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僕と彼の異世界征服活動記  作者: らる鳥


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 また暫く時は過ぎ、春が終わろうとする頃、僕はミルクトセイラ国内の町や村々を一つずつ回って、自らの超能力を見せ付けると言う見世物になっていた。

 尤も見世物と言っても、御代は何も貰えない。

 寧ろ僕が彼等に飴玉をくれてやる側だ。

 秋になるまでの蓄えが足りないと言うのなら、王都で仕入れた麦袋を超能力で大量に浮かして運ぶし、水が枯れたと言うのなら、水が湧き出そうな場所を水脈にあたるまで地盤をぶち抜く。

 所謂一つの小さな奇跡を、彼等に演出する為に。


 その日、僕が訪れたのはミルクトセイラ国には数多くある中規模の村の一つ。

 名前は、聞かされたけれど忘れてしまった。

 基本的に僕がどの町や村を訪れるかは、その日の朝にカラミティ・クィーンが決めるし、事前通告の類もしない。

 僕に嘆願を行いたい貴族に待ち構えられても面倒だからだ。


 実際に僕を待ち構え、民よりも自分の願いを叶えろと言い張った貴族は、取り敢えず踏み潰した。

 その貴族が、あの日、子供を轢いた馬車に乗ってた娘の父親である事は、知ってたけれど偶然である。

 少しばかり話したが、民など虫けらであり、邪魔をしたなら踏み潰されて当然だと言い張るから、僕にとってはどちらも大差がないのだと教えてから、邪魔なので踏み潰したのだ。

 いや、踏み潰したと言っても比喩表現で、実際には彼の貴族家を取り潰しただけなのだけれど。

 多分だが、あの貴族がこれまで生き延びていたのは、見せしめとして使う為だったのだろう。

 ……まぁそんな事は、もうどうでも良い。


 村を訪れた僕の供をするのは、最近生まれた新しい怪人の二体。

 一体目は名をフォレストレディと言い、その体内に小さな森を内包する亜人タイプの中級怪人だ。

 当初は下級怪人として作成する予定だったが、能力の規模が大き過ぎて中級怪人にせざるを得なかった。

 見た目は体色が緑色である事以外は、人間の美女と変わらない。


 彼女の能力、特技は生成。

 フォレストレディは、内包した森の中に生じるあらゆる物質を抽出、生成が可能だ。

 少し分かり難い言い方だが、要するに薬草やカビや菌から薬を作ったり、毒を作ったり出来る。

 元の世界にもあった薬は勿論の事、この世界にしか存在しない植物から得られた、ちょっと気持ち悪い位に傷が治るポーションと呼ばれる薬なんかも作れてしまう。

 彼女は歩く薬局、または薬の生産工場だった。


 もう一体は機械タイプの下級怪人で、名前はドクターアイアン。

 この場合のドクターは、博士と言う意味ではなくて医師である。

 秘密結社スコルには、人の身体を弄り回す技術も豊富に存在するので、そのデータをインストールされた機人がドクターアイアンだ。

 怪人としての能力は、ドクターアイアン自身の身体が医療機器である事だろうか。


 ドクターアイアンがその場に居るだけで様々な検査が行えて、診断を下して必要な薬をフォレストレディに要求したり、外科手術だって行える。

 患者の身体や使用した器具の消毒も可能だが、消毒液の補充はフォレストレディ頼りらしい。

 

