に操作するライナの姿が見えた。
―――ガガガガガガッッッ!!!
短剣が叩き付けられた光弾はその場で炸裂し、近くを飛んでいた光弾も巻き込んで連鎖的に小爆発を起こして行く。
そして炸裂した光弾の火花が収まった時には、私に向かって飛んできている光弾は完全に消滅していた。
「ッ!!」
眼前に迫っていた弾幕が消滅した事を理解した私は、後方に下がる為に両足へ籠めていた力を前方へ跳ぶ為の力へと切り替える。
そして光弾の弾幕が消え、その向こうから高速で迫る『最初の一輪』の巨体へ向けて、地面を砕く程の勢いで飛び出した。
『――――!!!?』
『最初の一輪』が後方へ下がりつつ光弾を放ってからここまでの攻防は、ほんの刹那の一瞬の間の出来事だ。
加速した思考速度の影響で周囲の景色がゆっくりと流れて行く中、私は突進しつつ右腕の大剣を突き出す『最初の一輪』に対して『茨の剣』を振り被った。
光弾が迎撃された事で私が一瞬早く攻撃に転じる事が出来た為、『最初の一輪』は私に対する攻撃タイミングがズレてしまっていた。
空中で先に攻撃態勢に入っていた私は、『最初の一輪』の横を擦り抜けながら『茨の剣』を掬い上げる様に斬り上げる。
私の跳躍の勢いと、私に向かって飛び掛かって来ていた『最初の一輪』の勢いが加わる事になる斬撃の威力は、例え『最初の一輪』であっても防ぎ切る事は出来ないだろう。
今度こそ『最初の一輪』の体を剣が捉えたと確信しつつ、私は『茨の剣』を勢い良く振り抜いた。
―――――だが。
『―――――!!!!!!!!!』
「なッ―――!?」
私は剣を振り上げて『最初の一輪』の本体部分……青色のアメーバと化して脈打つ結晶体部分に刃を叩き込んだ、と思った。
しかし、振り抜いた剣から伝わって来たのは、再び刃が空を切る感触だけだった。
「―――くッ!!」
即座に身を翻して追撃を行おうとするが、そこには既に『最初の一輪』の姿は無い。
慌てて周囲を見回すと、体を裏返し、逆さまになった蜘蛛の様な体勢で地面を這って遠ざかる『最初の一輪』の姿が目に入る。
背中側を下にして、海老反り状態に近い状態で高速で移動するその姿は、どう控えめに言っても不気味の一言に尽きる。
そして、そのままある程度の距離を確保した『最初の一輪』は唐突に動きを止めたかと思うと、重力を無視した様な動きで勢い良く起き上がる。
同時に、体から生じた花々に『光脈』のエネルギーを集約させると、一気にそれを放とうとした。
「ッ!!」
再びの光弾攻撃の前兆に、私は『茨の剣』を構えて迎撃態勢を取る。
しかし。
『――――GGGGGギィィィッッッッ!!!!???』
『最初の一輪』が光弾を放とうとした瞬間、銃声が連続して鳴り響いた。
直後に飛来した銃弾が『最初の一輪』の体に生じた光弾を放つ為の砲塔である肉花に次々と着弾し、光弾の『射撃』を妨害する。
銃声の出所を咄嗟に目で追うと、拳銃を左手で構えたライナが私から少し離れた位置に立っている事に気が付いた。
ライナは『最初の一輪』の射撃を止めた後も、容赦無く引き金を引き続ける。
傷を負っても再生出来るとはいえ、銃撃自体は効果がある為、『最初の一輪』はライナが撃ち込んで来る銃弾を鬱陶しそうに腕で遮ろうとするが……。
「そんなでかい図体してんのに、腕だけで防御出来ると思ってんのか?」
無感情にそう言い放ったライナは、『最初の一輪』が銃弾を遮ろうと構えた両腕の間を縫う様に次々と銃弾を撃ち込んで行く。
堪らず後退った『最初の一輪』は、怒りの声を上げつつ――――先程ライナに切り落とされた筈の、左腕の触手を振り被った。
