最近頑張りすぎてね?
「うん、ダメだな」
「何がですか?」
「いや、俺の話だ」
ここ数日を振り返って見れば、多少頑張りすぎた気がする。毎日のように家事をしてるし、だからといって趣味を疎かにしているわけじゃない。ちなみに今はオンライン対戦ゲームに熱が入ってる。
「というわけで」
「どういうわけですか」
「いいんだよ。とにかく……俺は明日は何もしない!」
「……はい?」
「明日は俺の休日にする」
「休日ってお兄さん仕事も学校もないじゃないですか」
「いや、それは確かに事実なんだが言い方考えよ?何気ない言葉で傷つく人だっているんだぜ?」
「そうなんですか?よくわかりませんが……すみません」
うん、ちょっとダメージを受けたがちゃんと謝ってくれたのでよしとする。いやまあ俺はこうやって仕事も学校もないのが仕事みたいなところあるからさ?いいんだけどさ?なんかだか成人男性のメンタルの方にくるものがあったんだよね。
「というわけで明日は朝起きないし昼も購買かなにかで買ってくれ」
「わかりました。夜はどうするんですか?」
「罪を犯す」
「罪……ですか?」
やべ、正義センサーに引っかかったか?
「いや、そんなセンサーないですけど」
「ナチュラルに心読まないでくれる?」
「顔にわかりやすく書いてあったので」
新しい体だから表情筋の制御できてねえのかな。そんなに表に感情が出るタイプじゃなかったんだけどなぁ。まだまだ慣れないことだらけだ。
「お兄さんは明日、家事などをせずに何をするんですか?」
「何もしない」
「えっ?」
「だから何もしない。好きな時間に起きて、適当に飯だけをすませて、スマホでも見ながらごろごろしながら過ごす」
「な、なるほど……?」
「晩飯はもう考えてある。風呂も正直一日くらい洗わなくても水でさっと流せばいい。洗濯だってこの量ならなんとかなる。アイロンは……さすがにやんねえとかな」
「あっじゃあ私がやります」
「なっ……できるのか!?」
「お兄さんが来るまでずっと自分でしてたわけですが」
「てっきりクリーニング店とかそういうサービスに頼んでるのかと」
魔法少女はそっと目をそらした。
「……ないです」
「えっなんだって?」
「たまにしか頼んでないです」
「ま、いいんじゃね?毎晩アイロンかけるの大変だし」
「でもお兄さんは毎晩私の分まで」
「そりゃ俺にとっちゃそれが仕事みたいなもんだからな、気にすんな」
「はい。それじゃあ……ごちそうさまでした」
魔法少女は手を合わせてそう言うと、食器を片付け始める。ちゃんと流しに置いてくれるので、洗い物が楽だ。魔法少女まじ良い子。
「それじゃあお兄さん……あの」
「ああ、風呂入るか」
ここ最近はすっかり湯船に浸かるのが習慣になってしまった。
二人と一匹なら水道代はどっこいどっこいかと最初は思っていたのだが、髪を洗うときにシャワーを使わないと魔法少女に怒られてしまうので毎日が予算オーバーである。残り湯を洗い物なり洗濯なりに使ってはいるものの、なんだかこう貧乏性な俺がちくちくと刺してくるのだ。
まあ貧乏性俺くんより魔法少女ちゃんのほうが影響力が大きいのは仕方がないね。さすがの俺も、あんな破壊力のある拳の持ち主の機嫌は伺うのである。それに今現在は家主でもあるわけだからな。
「着替えとってきな。俺はもう持ってきてるから」
「はい……」
ちょうど音楽が鳴り、電子音声でお風呂がわきましたとアナウンスされる。ナイスタイミングだ。
というかふろ自動って便利すぎるだろ……。俺氏驚愕なんだが。実家はおろか、前の体で住んでいたマンションにもなかったぞ。まあ駅から近いってだけの格安マンションで選んだから設備は仕方ないってのもあるかもしれんがな。
「先に入っとくな」
「はい、すぐ行きますね」
今日はなんの入浴剤をいれようかななんて考えながら、俺は洗いたてのタオルを手に風呂場へと向かった。