 つまり彼等は、亜人タイプと機械タイプで製作者も別々だけれど、二体一組で運用される医療系の怪人だ。

 では何故僕がこの医療系怪人を供として連れているかと言うと、その力を必要とされる機会が余りに多いからだった。



 これまでのミルクトセイラ国で、傷病の治療と言えば採取した薬草、それ等を精製したポーション類、魔術師の治癒魔術に加え、聖神教の司祭による祈祷だったらしい。

 ポーションや魔術師の治癒魔術は、一般には手の出ない高価な物で、余程に裕福でなければその恩恵を受けられないと言う。

 故に普通は、特に村規模の集落では、薬草や司祭の祈祷のみが頼りとなる。

 ……が、薬草は兎も角として司祭の祈祷は、幾ら観察しても特にハッキリとした効果が認められない物だった。

 勿論プラセボ効果的な物はあるのだろうけれど、それだけだ。


 司祭が祈って病が回復すれば神のお蔭で、回復しなければ病人の信心が足りなかったのが悪いんだとか。

 折角のファンタジー世界なんだから司祭は傷や病の回復位して見せろと思う。


 ただそんな物でもこの国の民は頼りとしていたらしく、僕が聖神教を禁じた為に、病気の際に頼るべき物の一つが消えてしまった。

 今後、医術も広める予定の技術ではあるが、まずはその効果が確かな物であると認知させる為に、ドクターシリーズとフォレストシリーズは複数体生産され、大忙しで稼働している。


