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たぶん世界は俺の左腕に恨みがある

数日筆に手が伸びずに休んでました。今後もたまにモンドを救ったりオリンパスに旅立ってるかもです。sry

 魔法少女に変身することで多少の恩恵は得られても、ただの一般人である俺には限界というものがある。


「はぁ……はぁ……さすがにタフすぎんだろ」


「ぐるるぅぁ」


 さすがの俺も、もう30分以上走り回れば肩で息するようになる。しかも塀を乗り越えたり障害物で即席のバリケードを作ったりとしているため、普通に走るよりも消耗が激しい。


「魔法少女はまだかよ」


【残念なお知らせだけどね】


「なんだよいきなり」


【ジャスティーヌ、他のバケモノと戦ってしかも苦戦しているようなんだ】


「おいおい、マジかよ……」


 あの正義の拳で苦戦なんて、永遠に回復するやつでも現れたのか?ピンチにピンチを重ねるな!コメディジャンルだろ!


「なあ、マジで実は秘められた力なんかあったりしない?」


【残念ながらないよ】


「ったくどうしろってんだよご都合主義の神様よぉ!」


 再びバケモノが走り出したのをみて、俺も重い足を動かす。もう1週間分は走った気がする。なんなら一ヶ月運動しなくても良いくらいに動いた。


「そういやあいつらは?」


【巻き込まれた彼らなら安全な場所に避難させてるよ】


「そりゃなによりだ」


 ふふふ、もし俺がコイツに喰われたら最期に話した人間はあいつらか。嫌だなぁせめてもう少し関わり合いのあるやつがいい。肉屋のおっちゃんとかスーパーのレジのおばちゃんとかでいいからさ。


「ぐるるぁ!」


「あっっぶね!!!」


 バケモノの鉤爪をなんとか避けて、汗を拭う。もはや運動後の汗なのか危機感による汗なのかもわからない。とにかく避けて逃げて時間を稼ぐしか、俺にできることはない。


「でも限界ってもんもあるんだよ……ちきしょう」


 長く及ぶ逃走劇は、幕を閉じた。まるで先回りされたかのように誘導された袋小路で、俺ができることなどない。


「袋の中のネズミってか?ったく俺は猫派なんだけどな」


 よだれがダラダラでているバケモノは、自分の勝利を確信したようである。いただきますと言わんばかりに、大きな口を開けて飛びかかってくる。


 万事休す



=*=*=*=*=



「おねがい……間に合って……!」


 願いを叶える力を持っているというのに、私のこういう願いだけはいつも叶わないのだ。


「……っ!お兄さんだめ、そっちは行き止まり!」


 2つの気配が完全に静止した。バケモノと、それからお兄さんとだ。


「間に合え……!」


 一層足に力をいれる。もう瞬間移動する体力も空を飛ぶ力も残っていない。常人とは比べ物にならないほどの速さでも、間に合わないものはある。


「嘘でしょ……」


 バケモノの気配とお兄さんの気配が、完全に重なった。



=*=*=*=*=



 痛みが一定レベルを超えると熱さと認識するとどこかできいた。かくいう俺も今、そんな気分だ。噛みつかれた左腕が、まるで燃え上がっているかのように自分の危機を脊髄を通して脳に警鐘を届けてくる。


「ぐっぁぁ、日本にはなぁ……良いことわざがあるんだよ」


 驚愕した表情を浮かべるバケモノをみて、俺はにやりと笑う。目を見開いてくれるのでありがたい。


「窮鼠猫を噛むってなぁ!」


 俺は噛みつかれた、否、わざと噛みつかせた左腕を引き、その見開いたバケモノの目ン玉に尖った石を叩き込む。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」


「痛いか?ふふふ、俺もいてえよ畜生め」


 拾えたのはボロボロのコートくらいで、いくらその布切れで保護してもバケモノの牙の鋭さと顎の強さはやすやすと貫通してきた。そのくらいは想定内だ。というか、痛みで意識を失わなかった俺を誰か褒めてほしい。


 バケモノは未だに痛みに呻いている。ふふふ、ざまぁ見やがれ。


「あとは……頼んだぜ……」


 さっきまでの熱さが嘘のように、今は寒い。足元からは水たまりの音がするし、目も霞んできた。


 力が入らなくなった俺を、誰かが優しく抱きとめる。ったく、正義だなどこまでも。


「遅れて……ごめんなさい」


「あやまる暇があったらさっさとやっつけてこい、早く風呂に入りたい」


「……はい」


 なんとか、間に合ったみたいだ。



=*=*=*=*=



「神の使いさん……」


【ごめんよジャスティーヌ。僕には何もできなくて】


「いいんです。それより彼を」


【ああ、任せてくれ。彼の治療も僕の領分だ】


「お願いします」


 私は抱きかかえたお兄さんをそっと地面におろす。表の世界なら失血死してもおかしくないほど、彼は血で汚れていた。


「さて、バケモノさん」


 私は深呼吸をする。


 今の私はどこまでも冷静だった。冷静に、正義を、自分の思い描く正義を執行する。


「お話、しましょうか」


 せめて苦しませずに


 それが今回の私の正義。



=*=*=*=*=



 いや、死ぬかと思ったわ。ていうかほぼ死にかけてたよね、俺。

 でも見てください、この左腕!まるで新品でしょう?まあ聞きかじったところによると新品という表現は間違っていないらしい。魔法少女の左腕をトレースして再生成したものらしいので、今までの俺の左腕とは一味違う。いや、味は確かめてないけどな。


 先日の結末から言えば、魔法少女が3体中の2体を殲滅して騒動は終了したらしい。

 1体は俺に噛み付いてきたやつだな。あのあとワンパンで終わらせたらしいのだが、俺は気を失っていたので実際には見れなかった。

 ちなみに俺のところにくる前の1体は、どうやら本当に再生型だったようで、曰く粉微塵にして土とミックスして埋めてきたらしい。これは神の使い野郎が後片付けが面倒だったと愚痴っていたので、おやつのサーターアンダギーを一個おまけしておいた。


 というわけでまあなんとか終えた一騒動は、これで終わり。いつもの日常にもどる――



――と思っていた時期が私にもありました。


【ジャスティーヌさん。またバケモノが】


「……うん、わかった。すぐに行く」


 あのあと1週間、神の使い野郎が魔法少女に敬語だったのは何故だったんだろうか。

 その理由を知らぬまま、俺は膝の上の猫をなでながらお菓子に手をのばすのであった。


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