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私の日常は変化する

本日から一日一本にペースダウンします。今後ともよろしゅう

「あら、桃木さん。トイレ長かったけど大丈夫?」


「はい、先生」


 私は養護教諭にそう返してから、行く前と同様に机に座り、参考書を広げる。保健室は教室と違ってエアコンがはいっており、心地よい空気が流れている。私が借りている机はメンタルケアにも使われるところなので、雑音も少なくて良い。


「頑張るのね。でも無茶はしちゃダメよ?」


「ありがとうございます。でも今日は調子が良いので」


 いつもより集中力がある気がする。それに、バケモノと戦ったあとだというのに疲労感もそこまでない。


「……、教室に通う気はまだない?」


「……」


「いや、忘れて。それより定期試験が近いんだったわね。私今から職員室に行くけれどなにか聞いてきた方が良いことはある?」


「ありがとうございます先生。でも大丈夫です。テスト範囲もわかってますし」


「真面目でなによりね。それじゃあ、もし誰か来たら言伝をお願いね」


 養護教諭はそう言うと、何やら書類を複数まとめてから保健室から出ていった。これが私の日常だ。一日の大半を保健室で過ごし、たまにトイレに行くフリをしてバケモノを倒す。両親が遠い外国に、私を日本に残したまま行ってしまったという特殊な事情が、こんな状況が長々と続くことを許していた。


「……、勉強進めないと」


 あるのはテストで点をとっておこうという打算と、暇な時間をどうにか過ごすための模索だ。じゃなければわざわざ嫌いな科目の勉強までしない。まあ好きな科目っていうのもないけれど。



 鐘がなり下校の時間になる。基本的に部活に入らなければいけないうちの学校は、放課後から余計に騒がしくなる。


「あら、もう帰るのね。気をつけてね」


「先生、さようなら」


「はい、さようなら~」


 養護教諭に挨拶してから、帰路につく。そこまで家は学校から離れてないので、歩きでいつも通っている。



 鍵を差し込むと、いつもとは違い鍵がスッと回る。今朝鍵をかけわすれたかと思ったけれど、そういえばお兄さんがいたと思い出して玄関をくぐる。


「あっおかえり~」


「……?」


 どうやら目が疲れているらしい。バケモノとも戦ったあとだし、気が付かないうちに幻覚を見てしまうほどに疲労が溜まっていたようである。


「ご飯にする?お風呂にする?それとも……なんてな。おかえり」


「あっえっと……お兄さん?」


「ん、なんだ?」


「あの、その服とエプロンは?」


「ああ、これか?」


 お兄さんはくるくると全体をこちらに見せつけてくる。短パンと無地のパーカー、その上から可愛らしくもおとなしいエプロンをしている少女がそこにはいた。


「その服、どこで?」


「そりゃ魔法でな、とは言いたかったんだが普通に買い物のときに買ってきたんだよ」


「……もしかして」


 私は出迎えてくれた彼の横を通り過ぎてリビングに急ぐ。ドアを開け放った先には、まだ片付けきれてない買い物袋の山が、隅の方にひっそりと置かれていた。


「どれだけお金を使ったんですか」


「だって使っていいって君がいったじゃないか」


「遠慮とかはないんですね……」


「もしかして困った?」


「いえ、もともと使い所がなかったお金なんで別にいいんですけど……お兄さんの常識を少し疑うというか」


 まるで自重しない態度に、珍しい人だという感想を得る。私だったら遠慮して彼の1割も使わないだろうし、そもそもこんなに欲しい物もない。


「でもほら、馬子にも衣装というだろ?せっかくなんだからしっかり着飾らないとな」


「女物を着ることに抵抗はないんですか?もともとは男性だったのに」


「うーん、まあ人形遊びしてる気分だよ。MMOで女キャラ使うような感覚といえばいいかな」


「MMO?」


「ゲームだよ。パソコンでするような」


「よくわからないですけど、とりあえずメンタルのほうは問題なさそうで良かったです」


「えっナニソレ」


「ああ、聞いてないんですか?」


 健全な精神は健全な肉体に宿るという言葉のように、魂は肉体からある程度影響をうける。神の使いさんは、「もしかすると拒否反応を起こすかもしれない」というような話を私にしてくれた。


「ええなにそれ……こっわ~」


「無事なようでなによりです」


 それより、先程から良い匂いがリビングに漂ってきている。台所のほうから流れてきているようだ。


「っと、腹へってるなら先にご飯にしようか。もうできてるから先に手をあらってこい」


 そういって機嫌よく台所へと向かう彼は、口調さえなければどこからどうみてもただの家事の得意な少女のようだった。


「今日はあまり時間がなかったから簡単にしか作れなかったけどな。明日からはもっと凝ったのも作ってやるよ」


「どうしてそこまでして料理をするんですか」


「ん?だって楽しくないか?」


 料理はあまり自分ではしないし、調理実習などにもあまり参加してない。だから料理が楽しいというのは私にはわからない感覚だった。


「それに――」


 食べ始めた私の顔をみながら、彼はにやにやと笑う。


「自分の料理を美味しそうに食べるやつを見るのは最高にいい気分なんだよ」


 私があわてて顔を隠すと、彼はその笑みをより一層深めたのだった。


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