『――――■■■■■■◆◆◆◆◆◆!!!!!!!!!!!』
ライナの短剣によって切り落とされた触手が、傷口から飛び出す様にして再び生え揃う。
そのままライナに向けて再度振るわれた触手は、離れた場所に立つライナの元まであっという間に到達した。
複数の鞭と化した触手の束がライナを襲い―――――またしてもあっさり躱された。
「おっと。……やっぱり再生してなかったのはわざとか」
そう呟きつつ、今度は触手に攻撃はせず距離を取るライナ。
そこへ更に追撃せんと『最初の一輪』の触手が殺到しようとした。
「……ッ!!」
そうはさせじと身構えた私は、『茨の剣』の剣身を『鞭剣』状に変形させると、触手の束に向けて上段から思い切り振り下ろした。
『――――!!? GAAAAAAAAA!!!!!!???』
左腕の触手を地面に叩き伏せられ、『最初の一輪』が悲鳴じみた怒りの声を上げて絶叫する。
鞭剣の状態では『茨の鞭』に比べてしなやかさが失われているが、その分強度が高く一撃の殺傷力が増している。
更に、地面に触手を叩き付けると同時に表面の棘で触手を縫い留めた形となる為、『最初の一輪』はその場から動けなくなった。
だが、『最初の一輪』は躊躇わずに左腕の触手を引き千切る様にして切り離すと、再び後方に跳び退いて私とライナから距離を取った。
『――――GYYYYYYYYYY………!!!!!!』
「ははは、怒ってるなぁ。横槍入れられたのがよっぽどムカついたのかな?」
「笑い事じゃないでしょ、もう……」
鞭剣を『茨の剣』に戻し、『最初の一輪』の動きを警戒しつつ、私はライナの元へ走り寄った。
散々銃弾を浴びせられて邪魔をされた『最初の一輪』は、私と言うよりもライナに対して特に怒りの感情を向けている様に見える。
……もしかして、ライナが普通の人間だからって事も関係しているのかな。
理性を失っていても本能的な感情自体は残っているのか、『最初の一輪』は私達に対して憎悪を剥き出しにしている。
その一方で、本能の赴くまま攻撃を仕掛け続けるという訳でもなく、先程の様に一旦距離を取って仕切り直す様な事も出来るらしい。
自我が崩壊し、思考レベルが獣程度に落ちたと言っても、一概に獣の知能が低いとは言い切れないのだ。
それに……さっきの攻防の中で気になった事もある。
「……私の剣を回避した時の動きって、さっきライナが光線や触手を避けた時の動きに似てたよね?」
「ああ、そうだな。腕の剣を振り回すのも、なんて言うか……やたらめったら振り回してるって感じじゃないよな。……太刀筋が何となく操に似てるか?」
やや距離を空けた位置で肩を並べつつ、私はライナと言葉を交わす。
光弾をライナが迎撃し、私がそのまま『最初の一輪』へと斬り掛かった際、『最初の一輪』が見せた回避の動き……。
空中に跳躍していた事で身動きが取れない筈の『最初の一輪』は、下から掬い上げる様な軌道で放たれた私の一撃を、その巨体を空中で無理矢理捻って回転させる事でギリギリ回避してのけていた。
人間で考えれば到底そんな動きは出来そうにないが、冷静になって思い出してみると、直前の攻防でライナが同じ様な動きをして光線や触手を回避していたのだ。
『偶像』を操って私と戦っていた時にも、剣を交える内に力任せに大剣を振るうのではなく、技を用いて攻め立てて来る様になって行った。
……もしかすると、複雑な『光脈』の能力を行使しなくなった分、単純な戦闘能力は寧ろ向上しているのかもしれない。
とは言え、やはり『光脈』の総量そのものは、枯死毒や感染毒による度重なる精神的・肉体的ダメージにより大きく摩耗しているらしい事は間違いなさそうだ。
