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13 とある終わり


ナースステーション内に入り内部の様子を伺う。


廊下に面した部分がガラス窓になっている為、外から内部の様子はおおよそ見えていたのだが……。


「……血まみれだね」


内部は床や壁に夥しい量の血が飛び散り凄惨な光景を生み出している。


幸いにも……と言って良いかは不明だが、死体はやはり見当たらない。


「さっきの怪物……木人の事を考えるとあんまり良い事でも無いんだろうけど……」


先程廊下にあった死体袋の山を考えると、時間が経った死体や花人はあの木人の様になるのかもしれない。


その場合、この病院内には花人だけではなく木人も複数いる可能性もある。


今まで以上に周囲の警戒をしながら探索をする必要があるだろう。




「ここも電気はまだ通っているみたいだけど……」


操はまず、ナースステーション内の事務机に設置されたパソコンを調べてみる事にした。 ……しかし。


「……まぁ、パスワード掛かってるよね」


パソコンの電源を入れて起動してみたものの、立上げ時のパスワードを要求されてしまった。


セキュリティ管理としては至極当たり前の事ではあるが、今の状況では少々有り難くない。


「この分だと他のパソコンも同じかな」


ステーション内には他にもパソコンはあるが恐らくそちらもパスワードでロックされているだろう。


パスワードを探す時間は流石に無い為、他に手がかりになりそうな物を探さなければ……。


「書類の類もあるけど、どれも街がこうなる前の入院患者の治療状況とかみたいね……」


当直の看護師の日誌等もあった為一応内容を確認したが、書かれているのは日々の業務についての報告などだった。


しかし、日誌を読んでいると最後の何も書かれていないページが破り取られている事に気が付いた。


良く見ると机の下にその日誌から破り取られたページと思われる紙が落ちている。


「これは…………」


そこには日付は書かれておらず、震える筆跡で病院が崩壊した際の状況が綴られていた。



『もう生きているのは私だけになってしまった。 もしかしたら北棟の方にならまだ無事な人がいるかもしれないけど、どの道長くはもたないだろう。


 どうしてこんなことになってしまったんだろう? あの大きな花が街の時計塔を飲み込むようにして咲いてからこの街は地獄になった。


 花に体を乗っ取られた人達があちこちで生きている人間を襲い、命を奪われた物は同じ様に花が咲いてまた人を襲っている。


 この病院も騒ぎが起きた当初からあの奇妙な生物に襲われた人々の治療に当たっていたが、皆重傷者ばかりだ。


 何とか助けようにもあまりに数が多く、死んだ傍から花が咲いて暴れ出す。 頭を破壊するか切り離しておけば動き出さない様だった為、やむを得ず死んだ者は頭を切り落として死体袋に入れた。


 まさに地獄だ。 しかし本当の地獄はその後にやって来た。 周辺の怪物達がこの病院に大挙して押し寄せたのだ。


 怪我人の治療と死んだ後に『咲いた』者達への対処で疲弊していた私達には為す術がなかった。 最初の襲撃で病院内の統率は完全に崩壊してしまった。


 そして二度目の襲撃は院内から発生した。 外から襲撃を受けて死んだ者達が、死体袋に詰め込まれていた者達が、一斉に『咲いた』のだ。


 頭を切り離した者達ですら今までの怪物とは違う、更に悍ましい姿になって蘇った。 もうどうしようもなかった。


 何とか逃げ延びて隠れていたがもう動けない。 このまま怪物に食われて死ぬか、餓死するかは分からないが、どの道私もあの怪物の様になってしまうのだろう。


 


 


                                                          いやだ だれか たすけて 』


「…………………………」


内容を見る限り、病院関係者が必死に怪物に襲われた人々を助けようとしていたようだ。


しかしそんな中発生した外部からの怪物の襲撃と、息絶えた死者が一斉に開花した事による内部の混乱によって病院は完全に崩壊した様だった。


「この場所が避難場所になってるって話だったけど、そもそも外部から襲撃されたんだ……」


ライナの話によれば怪物はこの病院の方角からやって来ている様であり、避難所になっていた関係から避難した人々が怪物となってしまったのでは?との事だった。


しかし、この日誌の内容からすると……。


「……何だか狙った様に内と外から襲撃されてない? 死人が一斉に開花して怪物になったってあるけど……」


病院の入り口である正門周辺には警察車両と思われる車が何台も停まってバリケードが作られていた形跡があった。


その様子から考えると怪物は警察が武装して対応していたのだろう。


その上で病院が壊滅してしまったのだとすれば、相当な数の怪物が襲って来たという事になる。


だが、日誌にある通り、院内の死者が襲撃のタイミングに一斉に開花したのだとすれば、例え武装した警官隊がいたとしても、挟み撃ちにされてはただでは済まないだろう。


「どっちにしろその時点で殆ど生き残りはいなかったのかな……」


そう呟きつつ、ちらりと日誌のページが落ちていた机の下を見る。 そこには植物の一部と思われる細かい枝葉が散乱していた。


色合いを見る限りあの怪物……木人の体の一部だろう。 それを考えると……。


「あの木人……このメモを書いた人だったのかな……」


恐怖に震えながら死にたくないという心情を吐露した誰か。 その悲惨な末路を察し、操はやるせない気分になった。


しかし、既に過去に起きた事は変えようがない。 せめて自分が止めを刺したことでその恐怖が終わった事を祈りつつ、操はその場を後にするのだった。


短かったので2話投稿

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