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僕と彼の異世界征服活動記  作者: らる鳥


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 春が過ぎ、夏が来た。

 秘密結社スコルが押し付けた統治は今の所は順調に、ミルクトセイラ国の民に受け入れられている。

 僕が町や村を巡る際にも、最近ではどこに行っても大歓迎を受ける様になった。

 街や村の住民にも人気だし、何とか僕を消したい誰かが送り込んで来る暗殺者にも大人気だ。


 尤も単なる暗殺者に僕を殺せる筈がないし、一旦僕と向かい合えば逃走はおろか、自害さえも不可能となるだろう。

 ついでにどんなに硬く口を閉ざしても、秘密結社スコルの技術を以ってすれば、人権に考慮する必要のない暗殺者から情報を吸い出す事は然程難しくなかった。

 本当はテレパシーの超能力を使う方が手っ取り早いが、暗殺者の多くは真っ当な精神状態をしていないので、わざわざトラウマになりそうなそれを覗き込みたくはない。


 まぁさて置き、そんな風におおよそ順調に事は進んでいて、今日はまた一歩、大きな前進が行われる。

 玉座、とまでは言わずとも豪奢な椅子に腰掛けて足を組む僕の前に、男と女が一人ずつ、膝を突いて頭を下げていた。


「偉大なる御方よ。私を救い、またこの先同胞をも救って下さる事、種を代表してお礼を申し上げます。この御恩、忠節を以って返したく思います」

「森を従える方よ。我等の救い主よ。この身、この魂、貴方様に捧げます」

 先の言葉を発した男は、今日、奴隷より解放した獣人で、奴隷となる前はここより南東の地で狼人族の族長をしていた人物だ。

 次に偉く重たい言葉を発した女は、同じく今日、奴隷より解放したエルフで、若々しい見た目とは裏腹に多くの知識を蓄えた賢者なんだとか。

 彼女の言う森を従えると言う言葉は、秘密結社スコルが生み出した怪人、フォレストレディを始めとするフォレストシリーズの事で、エルフ達にはフォレストシリーズの怪人が動く森、とても尊い存在に見えるらしい。


「あぁ、そう言うの良いから。君達の役割は二つ。自分の種族の代表者として主義主張を代弁する事。自分の種族が暴走しない様に纏める事だよ」

 忠節だの身体だの魂だのは、既に秘密結社スコルから捧げられてるから、これ以上は必要なかった。

 僕が彼等に求めるのは、ミルクトセイラ国に奴隷から解放された亜人が融和出来る様に、取り纏めを行う事のみ。

 もしも彼等が己の種族よりも僕を優先すれば、彼等が拾い上げない不満が種族に溜まり、何時しか爆発するかも知れない。

 それではあまり意味がないのだ。


 頭を上げて驚いたようにこちらを見る二人に、僕は頷く。

 まぁ今はわからなくて良い。

 実際に他の奴隷達が解放される前には与えられた役割を果たせる様に、カラミティ・クィーンが仕込むだろう。


「但し一つ言って置く事がある。君達は奴隷から解放されたし、君達の種族も今後解放される。だからって奴隷にされた事実は消えず、人間は君達に負い目を持つ」

 そう、マイナスの状態から解放されたとしても、マイナスの状態に置かれていたと言う事実が消える事はない。

 多くの理不尽な目に合っただろう。

 多くの恨みを抱えている筈だ。

 族長だった獣人は、己の部族をバラバラにされ、失った。

 賢者であるエルフはその智を顧みられる事なく、娼婦としてのみ扱われた。

 そうして失った仲間、時間は奴隷から解放されたとしても、戻っては来ない。


「けれども僕は、その負い目の清算を許さない。君達から人間に謝罪や保障を求める事も、人間から君達に謝罪や保障をする事も、等しく許さない」

 そりゃあ恨み辛みを晴らしたい亜人は居るだろうし、謝りたい人間だって居るだろう。

 だがそんな事に意味はない。

 僕等秘密結社スコルの支配が行われた時点で、全ては過去の出来事となった。

 その清算に時間と労力を取られる位なら、それに絡む一切の問題は僕が踏み潰して強制的に前のみを見させよう。


「個人的に許せないって思うのは別に良いけれど、仲間を集めてどうこうしようって動いたら、それは罪として問う事になる。僕は人も君達も平等に扱うし、人らしい暮らしをさせようと思う。でもそれは僕の下に平等って意味だ」

 何せ悪の組織の首領だから、その辺りは傲慢で好き勝手に振る舞おうと決めている。

 二人は、僕の言葉をジッと黙って聞いていた。

「受け入れられないなら国を出て行く事は止めないし、その為の費用も出そう。取り潰した貴族の財産を接収したから、少しは余裕があるしね」

 そもそも森に暮らす事が当たり前のエルフに関しては、奴隷から解放された後は出て行く物として考えていたから、その準備は既に進めてあるのだ。


 だけど二人は、僕の言葉に首を横に振る。

「いえ、私はこの国に留まり、お言葉通りに種族の為に働きましょう。同様に国に残ると決めた者には、決して過去は振り返らせはしませぬ」

「同じくこの国に残りたく存じます。森を従える方よ。我等の救い主よ。この国より世界は変わるのですね。その変化に立ち会える幸運を、自ら手放す等あり得ません」

 ……先に発言した獣人は兎も角、後のエルフは人選をミスした気がしなくもない。

 知識層だからと選んだけれど、賢者って意外と面倒臭い生き物だ。

 自分の種族よりも自らの知的好奇心を優先させそうな雰囲気すらあった。


 でも間違いなく能力はあるだろうから、或いはエルフの代表者には他の誰かを選び、この賢者には別の役割を……。

 そう、仮に彼女が言っていたこの身、この魂を捧げるとの言葉が真実ならば、秘密結社スコルに完全に取り込み、知識を与えて技術者としても良いかも知れない。

 この世界特有の魔術等の知識を持つ賢者が、秘密結社スコルの技術者となったなら、また違ったタイプの怪人を生み出せる可能性は充分にあった。

 勿論、新しい人材を懐に取り込む事はリスクも多大な行為だから、慎重に見極めた上での事になるけれども。


「……まぁ、良いか。取り敢えず二人とも、残ると決めてくれたなら、宜しくね」

 その言葉に、彼等はもう一度深々と頭を下げる。

 この二人を手始めに、ミルクトセイラ国では段階的に奴隷の解放が始まった。



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