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これが罪の味……

少し遅れました申し訳ない

「ん……ふわぁぁ、朝か……」


 のっそりと起き上がって目をこする。しばらくパチパチとまばたきをして、スマホを確認する。


「朝っていうよりは昼な時間帯だな」


 久しぶりにここまでぐっすりと長く寝た気がする。別にいつも睡眠時間が短いとかそういうことは一切ないのだが、やっぱりこう目覚ましとかで起きるのではなく自然と目が覚めるまで寝るとなると満足感が段違いなのである。


「さてと、何しますかね~」


 魔法少女はちゃんと出かけたようで、朝ごはん用にと買っておいたパンが一切れなくなっていた。

 俺はとりあえずお湯を沸かして、インスタントのポタージュを飲む。やばい、体がポカポカしてなんだかまた寝れそうだ。



 いや、休むって決めたし寝てもいいな。



「よし、寝よう」


 俺はもう一度布団にもぐりこみ、目を閉じる。そとからの日差しでの相乗効果もあって、次第に思考がとろけてくる。


「あ~ここがホームだ」


 やはりベッドの上が一番落ち着く。適当にWebサイトを眺めていれば、いつの間にか二度目の眠りについていた。



 次に目が覚めたのは、夕方だった。小腹は空いているものの、もう少しすれば魔法少女が帰ってくるであろう時間帯。晩飯に備えて我慢しつつ、てきとうにテレビをつける。


「くっそ……なんでこういう時間帯に限って飯テロ番組なんだよ……」


 まだゴールデンタイム手前の時間帯。番組表を見ても面白そうな番組はない。仕方なくテレビを消し、ソファで寝転がりながらスマホをいじる。


 しばらく電子書籍版の漫画なんかをめくっていると、チャットアプリに通知がくる。魔法少女からの、もうすぐ帰るとの連絡だ。んじゃそろそろ頼むか……。


 俺はスマホを操作し、奥底に眠らせていたアプリを開く。てきとうに目についたものを自分の胃袋と相談しながらポチポチと押し、住所と名前を打ち込む。


 ふふふ、これは罪の味がするぜぇ。



=*=*=*=*=



「ただいまです。……お兄さんこれは?」


「グッドタイミングだ」


 俺は食卓で組んだ手の上に顎を乗せながら、グラサン越しに少女を見つめる。ふふふ、やはりこの罪を知らなかったようだ。


「お兄さん?」


「……だ」


「はい……?」


「これはデリバリーという文化だ」


 俺は食卓に並んでいる箱たちを開ける。そこには、先程のアプリで注文したピザたちが並んでいる。サイドメニューのチキンやポテト、サラダなんかもある。


「でもお兄さん、ピザとか作ってましたよね」


「確かに、ピザもどきは作った」


 案外オーブントースターで作れるもんだからな。だがそうじゃない。


「ちゃんとしたピザを、自宅で、そして自分はなんの労力も支払わずに食べる。これが罪の味だ」


「罪……ですか。やはりお兄さんは変わった人ですね」


「ばっきゃろう。他人の飯を食うのが俺は一番好きなんだよ」


「は、はぁ。そうなんですか」


「それにデリバリーピザは店としてやってる以上、ある程度の味は保証されてるからな。なによりピザってのはカロリーの暴力だ。カロリーは美味しい、人間はそう感じるようにできちまってるのさ……」


「お兄さん、よくその理論で太りませんね……」


「おっと今日に限ってはそのワードは禁句だぞ?」


 やめろ。デリバリーピザを食べるときはこうなんというか救われてなきゃダメなんだよ。だからそのワードで現実に戻さないでくれ。


「そういえば体重計、使いました?」


「やめだやめ!せっかくのピザが冷めちまうだろ、早く食べよう!」


 けっして体重を気にするなんてことをしていた日々を思い出したわけではない。断じて、ない。



=*=*=*=*=



 ふぅ、と息を吐いて手を温める。まだ冬服を出すには早いけれど、バイトの都合上バイクにのる私には手袋は必須だった。しかしその手袋は本日お休みしており、今はきっと部屋の中でびしょ濡れのまま干されている。


「えっと……〇〇番地の桃木……ここか」


 住宅地はこの時間だからか、美味しそうな匂いがどの家庭からも漂ってくる。しかし私はバイト中。この世知辛い世の中では間食する暇すらない。



ピンポーン


 インターホンを鳴らせば、はーいと可愛らしい声が聞こえる。


「ご注文ありがとうございます。◯✕ピザのお届けに参りました」


『ちょっとまってな~』


 しばらく待っていれば、バタバタと足音が止み、扉が開く。


「桃木さんのお宅でお間違いないでしょうか?」


「はい」


「お会計が〇〇円になります」


「じゃあ一万円から」


 財布からピッと出す福沢さんは、なんとなく受取人の少女には似つかわしくない気がした。


「こちらお釣りでございます。それでは商品ですね」


 保温バッグからとりだせば、香ばしいピザの香りが鼻腔をくすぐる。


「ありがとう」


「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


 少女相手でも客は客。マニュアル通りではあるものの私はしっかりと礼をする。


「あっお姉さん少し待ってて」


「……はい?」


 少女はあわててパタパタと家の中に入っていくと、少しして戻ってくる。


「はい、バイクだと寒いだろ?さっき開けたばっかだからまだしばらくは持つと思うから」


 そういって手渡されたのは、カイロだった。まだじんわりと熱くなってきた頃合いで、かじかみそうだった手に温かさが染み渡る。


「んじゃ、ありがとな」


 そういって少女は家に戻っていってしまった


「桃木……さんね」


 なんとなく救われたような気がして、私の頭の中にその名字がとどまったまま、店への帰路についた。


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