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僕と彼の異世界征服活動記  作者: らる鳥


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 さて、全ての準備は整った。

 まぁ見落としはないかとか、他にも出来る事があるんじゃないかとか、考えてしまって躊躇うけれど、ここに来て引き延ばす意味はないだろう。

 だから僕は、システムメニューに表示された彼女の名前を、ポチリと押す。

 そして沈黙が、一秒、二秒。

 まさかこれで何も起きなかったら僕の覚悟は何だったのかって話になるけれど、そんな事はあり得ない。

 僕はそう確信してる。


 更に待つ事、五秒、十秒、三十秒、……一分。

 カチリと、何かが填まり繋がった気がした。


 ブンッと音がし、モニターに彼女が映る。

 記憶に残るそのままの、かつてのTOPクラスのプレイヤーだった妖姫カリーナの姿が。


 椅子に座している彼女の、閉じた目が開いた。

 ぼんやりと、不思議そうにこちらを、多分向うのモニターに映る僕を見る、カリーナ。

 二度、三度瞬きすると、彼女の虚ろな瞳が焦点を取り戻す。


「の、のあ君?」

 信じられないと言った風に、僕の名前をカリーナは呟く。

 彼女にとってはずっと昔の事だろうに、ちゃんと覚えててくれたのかと僕はほんの少しの喜びを感じながら、その呟きに対して頷いた。

 何より、思ったよりもカリーナが正気である事に、安堵を覚える。


 でも……、

「あぁ、あぁ、ウチ、帰って来れてんな。あの長い長い夢から、もう醒めてんな。ノア君がおるねんもん、ここは元の世界やんな」

 ボロボロと涙を流して泣きじゃくる彼女は、あまりに痛々しかった。

 いやそもそも、僕が居るから元の世界ってどうなのだろうか。

 だって僕とカリーナが出会ったのは、秘密基地をつくろうと言うゲームの中の世界だ。

 それを元の世界と称するなんて、あまりに寂しい人みたいじゃないか。


 けれども喜びの涙を流す彼女に、そんな茶々は到底入れられやしない。

 だが、それでも僕は、彼女の誤解を解き、喜びを否定する言葉を告げなきゃいけない。

 僕は覚悟を決める為、大きく大きく、息を吐く。


「違う。違うよ。カリーナ、君の悪夢はまだ醒めてない。君の封印は僕が解いた。だけれどここはミズガルズオムワールド、グランドリア大陸。……君が憎んだ世界だ」

 僕はカリーナに、そう告げる。

 喜びを否定し、希望を踏み躙り、絶望を呼び起こした。

 もっと穏便な言い方はあった様にも思う。

 優しい嘘を重ねた方が、良かったのかも知れない。

 ただその穏便な優しさの果てに救いはないと、僕は思ってしまったから。


「う、嘘や。嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や! だってノア君そこに居るやん。ウチと話しとるやん。何でそないな嘘つくん。違う、知らん、ウチやない。ウチが巻き込んでしまったんやない!」

 そして喜びの下に押し込められていた、煮詰まった怒りと憎しみが噴き出した。

 僕を呼んだのがカリーナであるかどうかは、今までハッキリしなかったけれど、彼女の口からそれが出たのなら、多分そう言う事なのだろう。

 別に責める気はないし、怒ってもない。


 僕には秘密結社スコルの皆が居たし、何よりノアが共に在る。

 この世界で得た経験と思い出は、カリーナには申し訳ないが、良き物が多かったと言えるだろう。

 それに加えてカリーナが僕に助けを求めて、僕が彼女を救えたならば、それはこの上なく嬉しい事だ。


「壊さな。そうや、この世界があるから悪いんや。こんな世界壊してしまえば、もう誰も不幸にならんで済む」

 封印前にこの世界の住人に受けた仕打ちが余程に酷かったのか、それとも或いは封印された長い時がカリーナを蝕んだのか、彼女がこのミズガルズオムワールドに向ける憎しみは酷く濃い。

 あまりの痛々しさに、思わず目を逸らしたくなってしまう。

 僕は一方的にかもしれないけれど、やり取りをしていた彼女に対して親しみを覚えていたし、何よりも優れたプレイヤーとして尊敬していた。


 だけど今は、目を逸らしちゃいけない。

 世界の破壊に救いはない。

「駄目だよ、カリーナ。そんな事をする心算なら、僕は君を止めなきゃいけない」

 だからモニターに映るカリーナをじっと見据え、僕は彼女にそう告げる。


 するとこの世界への憎しみに燃えるカリーナの瞳は、その熱量を僕に叩き付けて来た。

 モニター越しにも拘わらず、物理的な圧迫感を感じる程の、怒りの炎。


「何でなん。君もあのヒーローみたいに、ウチを殺すん? ウチが殺してしまった、アイツみたいに。そうなんやね? やっぱり嘘や。偽物や。ノア君はそんな事いわんよ。偽物は、ウチが壊したる」

 彼女の言葉に、僕は首を横に振る。

 しかしこれ以上言葉を重ねても、カリーナを宥める事は難しいだろう。

 ならその彼女の怒りと憎しみは、戦いを以って僕が受け止めるより他にない。

 本当は一つ確かめたい事があったのだけれど、それを聞き出せる雰囲気でもなかった。


「わかった。じゃあ戦おう。言葉じゃなく、力で語ろう。ところでカリーナ、君はまだ覚えてる? 正義じゃなく、悪と悪が戦う時にはマナーがあったよね」

 カリーナは何の反応も示さず、僕を見てる。

 でも間違いなく、僕の言葉は聞いていて、多分理解もしているだろう。


「我が秘密結社スコルは、ナイトメア財団に対して宣戦を布告する。その憎しみ、長い悪夢、全てを噛み砕き飲み干そう」

 そして僕は、彼女に対して宣戦を布告した。

 幾度となくカリーナがゲームの中で、ライバルの悪の組織にそうされていた様に。

 僕は秘密基地をつくろうのプレイヤーとして、彼女に戦いを挑む。


 結局カリーナは黙ったまま、通信は途絶して彼女の姿はモニターから消える。

 さぁ戦いだ。

 カリーナが楽しんでくれるかどうかは怪しいが、僕は精一杯に楽しむとしよう。

 これは決して、彼女が思う様な凄惨な殺し合い等ではないのだから。



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