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そのカタチ

少し普段より遅くなりましたが本日2本目です。

 なるほどこれが正義か


 最初に考えついたのはそんなことだった。

 なんですんなりと飲み込めたか、それは簡単だ。


 俺だったら絶対にそうは思わないし、そう信じて行動することもない。そんな俺が悪側面だというなら、この正義のカタチにも納得がいくというものだ。


【急にどうしたんだい!】


「神の使いさん、お兄さんが急に割って入ってきて」


【もう、邪魔はしないでくれよ】


「これが……」


 問おうとして、しかし何も疑問に感じていない二人の表情を見てやめる。諦めた。ここで二人を説き伏せようだなんて、俺の性に合わない。


【とりあえず止めを頼むよ、ジャスティーヌ】


「はい、わかりました」


 魔法少女は、まるでスキップでもしてるように軽やかに、立ちふさがった俺の横を通りすぎていく。


「今度は良い子に生まれてくるんだよ!」


 返事の声があがるよりも先に、鈍い破裂音が室内に響く。見たら吐いてしまいそうだから、視界に入らないようにする。


「あの……大丈夫ですか?」


「ああ、俺は大丈夫だよ」


 突然集まってきた光の塊からできたタオルをうけとって、ヌメヌメした粘液をぬぐう。まったく汚れ損だったな今回は。


「しっかし、これ本当に大丈夫なのか?」


「ええ、神の使いさんが全部後片付けしてくれますから。私たちはもう帰っておきましょう」


「帰るってどこに?」


「表の世界にですよ」


 魔法少女ちゃんが光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはただの女子中学生に戻っていた。いや、変身解除ってどうするんだそういや。

 解除したい解除したい。


 っと、俺にも光がまとわりついてくる。うまくいったか……?


「あっお兄さんダメっ!」


「へっ?」


 彼女の警告は一足遅かった。光が霧散したあとには、一糸まとわぬすっぽんぽんとなった少女の姿した中身おっさんがホームセンターに立っているという悲惨な事件がおきていた。幸いまだ裏世界だから見られてないはず。そうであってくれないと二度目の死を迎えてしまいそうだからそうであってくれ。


「ちゃんと服を生成しないとそうなっちゃうんです」


「ごめんごめん。そこまでは都合よくできてないのね」


「あの、早く服着てください」


「えっ?」


「あなたの裸は私とほぼ同じなんですよ!早く服を魔法で作ってくださいよ!」


「ま……ほう……?いや、使い方を知らないが」


「……、そうでした。はい、どうぞ」


 さっきのタオルと同じようにどこからともなく現れた服は、そりゃ彼女と同じ寸法なのだからそうなのだが、ピッタリのサイズだった。しっかし色気に欠けるな。中学生ならもう少し着飾り始めてもいいだろうに。

 せっかく女の体になったんだし、今後は服なんかも考えてみるか。えっパンツとかブラ?一日で慣れたわ。


「何か変なことを考えてます?」


「ううん……素材は良いと思うんだけどな」


「えっ何です?」


「いや、なんでもないよ。それよりどうやって表の世界に戻るんだ?」


「魔法ですよ」


「いやだから、使い方を知らんのだが」


「はぁ……今回だけですよ?」


 そう言うと少女は俺に抱きついてくる。顔なんてほぼくっついているも同然だ。なんだずいぶんと大胆じゃないか。


「違いますよ?ただ密着しておかないと失敗したときに悲惨なことになるので」


「ちなみにだけどどうなるんだ?」


「表と裏の世界に半身ずつ分かれます、物理的に」


「ヒェ」


 そりゃ困るぜ。お願いだから失敗しないでくれよ。


「あの、そんな強く抱きつかなくても大丈夫ですからその、痛いです」


「ああごめんごめん。んで、魔法だっけか」


「といっても簡単ですよ」


 一瞬、重力が逆転したかのような浮遊感を感じる。そして無意識にまばたきをした後、もうすでにそこは壁も床もきれいなままの店内だった。


「すごいな。これ周りの人にはどう見えるんだ?」


「元からそうであったかのように記憶が改ざんされてます。都合がいいように、違和感を感じないようにです」


「うわぁそこは便利ぃ~」


「便利じゃありませんよ。魔法で実現させるわけですから」


「それも魔法なのね。さすが魔法だぜ」


 果たして俺が魔法を使うときはくるのだろうか。できればそんな面倒そうな技を習得しなくても済むような人生を送りたいのだが……まあ無理だろうな。さっきのバケモノも、明らかに俺を意識して狙いにきていた。


「というか学校は大丈夫なのか?」


「はい。もとから保健室登校なので」


「それは大丈夫と言うのか……」


「ちゃんと自分で勉強してますし、テストでちゃんと結果を出してれば問題ないですよ」


「へぇ、そんなもんなんだな」


 何も考えずに授業に寝に行ってた俺にはわからない世界だ。


「でも流石に学校にはいなきゃいけないんで戻りますね。お兄さんは……まだ買い物があるようですし」


「まあな。帰りを楽しみにしておくとよい。口座から減った額に驚かないでくれよ?」


「どうせ自分じゃ使わないからいいですよ、使い切っても」


 その言葉に嘘偽りが含まれてるようには感じなかった。それではと出口へと歩いていく彼女を見送りながら考える。もしかしなくても、欲求関連が全部俺に偏ってるのか?物欲も金銭欲もないような言い方だった。

 しかしそうか、『正義』で『表』であるはずの彼女がそうなら、俺のやるべきことは決まってる。


 俺は、彼女の無意識に抱えて抑え込んできた欲ってもんを全部解放させてやる。神の使いの思惑なんて知ったものか。俺は、俺の思うように、この人生を生きてやる。


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