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念動力で空を飛んで移動して来た僕は、村の中央へと舞い降りる。
どうやら昨晩は雪が降ったらしく、そこかしこに真っ白な雪が積もってた。
「神さま! また来て下さったんですね!」
そんな僕の姿を目ざとく見付けた第一発見者は、見覚えのある少女。
彼女は勢い良く僕の前に走り寄ったかと思うと、思い切り深々と頭を下げる。
そうか、この村に来るのは二度目だったのか。
もうミルクトセイラ国の目ぼしい集落は大体行き尽しただろうし、そう言う事もあるのだろう。
頭を上げた少女はまるで懐いた犬の様な雰囲気を出しながら、でも僕の後ろに並んだ面々を見て首を傾げた。
少女の声に家から出て来た村人達も、同じ様に戸惑った様子を見せている。
そう、今日の村への訪問は何時もの様にドクターアイアンとフォレストレディだけじゃなく、金森博士が作成許可を求めた新しい怪人と、二十人程の上級戦闘員も一緒の大所帯だ。
「あぁ、彼等の事は、今は気にしなくて良いよ。準備に時間も掛かるしね。それよりも今は病人居るかな? それから場所を借りたいんだけれど、村長はどこ?」
ただ僕は手を振って彼等の問い掛ける様な視線を払い、逆に問い掛けを返す。
どうせ後で身を以って体験するのだ。
言葉での説明は面倒臭いし、実際に体験した方が手っ取り早い。
一度目にこの村を訪問した時なら、村人達はそれでも不安がっただろう。
だがこの村に来るのは二度目で、彼等はもう僕がこう言う人間だと言う事は知っている。
尤も彼等にとっては神様らしいが。
要するに従った方が得であると、彼等は経験の上で理解していた。
「すぐに村長を呼んで来ます。リリーシェ、お前は神様の御相手をしていなさい」
村人の一人、壮年の男がそう言って、駆け足でどこかに去って行く。
どうやらこの少女の名前はリリーシェと言うらしい。
……あんまり会う事のない人間の名前を覚えていられる気はしないけれど、今日だけでも覚えておこう。
「私、あれから少し背が伸びたんです! 神さまと約束した通り、大きくなってます! それから、後二年経ったら医術を学びに王都に行って良いってお母さんが言ってくれて、お父さんは駄目だって反対してるんですけど、それを村長が色々話してくれたみたいで!」
しかしそれにしても、実に賑やかだ。
懸命に話しかけてくる少女、リリーシェが微笑ましくて、僕はその言葉の一つ一つに相槌を打つ。
どうやらこれが、彼女なりの僕の御相手らしい。
そうして時間を潰していると、先程の壮年の男に連れられて、村長と思わしき老人がやって来た。
彼はすぐに僕を歓迎する宴の準備をすると言うが、僕はその言葉に首を横に振る。
残念ながら、この村で出る取って置きの御馳走よりも、秘密基地内で食べる食事の方が間違いなく美味しいからだ。
歓迎の気持ちは決して悪い気はしないが、同じ理由で王城からの招きも断っているのだから、ここで宴に参加すれば後々面倒な事になるだろう。
故に、
「僕を持て成す余裕があるならイザと言う時に備えるか、皆で分け合って食べると良いよ。ちゃと食べて一人でも多く無事に冬を越せればそれが最良だ」
僕はそう言って拝んで来る村長の肩を叩く。
そう、それよりも今は、空いてる土地を貸してくれればそれで良い。
両手を合わせて拝んで来る村長の許可を得た僕は、戦闘員に命じて大きな大きな天幕を三つ立てさせ、それぞれを連結させる。
これは外気と、ついでに外からの視線を遮る為の天幕だ。
そして一番大きな天幕の地面に広く穴を掘って固め、防水のシートを張り付けて、中に湯を張る準備を行う。
そう、金森博士が僕の気が済む様にと用意してくれたのは、一部の運の良い国民にしか行き渡らずとも、大きな風呂に入れてやれる手段だった。
一番小さな天幕は脱衣所で、その次の天幕はサウナ室。