「お願いします! 神様、神様なんでしょう! 何でもしますから、どうかお母さんを助けて下さい!!!」

 周りの大人に止められながらも、必死にその手を振り解いた少女が、僕の前に転がるように出て来て、頭を下げていた。

 ほら、こう言う事が多々あるから、僕はドクターアイアンとフォレストレディを連れて来たのだ。



 僕が念動力で自分と、ドクターアイアンとフォレストレディを浮かばせ、空を飛んで村に来た時、……当たり前だが村は大騒ぎになった。

 まぁ何時もの事である。

 村人達に遠巻きに見られるのも何時もの話で、大体は村長辺りにミルクトセイラ国の役人に書かせた書状を見せて、漸く何らかの頼みを聞き出すって形になる事が多い。

 けれども今回は、僕が来て早々に少女が願いを言いに来たので、手っ取り早く行けそうだ。


「うん、構わないけれど、本当に何でもするんだね?」

 神様なのかと聞かれれば、僕は別に神様ではないのだけれど、神様ごっこはしなきゃならない立場であった。

 だから僕は、自分からは神様だなんて言わないけれど、否定もせずに問い返す。

 少女は一瞬、びくりと身体を震わせたけれど、意を決した様に頷く。


 いやいや、一体何を要求すると思われてるんだろうか。

 まぁ、良い。

「じゃあ、君のお母さんの所に案内して。怪我なの? 病気なの?」

 僕は少女に先導させて、彼女の家へと向かう。

 先頭は少女で、次が僕、二体の怪人は僕の一歩後ろを離れずに歩き、更に後ろをぞろぞろと村人が付いて来る。


 少女の家にドクターアイアンを入らせて、僕は外で待つ。

 女性が医師に診られる所を、医療に関係しない僕が見る訳には行かない。

 そんな僕を少女や村人達は不思議そうに見ているが、これは僕の倫理観で譲る心算は全くなかった。


 診察時間は僅か数分。

 出て来たドクターアイアンは僕に向かって病名を告げる。

「虫垂炎デス。放置スルト死亡ノ危険アリ。投薬カ、手術ヲ推奨シマス」

 ……虫垂炎って、あぁ、盲腸か。

 そりゃあ痛いし苦しい。

 正確には盲腸の病じゃなくて、そこにくっついてる虫垂って部分に炎症が起きてるって事らしいけれど、盲腸って名前で知られる病だ。

 そう言えば虫垂炎は、現代だと簡単に治るイメージなのだけれど、放置すると死ぬ事もあるんだっけ。


 僕がチラリと少女を見ると、彼女は確りと頷くので、

「じゃあ再発しない様に、手術して」

 ドクターアイアンに指示を出す。

 確か薬で散らすと、再発する事もあった筈。


「手術了解。フォレストレディニ麻酔ノ補充ヲ要請」

「構いませんわ。ノア様の御命令ですもの」

 ドクターアイアンとフォレストレディが再び家の中へと入って行った後、僕は菌を追い出すイメージで家を覆う様にサイキックバリアを展開する。

 折角この場に居るのだから、無菌室を作る位は協力をしよう。



「か、神様、お母さんは助かるんですか?」

 サイキックバリアを展開した途端、周囲の村人達からはどよめきが漏れたが、少女はそれよりも母の安否が気になるらしい。

 彼女に向かって、僕は頷く。

「うん、大丈夫だよ。放ってたら死ぬかも知れなかったらしいけれども、運が良かったね。僕等にとっては然程深刻な病気じゃない」

 安堵にへたり込む少女に、僕は笑みを向ける。

 では助かる事はほぼ確実となった所で、そろそろ対価の取り立てと行こうか。


「じゃあ治療の対価を言うよ。何でもって自分から言った以上、拒否は許さない」

 僕の言葉に安堵していた少女はびくりと震え、周囲の村人達からは咎める様な視線が飛んで来るが、知った事ではない。

 何でもするから助けろと言い、実際に助けた。

 ならば本当に何でもして貰わなければ、約束が違う。


 僕は少女や周囲の村人たちの反応を鼻で笑い、言葉を続ける。

「と言っても今の君に出来る事なんて殆どないだろう? だから先ずはちゃんと食べて大人になるんだ」

 何でもして貰うのは、未来の彼女だ。

 今のちっぽけな少女が出来る事なんて、成長位である。


「次に大人になったら結婚して、三人以上の子供を産む事。あぁ、でも相手は誰でも良いって訳じゃない。ちゃんと働いて税を治めてる男にしてね。飲んだくれで生活費を出さない男は駄目だよ」

 僕の言葉が理解出来ないのか、少女はぽかんとした顔だ。

 出来る限りわかり易く言ってる心算なのだけれども。

「まだ終わりじゃない。そして産んだ三人以上の子供を、ちゃんと大人にまで育てる事。途中で君の母親みたいに病気になった時は、僕等に言えば治すからね。わかった?」

 全ての言葉を言い切ったけれど、少女の戸惑いの表情は変わらない。

 それどころか、周囲の村人達まで、何故か困惑した様に隣同士でひそひそと何かを話してる。


「……え、っと、そんな事で、良いんですか?」

 恐る恐ると、少女が問うた。

 そんな事とはまた随分な物言いだ。

 僕が生きてた日本では、それが出来る人なんて殆ど……、とまでは言わずともあまり居ないのに。


「そんな事って言うけれど、何十年と掛かるよ? 投げ出さずに出来る? あぁ、勿論、その条件が達成出来るなら後は好きに生きて良いよ。興味があるなら母親を救った技術、医術でも学んでみても良いんじゃない?」

 彼女が確りとした夫を捕まえ、その夫に税を支払わせれば、ミルクトセイラ国を通じて僕等に利が入る。

 三人の子供が長じて税を払えば、それも僕等の利となろう。

 更に三人の子供がそれぞれに子供を作り、つまり彼女の孫が長じて税を支払えば、やはり僕等は潤うのだ。

 ここで恩を傘に少女の身柄を捕らえて売り払うなんて真似をするより、ずっとずっと利益は大きい。


「はい、決して投げ出しません。神様からの御恩を忘れずに大人になり、必ず子供にもそれを伝えます」

 少女はそう言い、深々と頭を下げた。

 いや僕が望むのはそう言うのじゃないのだけれど、……まぁ良いか。

 上手く訂正出来る気はしないし、カラミティ・クィーンが広めようとしてる宗教的には、その誤解は都合が良いだろう。


「そう、期待してるね。じゃあ次、他にも何かある人いる? 働きたくないから金をくれとか言ったらぶっ飛ばすけれど、本当に困ってるならある程度は助けるよ」

 僕の言葉におずおずと前に出て来た別の村人が願いを口にした。

 何でも森に大きな魔物が出て、薬草を取りに行けずに困っているらしい。

 成る程、だったら手早く狩りに行こうか。

 

 夕方までは、僕はこの村に居る心算で、まだ昼にもなってない。

 まだまだ幾つも願いは叶えられるだろう。


 勿論、少女の母は無事に助かった。



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