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ズンッと、空中要塞が小さく振動した。
僕は思わず喜びに笑みを浮かべて、
「あぁ、もう、本当に、凄いなぁ」
そんな言葉を漏らしてしまう。
だってカリーナは空中要塞の主砲に対し、咄嗟に助からぬと判断した配下の怪人達を防壁として自らの消耗を最低限に留め、あろう事か高度を下げた空中要塞に対して単身で乗り込んで来たのだから。
本当に、凄いとしか言い様がない。
並の首領だったなら、もう自分の基地に逃げ帰って時間を稼ぎ、じわじわと圧殺される位しか出来ないだろうに。
彼女は未だ、僕の首を取る事で勝利を掴もうとしているのだ。
例えそれがどんなにか細くても、そこにしか勝ち筋がないとカリーナは直観したのだろう。
そう、この戦いは最初から勝敗の決まった物だったのに、彼女は強引にほんの僅かな勝利の要素を見出した。
自身の実力のみを頼りに勝負を掛けると言う、無理矢理に戦力計算の枠を超える方法で。
「困ったね」
僕は胸を押さえて呟く。
思わずこの司令室を飛び出して、迎撃に向かいたくなってしまうから。
多分この気持ちは、僕とノアの、共通した感情だ。
その奮戦ぶりで敵である僕等の心すら惹き付けるカリーナは、どんなに傷付いていてもやはりTOPクラスの、輝けるスタープレイヤーなのだろう。
だからこそ、僕は大きく息を吐いて、その気持ちを抑え込む。
輝きに魅せられて戦えば、九割九分決まった勝利を手放してしまう事になる。
それに基地への侵入者に対し、自ら迎撃に赴く様な腰の軽い大首領は、居ない。
今はシノビオウル、ホオジロ男、機人グラール、それからカミツキガメリウスが迎撃中だ。
秘密結社スコルが誇る上級怪人達は、消耗したカリーナには厳しい相手となるだろう。
けれどもそれでも、恐らく彼女はそれを乗り越えて、この司令室に辿り着く。
「クィーン、金森博士とアキの退避は?」
そして最後の上級怪人であるカラミティ・クィーンは、何時かの約束通りに僕の傍に侍っていた。
空中要塞が戦場となった以上、博士や技術者は真っ先に退避させる対象だ。
本当は僕も一緒に退避して、この空中要塞を自爆させるべきだとの提案も受けたけれど……、その勝ち方に救いはない。
「ロゴス基地への退避、既に完了しております」
カラミティ・クィーンの言葉に、僕は頷く。
なら大丈夫。
彼等の退避が終わっているなら、万に一つがあったとしても、立て直しは可能だろう。
シノビオウル、ホオジロ男、機人グラール、三体の上級怪人の名が、システムメニューの再生リストに加わった。
カミツキガメリウスは、まだ奮戦中らしい。
カリーナがこの司令室に辿り着くまで、後少し。
司令室の天井に幾重にも線が走ったかと思うと、爆発音と共に弾け飛ぶ。
サイキックソードで切り裂いた後に、念動力で吹き飛ばしたのだろうか。
強引な方法で入り口以外から司令室に侵入したのは、勿論侵入者であるカリーナだ。
だがカミツキガメリウスが余程手強かったのだろうか、彼女の姿は既にボロボロで、限界の近さを伺わせる。
しかしそれ故に司令室に飛び込んで来たカリーナは、息を突く事すらせずに床を蹴り、僕に向かってサイキックソードを振った。
彼女はもう、この瞬間にしか勝機がない事を悟っていたのだろう。
完全に獲物の体力を削り取り、勝利を確信して油断した僕が動き出す直前のこの一瞬に、カリーナは全てを賭けたのだ。
咄嗟に僕を守ろうとしたカラミティ・クィーンのサイキックバリアを難なく切り裂き、喉元に突き付けられるサイキックソード。
「ウチの勝ちや! 降参しぃ!」
そう宣言するカリーナ。
あぁ、やはり彼女は、以前に勇者を名乗ったプレイヤーを殺してしまった事にも傷付いていたのだろう。
世界を壊してしまいたいと思っても、同じ境遇のプレイヤーを殺したいとは欠片も思っていないからこそ、怒りと憎しみに狂っていても彼女は力場の剣を止めたのだ。
……けれども、
「残念、ハズレだよ」
勝利を宣言したカリーナを、超能力で生み出された力場の檻が包み込む。
そしてその力の発生源は、彼女が剣を突き付ける僕じゃない。
目を見開くカリーナの前で、僕の身体は色を失い、ぐにゃりと崩れて銀色の水と化す。
そう、彼女の目の前に居たのは、変身能力を持った潜入工作用怪人であるミヅガネだった。
ルードリム聖教国及び聖神教の解体により聖王に成り代わる役目を終えたミヅガネに、僕の姿を写し取らせて替え玉にしたのだ。
限界近くまで消耗していない本来のカリーナならば、或いは数秒でも僕の姿を観察していたならば、彼女はこんな手に引っ掛かりはしなかっただろう。
しかしカリーナの勝機はあの一瞬にしかなく、差し出された餌に喰い付かないと言う選択肢を選ぶ余地がなかった。
故に彼女は檻の中に囚われている。
こうなってしまえば戦い上手さはもう関係ない。
檻の出力を上回る力を出せるかどうかだけの問題となり、今の消耗し切ったカリーナには最早それだけの余力は残っていなかった。
握っていたサイキックソード、力場の剣も消え失せて、彼女はペタリとその場に膝から崩れ落ちる。