サウナで汗を流して垢をこそぎ落とし、最後にたっぷりの湯に入浴させる。
連れて来た戦闘員は男性型と女性型が半数ずつで、サウナ室で背中を流したり、入浴に慣れないだろう村人達の補佐をさせる為に連れて来た。
因みに女性型の戦闘員は、培養の際に約一割程の確率で発生するプチレアな存在だ。
特に性能に差がある訳でもない運営のお遊びの様な要素が、まさか役立つ時が来るとは思わなかった。
最初は入浴時間は男女別で分ける心算だったけれども、……どうやら村人達が全く気にする様子がなかったので、いっそ纏めてしまう事にする。
どうやらミルクトセイラ国の民は、或いはそれとも村だからだろうか、性に関して大らからしい。
さて、風呂を用意する際に問題となるのが、湯にする水と沸かす燃料だ。
金森博士は、水は僕に運べと言い、湯を沸かす燃料を必要としない怪人だけを用意した。
確かにまぁ、一時的な娯楽として風呂を提供するのであれば、僕が水を運んだ方が手っ取り早い。
ましてや昨晩雪が降ったのであれば、わざわざ水源に赴かずとも綺麗な雪のみを集めて運べば時間も労力も節約できる。
そして湯を沸かす為の怪人と言うのが、ロゴス山で採取されたマグマを素にした中級怪人だ。
名前はマグマーロ。
普段は赤く熱せられた岩の様な体色をした、この世界で言うゴーレムの様な見た目をしている。
しかし戦闘状態に入ると、その体色は黄色く光る物に代わり、強烈な輻射熱も発する様になるらしい。
何でもこちらの世界で秘密結社スコルに加わり、金森博士に弟子入りした助手がデザインを担当したんだとか。
実はマグマをモチーフとした怪人は特撮番組にも幾度か登場しているが、それ等に比べると随分シンプルな見た目になったと思う。
マグマを素にしている以上、当たり前だが完全に戦闘用の怪人なのだけれど、その熱量を以ってすれば風呂を沸かしたりサウナを熱する位は実に容易い。
次の戦いに備えて、戦力の拡充は必要だったし一石二鳥だ。
まぁ戦闘用として生み出されたのにいきなり風呂焚きをやらされるマグマーロには申し訳ないけれど、少しだけ僕の我がままに付き合って貰おう。
未知の物には警戒心が働くのか、率先して入りたいと言う村人はそんなに多くない。
だがリリーシェがなら自分が一番にと入った事で、あんな少女が勇気を示すのならばと幾人かが後に続く。
けれどもそれにしても……、リリーシェの様な少女の後に成人男性が続くと、そんな心算はないのだろうけれども実に犯罪臭がする。
次の村からは、僕の心の安定的にもやはり男女別にすべきじゃないだろうか。
率先して入ろうとはしなかった村人達も、興味はあるのか天幕を遠巻きに見ている。
それから小一時間程して真っ先にリリーシェが出て来て、入浴体験の素晴らしさを語った所で、漸く安心したのか次々に人が入り出す。
「神さまは入らないんですか?」
その問い掛けに振り向けば、二回目の入浴の為に並ぼうとしてるリリーシェが居た。
どうやら彼女は、村人を安心させる為にああ言った訳じゃなくて、本当に入浴が気に入ったらしい。
薄汚れていた時は地味な印象だったが、一度入浴したリリーシェはまるで内側から輝く様で、実にチャーミングに見える。
これを原石が磨かれると言うのだろうか。
少し感心してしまうけれど、残念ながら僕は年下の少女に興味はないので、曖昧に笑って首を横に振る。
僕には汚れた湯を張り替える為に水を、雪を運んで来ると言う役割があるし、この村の人々程に性に関してオープンではないから、女性と一緒に入浴なんてとても無理だ。
リリーシェは不思議そうに、そして少し残念そうに首を傾げてから、
「このお風呂って、凄いですよね! こんなにスッキリして気持ち良くなったの、私初めてです」
そう言った。
随分と綺麗になった顔に、輝かんばかりの笑みを浮かべて。
まぁこの笑顔が見られたのだから、僕の思い付きの我儘も、満更無駄じゃなかったんだと、そう思う。




