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秋の収穫期も終わり、僕等が異世界に飛ばされてから、もう少しで一年が経過する。
今年は幸い気候にも恵まれ、秘密結社スコルが提供した品種の栽培を行ったミルクトセイラ国は、彼等の常識から言えば未曽有の大収穫に湧いていた。
これで奴隷の完全解放や、技術者の育成や雇用の増加等、ミルクトセイラ国を富ませる施策が一気に進む。
但しその前に、一つ片付けねばならない厄介事があった。
そう、秘密結社スコルに征服されたミルクトセイラ国を認めない、近隣諸国との戦争だ。
ルードリム聖教国が総数五万の軍を組織し、ミルクトセイラ国との間にある小国家群にも参戦を要請したらしい。
小国家群と言うだけあって、それ等の国々は規模が小さく、派兵出来る兵数は精々が三千から五千。
しかしルードリム聖教国は聖神教の総本山だ。
その要請には大きな権威があり、また勝ち馬に乗れると考えた多くの小国が参戦した為、小国家群から集まった総兵数は三万に達したと言う。
またフォウン帝国も同時に動き、マナウ湖に浮かべた百近い数の軍船に、総数一万五千の兵を乗せて南下を開始する。
一方、ミルクトセイラ国が出せる兵の数は三万八千。
倍以上の数で攻め寄せる敵軍に、けれどもミルクトセイラ国内での混乱は最小限だった。
何故ならミルクトセイラ国は、その三万八千の兵を動かせるだけの力を持ちながらも、秘密結社スコルに戦う事なく降伏したのだ。
秘密結社スコルの力が敵軍に向く以上、相手が倍であろうとも負けはないと、ミルクトセイラ国の王は判断を下す。
グランドリア大陸中央部の行く末を決める戦いは、もう間もなく始まるだろう。
……しかし、僕はその戦いには関わらない。
いやまあ勿論秘密結社スコルとしては、その戦いに参加する。
西から来るルードリム聖教国と小国家群の合同軍は、機人グラールと、指揮官タイプの新しい機械型怪人である機人コガネが率いる兵士達、機人クロガネ部隊に加えて多数の戦闘員が待ち受けていた。
機人コガネは以前の、技術者アキがミヅガネに持たせていた指揮機能に特化した中級怪人で、機人クロガネは指揮を受けて戦う重武装の量産型下級怪人だ。
正直な所、近代兵器で武装した軍ともまともにやり合えるだろう機人達を相手に、槍や弓で武装した兵が何万人挑んだ所で、戦いの結果は最初から見えているだろう。
圧倒的な火力で総崩れになった敵を追撃するのは、ミルクトセイラ国の軍の役目である。
もう一方の、マナウ湖を渡って来るフォウン帝国軍も絶望的で、水中にはホオジロ男が待ち構え、空からはブラックワイヴァーンが強襲する予定だ。
ホオジロ男とブラックワイヴァーンは専ら軍船を破壊して、湖に投げ出された兵はミルクトセイラ国の軍船が回収して捕虜とする事になっていた。
つまりは、そう、今回の戦いは僕が居なくても負けようがない。
小国家群もルードリム聖教国もフォウン帝国も、この戦いで秘密結社スコルの脅威を思い知るだろう
だからこそ僕には、のんびり戦争に参加してる暇なんてないのだ。
ルードリム聖教国の首都である聖都ヴァリスには、潜入工作に特化した怪人であるミヅガネをスパイとして送り込み、情報収集を続けてた。
その結果判明したのが、八百年前には確かに魔王が存在し、異世界から勇者を招いてそれと戦わせたのは、紛れもない真実であろう事。
また魔王を封じたとされる光の杖も、聖都ヴァリスにある大聖堂の地下深くに厳重に保管されて、実在していると言う。
ならばもし仮にルードリム聖教国が僕等、秘密結社スコルを魔王と同等の脅威だと認識したならば、再び別の世界から勇者を招いたり、光の杖を使用するかも知れない。
尤も勇者を招く方法に関しては八百年の間に失われている可能性が高いそうだが、それでも油断するべきではないだろう。
故に僕は、彼等が未だ安穏と自国の勝利を信じてる間に、秘密結社スコルの脅威を知られる前に、多くの兵をミルクトセイラ国に差し向けて手薄となったルードリム聖教国に対し、勇者を招く方法や光の杖を強奪する為の強襲を仕掛ける。
既に兵をミルクトセイラ国に向けて送っている以上、先に殴って来たのはルードリム聖教国だ。
それ故に僕は聖都ヴァリスを蹂躙する事に全く良心の呵責もない。
いやまぁ、先に殴られてなくても、必要であるならば蹂躙に躊躇いはないのだけれども。
「……じゃあシノビオウル、カミツキガメリウス、それにカラミティ・クィーン、準備は良い?」
月が聖都ヴァリスを照らす夜。
僕と共に聖都ヴァリスを強襲する三体の上級怪人が、頷く。
そう、僕は相手を侮らない。
勢力を拡張する為に引き篭もるべきだと感じたらジッと隠れ潜むし、相手を叩くと決めれば戦力の出し惜しみをする心算はなかった。
今回の強襲で強奪する対象は四つ。
一つは大聖堂の地下にある光の杖で、それは僕が奪取に向かう。
二つ目は各地から聖神教の手で集められた宝が眠ると言う大聖堂の宝物庫の中身だ。
勿論全ては持ち出せないだろうが、カミツキガメリウスを送り込んで僕等にとって脅威となる物がないかを探させる。
三つ目はやはり大聖堂にある書庫に納められた禁書の類。
こちらにはカラミティ・クィーンが行き、勇者を招く方法が載った本を探す。
尤もカラミティ・クィーンは念動力を使えるので、ごっそり中身を持ち帰ってから、皆で探す方が手っ取り早いだろう。
四つ目は聖神教の最高指導者である聖王の身柄。
勇者を招く方法が、代々の聖王に口伝でのみ伝わってる可能性があるそうなので、その身柄を拉致するのだ。
当然適任は、これまでにも散々に拉致で手柄を立てたシノビオウルだ。
……シノビオウルが拉致した人達は、ミルクトセイラ国が降伏した際に解放したけれど、果たして聖王の身柄は解放する時が来るだろうか。
また聖王を拉致した後は、ミヅガネが成り代わって聖神教を掌握する予定となってる。
王に怪人が成り代わって国を支配するなんて、如何にもって感じで実に楽しい。
「じゃあ、行こうか」
そう言って僕が手を振ると同時に、聖都中央に存在する小高い丘の上の巨大な建造物、大聖堂の天井から地下までを貫く巨大な穴が開く。
カラミティ・クィーンは自前で、カミツキガメリウスは僕の念動力で浮かんで、その穴から大聖堂に飛び込んで暴れ始めた。
シノビオウルはその名の通りに忍び密やかに、聖王の身柄を浚いに行く。
僕等の大暴れはその為の陽動でもある。