再生されているとはいえ、私の攻撃は元より『光脈』を用いる事が出来ないライナの攻撃でも問題無くダメージを与えられている。
となれば……狙うべきはただ一つだ。
「ライナ、胴体……って言うか、胸部?の大きく膨らんだ所、分かる?」
「ああ、あの青い……なんか、ゴボゴボ泡立ってるみたいになってる所か?」
歪に肥大化した上半身の内、人間で言う所の胸部に当たる部分。
その内部で心臓の様に脈打ちながら泡立つ、青いアメーバ状の物体を指してライナが私の問いに答える。
あれこそ『最初の一輪』……『ブルー』本体であり、本来なら結晶状になって彼女自身を守る『鎧』の役割を担っていた部分だ。
そんな『鎧』は『ブルー』が私の仕掛けた精神攻撃によって自我崩壊を起こして以降、結晶状態を維持出来ずに泡立つ青い何かに成り果ててしまっていた。
ライナには見えていないと思うが、濁ったアメーバ状のそれの中には、薄っすらと小さな花の姿が浮かび上がっている。
『探知』の能力によって『光脈』を全て可視化出来る私の目にも何とか見える程度の希薄なその姿から、『ブルー』と言う存在その物が既に極めて弱体化した状態にあると思われた。
そして、それでも尚『最初の一輪』こと『ブルー』の本体は青いアメーバ状の物体の中に居る小さな花であり………それこそが、私達が倒すべき存在だった。
「あれの中に『ブルー』が居る。あの中にいる彼女を倒さないと、いくら攻撃しても『体』の方は再生されてしまう。……ダメージを与えて消耗させる事は出来るから、無駄じゃないとは思うけどね」
攻撃は効く。
しかし再生される。
一方で再生には『光脈』を消費する為、『体力を削る』と言う意味合いでは有効だ。
だが如何に弱体化したと言っても、『体力』がどれ程あるのかは私にも分からない。
少なくとも、『探知』で感じ取る事が出来る『ブルー』の『光脈』の総量は現時点でも私を大きく上回っているのだ。
故に、本体を叩くのは勿論だが、再生能力を使わせない様にしなくては幾ら攻撃が効いても意味がない。
つまり―――――。
「……なるほど。結局のところ一番有効なのは操の攻撃だから、俺は主に奴を消耗させつつ囮役って感じか?」
それが、対『最初の一輪』における最終的な戦法だった。
『光脈』を用いた私の攻撃であれば再生能力の阻害を行えるのは変わらない。
ならばメインの攻撃役は私が行い、ライナはサポートと……囮役だ。
『最初の一輪』が現状、どちらかと言えばライナに対して怒りを向けている事を利用するのだ。
はっきり言って危険極まりない役回りだが……この配役は変えようが無い。
「危険だけど……お願いして良い?」
この期に及んでライナの強さを疑う様な事はしない。
だが、それとは関係なくライナの身が心配で私は彼の顔を見た。
こちらを見るライナの双眸には、不安そうな表情の私が映っている。
「死なない奴を相手にするのは流石に初めてだけど……まぁ、何とかなるだろ。要は、痛めつけてやれば良いんだしな」
笑みを浮かべてそう言ったライナの表情は何の気負いも感じさせない。
……本当に、どんな時でも変わらないね。
けど、そんなライナの様子のお陰で、緊張で強張る体から力が抜けた気がする。
そうだ、気負う必要は無い。
何せ、私より強いライナが全力でサポートしてくれるのだから。
私はライナを信じ、自分の役割に……『最初の一輪』を倒す事に集中すれば良い。
左腕の触手を再生させ、憎しみの感情を燃え上がらせる『最初の一輪』を前に、私は再度息を整えて戦闘に意識を集中させるのだった。