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長話はコーヒーのあとに

 ドリッパーに豆をセットし、お湯が沸くのを待つ。適温のお湯こそ、美味しいコーヒーを淹れるコツだ。

 円を描くようにそっとお湯を垂らし、すぐに注ぐのを止める。蒸らしの工程は香りを楽しむ上でも重要な手順である。

 お湯入れすぎてはいけない。そして、最後の一滴をカップに落としてもいけない。


 そういった努力の末に、美味しいコーヒーは出来上がる。


【コーヒーはありがたいんだけど、そろそろ本題に入ってもいいかな】


「ああすまんすまん。つい力を入れてしまった」


【君の淹れるコーヒーは美味しいから是非とも力を入れて欲しいけど、今は別の話があるからね】


「んで、なんだよ。その話ってのは」


【まずこの件に関しては他言無用で頼むよ。当事者のジャスティーヌにもね】


「魔法少女にも……?」


 なぜ俺にしか話さないんだ?当事者ってどういうことだ?出てくる疑問はたくさんあれど、とりあえず話に耳を傾ける。


【まずバケモノが最近、異常なほどに強くなってきているのはわかるかい?】


「そういや話したり四足歩行したり、再生するやつもいるんだっけか」


【言語能力や歩行の仕方は特に影響はないんだ】


「問題は能力の方だな。再生能力持ちなんて強すぎるだろ」


【ああ、おそらくジャスティーヌじゃなかったら危なかっただろうね】


「あの破壊系魔法少女ならどうだ?」


【無理さ。アレは事象を捻じ曲げるタイプだからね。相手との実力差が開いてないと、あの力は役に立たない。もちろん普通のバケモノなら十分対処しきれるんだけどね】


「なるほど。んでそのバケモノが強くなっている原因は?」


【ここからは僕ら……神の使いを名乗る者たちの考察なんだけど】


 そういうと神の使い野郎はコーヒーに手をつける。猫舌でも安全域な温度のそれを啜って言葉を続ける。


【おそらくジャスティーヌと君、そして破壊系魔法少女の存在が原因なんだ】


「どういうことだ?」


 正義の魔法少女や破壊系魔法少女に加えて……俺の存在?


【パワーバランスさ。世の中は都合よくできていてね、善悪のバランスは一定なのさ】


「ってなると、魔法少女が集まりすぎたから比例的に敵も強さを増してるってことか?」


【そう。君は悪というには物足りないからね】


「そりゃすみませんね」


【おっと悪気はないんだ。それに不埒な輩と魔法少女とを接触させる方が危険だ】


 まあ俺が悪かと言われると、ただ欲望に素直なだけでそこまででもないとなるよな。


【安心してほしいのは、君という存在はシステム的にはちゃんと機能しているんだ】


「ずいぶんな言われようだな」


【言葉の綾だ、スルーしてくれ。そして問題は……そもそもジャスティーヌ自身にそこまで悪の要素がなかったことなんだ】


「んで、その薄いままの部分で反転している存在が俺って話だったよな」


【そう。だから君たちには善悪のグレーな部分が多いんだよ】


「まあ、そりゃそうだろうな」


 一人の人間を善悪のどちらか片方だけで表現するのは無理だろう。俺だって生きてる間に悪いことをしたことはあるし、善いことだってしてきた。


【もちろんジャスティーヌも一緒だった】


「だった……?」


【善くないこと。もしくは善悪の区別がつかないこと。その一部が……彼女にとっては善いことになってきたということだよ】


「どういうことだ」


【君という存在さ。多少悪いことでも、君と一緒なら”彼女にとっては”善いことになってしまったんだ】


 そんだけ懐かれているってなると嬉しいな。だが、嬉しいって感情だけで話を終わらせちゃいけない。


「俺は消えた方がいいのか?」


【とんでもない。しかしこのままでもダメなんだ】


「バケモノが強くなるからか?」


【それだけじゃないさ】


 神の使いは深くため息をついて黙り込む。悩んでいるようだ。


「いいから言えよ。魔法少女のサポートは俺の領分だ」


【……、このままではジャスティーヌが正義の魔法少女でなくなってしまう】


「そりゃ一大事なわけだ」


 正義の魔法少女が消えてしまえば、神とやらからしたら大きな損失だろう。バケモノは強くなり、魔法少女の戦力は弱くなる。そしたら被害も大きくなるのは明らかだ。


「でも、なんで俺に話すんだ」


【……すまないね】


「俺にできることはあんのか?」


【ないよ。君にはどうしようもないことだ。そして、僕ら神の使い側でもどうしようもないことなんだ】


「おいおい、いつものご都合主義はどうした」


【それでどうにもならないから困っているんだよ】


 沈黙。緊張感なくコーヒーを啜る音だけが食卓に響く。


「じゃあどうするんだよ」


【ジャスティーヌが自覚するまで、放っておく……】


「でもバケモノは強くなっていってるんだろ?」


【きっと、苦戦するだろうね】


「苦戦するじゃ……ねえだろ。死んだらどうするんだ」


 コーヒーカップをコトリと置いて、神の使い野郎はまたもや沈黙した。


「なるほど、その時のためのこの体か」


 ほぼ同じ容姿、裏世界に行ける身体。

 力の側面が中の人格によって変化するのならば、この身体に魔法少女の中身が入ればきっと第二の正義のヒーローだ。


【すまない】


「謝んなよ。そもそも、その提案はお前のじゃねえだろ」


 すくなくともこいつがそんなことを発案する性格には思えない。


【怒らないんだね】


「まあ、俺にとって都合が良すぎたからな。むしろ納得がいったさ」


 もしもの時のバックアップ、その日までの仮の魂って扱いなのだろう。だから俺だけにこの話をしてくれた。それが神の使い野郎の良心だろう。


「っともうこんな時間か。俺は朝と弁当の用意を始めるよ」


 台所に立ってエプロンを着る。久々に弁当も凝ってみるか。ほぼ徹夜で時間もあるしな。


「ニャーン」


「起きたのか。水を変えるから待て待て」


 早く変えろと言わんばかりに水の器を持ってきた猫をあやしつつ、蛇口を捻り洗い物から始めることにした。


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