まずはお茶でも一杯
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「ほらほら、見たとおりだよ?バケモノに襲われてさぁ。いやまじで来てくれて助かったよ」
「お兄さんの呼ぶ声が聞こえたので早めに来れました。すこし腕を見ても?」
「おっああグロいけど大丈夫か?」
「慣れてますので」
少女は俺の左腕のち切れた部分を撫でる。神経を直接なぞられているかのようなゾワゾワとした感覚を我慢しながら、ちらりと少女の姿を見る。いつもどおりの変身後の姿だったが、髪の毛が荒れてる。ずいぶんと急いで来たのだろう。
「あーこれはダメですね」
「えっダメ?」
「私には治せません。完全に消失してるので回復魔法も無駄ですね」
「マジかー」
隻腕っていろいろと不便そうなんだから嫌なんだが……。
「ちなみに神の使いさんが来れば治せます」
「そっかー」
あいつには今日、一切れ多くトンカツを入れてやろう。
「それにしても……綺麗な断面ですね。まるで事象ごと消し去られたような感じです」
「だよな。でも全然痛くないんだぜ?」
「おかしいですね。裏の世界でも痛覚はなくならないはずなんですが」
「おまえさんでもわからないか。じゃあ本格的に神の使い野郎待ちだな……」
「それで」
魔法少女は笑みを浮かべる。
「誰にやられたんですか?」
「バケモノに食いちぎられたんだよ」
「それにしては断面が綺麗ですね。しかも、痛覚がないのもおかしいです」
あれ、これってもしかして魔法少女結構怒ってる?やばい?
「お願いします、お兄さん。早く認めてください。そこの魔法少女らしき巫女服さんがやったって」
「おいおい、そんなこと言ってないだろ?」
「はい。実際に私がその場を見たわけでもないですし。だからお願いします。被害者であるお兄さんの口から言ってください」
「言ったらどうするつもりだ?」
「そうですね……残念ながら表と裏の世界を行き来できる魔法少女に対しては、私の拳は通らないので……」
そうなのか。この裏の世界では魔法少女どうしのフレンドリーファイアは禁じられているらしい。よかった血なまぐさい少女たちの殴り合いなんてなかったんや。
「……そうですね。昔読んだ本にたしか拷問術が乗ってました。まあ聞き出したいことはないのでやるだけですが」
「あの……正義の魔法少女さん……?」
「私側であるお兄さんを害する存在は悪ですから」
その理論ってつまり、悪に対してする行為はすべて正義の行為であるということか?少し不安な考え方だな。
「とりあえず、言ってください。あの謎の魔法少女にやられたと」
「なるほど……とりあえず事情はわかった」
ならば俺が言うべき言葉はひとつである。
「俺はバケモノにやられた、以上。これ以上同じことを聞くならばもれなく本日のトンカツが一切れ消えます」
「……、まあいいでしょう。そういうことにしておきます」
魔法少女はジト目でこっちを睨んでくる。一部層には需要があるかもしれないけど俺の趣味じゃないからやめなさい。
「おいおい、どこに行くんだ?」
「危害を加える気はもうありませんよ」
コツコツと音を立てながら謎の魔法少女へと向かう正義の魔法少女は、まあこう頼もしくもあるんだが、拳を握りしめていてコワイのである。言ったことは守るはずだから実際にその拳は使わないにしても、バケモノを吹き飛ばす拳である。どうしてこんな物理特化なんだうちの正義の魔法少女は。
「あなた、どこの所属ですか?」
「……、ジャスティーヌ様?」
「ええ、私はジャスティーヌで間違いありませんが」
謎の魔法少女は俺と正義の魔法少女を交互に見る。そして全てを悟ったかのように顔から表情が抜け落ち、涙を流しながら手を組む。
「ああ、私は今から殺されるのですね。ジャスティーヌ様に殺されるなら本望です」
ナニヲイッテルンダコイツハ。ていうか知り合いかよ正義の魔法少女さんよぉ!
「いや、私は知らないです」
目を丸くしながらこっちを見てくる魔法少女は、これまた複雑なことをいい始めた。
「いや、ちょっと待て。どういうことだ?何があってこうなったんだ?」
混乱してきた。
「とりあえず、あなたはどこの所属ですか」
「所属……?」
謎の魔法少女は首をかしげている。
「担当地域とかですよ」
「担当……?」
「もしかして説明をうけてないんですか?」
「説明……?」
魔法少女どうしで話が噛み合ってない気がする。大丈夫かコレ。
「……お兄さん、思った以上に話が複雑になってきそうです」
「んーーー、じゃあ仕方ないな。先にお茶にしよう」
「ちなみにお兄さんがこのまま帰っちゃうと腕が戻らなくなります」
「ダメじゃん」
どうせなら家で茶でも飲みながらと思ったが……、腕が治らないのは困る。
「あっ変身も解かないでくださいね?念の為に」
「りょうかい。いやぁ面倒だな」
あっやばい。切断面を触るのがクセになりそう。こうゾワゾワっとくる感じが。こうかさぶたとかイジっちゃうときあるよね。痛いってわかってるのにこうついやってしまうやつ。
「仕方ないし、自販機でなにか買ってくるわ。希望はあるか?」
「いえ特には」
「そこの謎の少女Xさんは」
「わ、私……?別にいらな――」
「了解、キュウリソーダな」
「りょ、緑茶でお願いします」
飲み物まで和風なのかい。キャラブレしねえな。
何も考えずに自販機まで一人歩いて気づく。あの場を二人きりにしてしまったと。




