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捕らえたルードリム聖教国の聖王からの情報の引き出し、そう、聞き出しじゃなくて引き出しは、順調に進んでる。
同時に禁書庫から持ち出して来た文献の精査も同様に。
その結果判明した事も色々とあるが、まだ全てが終わった訳ではないし、何よりも決して楽しく面白い話じゃないので後回しだ。
欠けた情報から全てを判断すると誤った考えに頭を支配されかねないし、今は特に急いじゃいない。
僕等がこの世界にやって来てから、二度目の冬が訪れた。
ミルクトセイラ国は大陸中央部の中でも比較的南寄りだが、それでも冬はやはり冷える。
今後、紡績はミルクトセイラ国の重要な産業の一部となる予定だが、今は未だ綿花栽培用地の開墾や、紡績工場の建設を進めてる段階だ。
故にこの国では衣服がまだまだ高価で、冬の寒さへの備えも万全とは言い難い。
寧ろ北方の国、例えばフォウン帝国に比べれば寒さが幾分マシな分、それ等の備えは比較的おざなりにされがちだった。
……そう言えば、南側の方が暖かいと言う事は、このグランドリア大陸は北半球になるのだろうか?
この世界の情報を得る為にも、人工衛星を打ち上げたいとは思うけれども、流石にまだそこまでは手が回らない。
それさて置き、医療が充実していないこの世界、子供は風邪でも引けば容易に命を落としてしまうのだから、出来るだけの備えはして欲しいのだけれど、まだ民衆は目をそこに向けられる程に豊かでも文化的でもないのだろう。
ならばそこは、我等秘密結社スコルの出番だ。
無知蒙昧なる未開の民衆が、寒さを軽視して命を危険に晒す愚かさを露呈するならば、強引にでもその眼を開かせる。
そもそも人間とは快楽に弱い生き物なので、冬を暖かく過ごせる心地良さを知れば、何とかそれを得ようと工夫する筈。
「って訳なんだけど、博士、どうにかならない?」
とは言えやると決めたは良いが、問題はその方法である。
僕は保養施設の機能の一つ、温泉を使用中だった金森博士を見付け出し、僕も湯に浸かりながらそう問うた。
その問い掛けに、或いは僕の行動に、金森博士の顔には困った様な苦笑いが浮かぶ。
「我等が大首領は無理難題を唐突に言われますな。流石はノア様。保温性の高い衣類、気密度の良い住居、熱を発生させる燃料、全てが足りぬと言うのに寒さを何とかせよとは……」
何が流石なのかはわからないけれど、褒められたので照れておく。
まぁ今のノアの身体は寒さにも強いと言うか、サイキックバリアさえ張ればマイナス何十度の世界でも余裕だけれど、本来の僕、秋津・明は寒さにめっちゃ弱いのだ。
朝に「ジョギング行こうぜ!」とか「乾布摩擦しようぜ!」とか誘って来る父に、「ジョギングは兎も角、乾布摩擦なんて今時してる人居ないよ!」ってマジ切れする位に寒さに弱い。
……いや、別に僕じゃなくても切れるよね?
うん、要するに僕は元々寒がりだから、他人にもあまり寒い思いはして欲しくないのだ。
悪の組織の首領ではあっても、他人が寒さに震えてるのを見ながら、こたつに蜜柑は最高だと寛げる性分はしていない。
寧ろ寒そうな人を見たら、こっちまで寒くなってしまう。
「まぁ儂も寒さが身に染みる年ですからな。仰りたい事はわかります」
金森博士はそう言って湯で顔を洗いながら、少し考え込む。
僕は博士の思考を邪魔しない様に、湯に浸かりながら天井を見上げた。
こんな風に浸かれる風呂を村に作ったとしても、そこに引いて来る水や、湯を沸かす燃料が問題となる。
色々と僕も考えては見たのだけれど、いまいちこれだと言う案は出なかったのだ。
「……今すぐ全てのミルクトセイラ国の民に暖かさを届ける方法はありませんな。そもそも何らかの手段を用意したとしても、配り歩くだけで冬が終わります。我々の技術は多少進んではいますが、無から有を作り出せる訳でもないですからの」
だから金森博士に相談してみたのだけれど、しかし彼にもやはり出来る事と出来ない事はあるらしい。
多少残念だったが、金森博士で無理なら仕方がないだろう。
別にもう一人の技術者、アキを軽く見る訳じゃないけれど、長く生きてる金森博士の知恵はこう言うケースなら秘密結社スコルでも一番頼りになる。
「彼等は彼等でそれなりに良い感じに生きてますからな。事前準備を整えてからなら兎も角、思い付きを即座に実行すれば、蟻の喉が渇いてそうだと巣に水をぶち込む子供と変わりませんぞ」
カラカラと笑う金森博士。
彼は僕を首領として扱ってくれるけれど、同時に遠慮もしないし、年長者として導いてもくれる。
正直、何で悪の組織に居るのかが不思議な程の人物だ。
……いやまぁ、勿論僕がそう設定したからそうなのだろうけれど、そんな風には納得したくない魅力が金森博士にはあった。
「さて、それを理解した上で行うべきは来年以降の寒さへの対策と、ノア様の気が済む様にお茶を濁す案の実行ですな。では一体、そうですな、中級怪人の作成許可を戴きたい」
悪戯っぽく笑う老齢の博士は、僕に向かってそう告げる。




