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「この先、どうする心算?」
問うたのは、僕の中に居るもう一人のボク。
そう、ノアだ。
気が付けば、僕はいつぞやと同じ様な暗闇の中に浮かんでて、目の前にはもう一人のボク、ノアが居た。
どことなく不機嫌そうなのは、カリーナとの戦いに意気込んでいたのに、全て僕の筋書き通りに事が運んで出番がなかったせいだろう。
とは言えノアも僕なのだから、アレが最善を尽くした結果だと言う事は理解してる。
まぁ単に空回りした気持ちを持って行く場がないだけだ。
彼女の結末には、ノアだって充分に満足して、納得もしていた。
カリーナは、元の世界に帰還しただろう。
残念ながらそれを確認する術はないけれど、そんな風に確信している。
だからこそ今、ノアは役割を果たした僕に今後の事を問うた。
……でも、そんな事を聞かれても、別に答えは以前に問答した時と何も変わらない。
この世界でしなきゃいけなかった事は、確かに終えた。
でも僕のしたい事は、まだその最中だ。
征服、支配が出来たのはグランドリア大陸の中央部と、それからカリーナの基地が存在した西部の荒野位である。
北部には巨人が住むと言うし、南部には大きな港があって他の大陸と交易していると言う。
海中にも魚人や人魚が居るらしいし、ドラゴンロードのロゴス曰く、他の大陸には竜の楽園があるそうだ。
つまり僕が為したのは、世界征服にはまだまだほど遠い、ほんの僅かな地域の征服のみ。
それに支配下に入った地域も、今放り出す訳には行かない。
グランドリア大陸の中央部はミルクトセイラ国に統一させたが、人間と亜人の融和はまだまだ時間が掛かる。
技術の流布もまだ途中で、仮に今の段階で僕等が消えたら、彼等は未開人に逆戻りするだろう。
「本当に、明はそれで良いのか?」
ノアの再度の問い掛けに、僕は頷く。
この世界のどこかにまだ残ってるかも知れない、別の世界から勇者を招く方法も根絶させる必要がある。
その為にはこの世界を余さず征服、支配し、見逃しなく調べ上げなきゃいけない。
上手くすれば、その過程でこの世界で得た全てを、元の世界へと持ち帰る手段が見つかる可能性だってあった。
もしその手段が見つからずとも、全ての基地を自爆させれば多分元の世界には帰れるのだ。
別に急ぐ必要は何もない。
何せカリーナの例から考えれば、この世界で八百年を過ごしても、元の世界じゃ一年だった。
百年や二百年をこちらの世界で使ったって、上手くすれば帰っても留年せずに済むだろう。
だったらこちらの世界で世界征服はして帰らないと損である。
僕はカリーナと違い、この世界に来た事を少しも後悔してないのだから。
ノアにカラミティ・クィーン、秘密結社スコルの皆と過ごす時間は、僕にとっての宝物だ。
「そう、そうだね。やらなきゃいけない事は終わった。だからこの先は、ボク等の好きに征服しよう」
ノアはそう言って笑みを浮かべて、僕はふと我に返る。
気付けばそこは、空中要塞の司令室。
どうやら僕は戦いの後始末、傷付いた怪人達の再生指示を出した後、そのまま椅子に腰掛けて眠ってしまっていたらしい。
結果的に圧勝したとは言え、格上のプレイヤー相手に戦いを仕掛ける事がプレッシャーになっていたのだろう。
ふと見れば、傍らにはカラミティ・クィーンが控えてた。
何か用事があって来たのだろうけれど、僕が寝てたので起こさぬ様に待っていたのか。
……寝顔を見られていたのかと思うと、少しばかり恥ずかしい。
目が合った彼女は、嬉しそうに笑みを浮かべる。
この世界に来たばかりの時に比べると、カラミティ・クィーンも随分と柔らかい表情をするようになった。
あぁ、でもそれは僕だって、ボクだって同じかも知れない。
この世界に来たばかりの時は、首領として配下に無様を見せまいと、肩肘を張っていた様にも思う。
「ノア様、ご指示を」
僕は彼女の言葉に頷いて、戦いの為に中断していたこの世界、ミズガルズオムワールドの征服活動を再開する。




