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僕と彼の異世界征服活動記  作者: らる鳥


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 ふと気付けば、目の前に暗闇に浮かぶ僕が居た。

 ……あぁ、違う。

 これは僕じゃなくて、ノアか。


 じっとこちらを見詰めているノアは、僕の理解が追い付くと口を開く。

「人は、分かり合えない生き物だ」

 その言葉を口にするノアには、僕として動いている時とは全く違う威厳の様な物を感じる。


 しかしそれにしても、テレパシーを使える超能力者であるノアがそれを言うのかと、僕は思わず苦笑いを浮かべた。

 まぁノアは悪の組織の首領だから、人は分かり合える生物だと言い出したら、それはそれで違和感があるけれど。

 ただ、確かにそれはそうかも知れない。

 人はわかり合えない生き物だ。


 まず大袈裟な事を言えば文化、風習の違いが、価値観、宗教の違いが、断絶を生む。

 酒を飲める事が一人前の証だなんて文化がある場所では、体質的にアルコールを受け付けない人間がそれを幾ら訴えても通らないだろう。

 昆虫食が当たり前で、それが最高の御馳走である場所には、日本に生きる一般人は行けやしない。


 そんな事はないって反論はきっとある。

 勇気を持ってその最高の御馳走を口にすれば、分かり合えると言う人だっているだろう。

 でもそれって我慢でしょう?

 分かり合えるんじゃなくて、一方的に分かる為に歩み寄って、でも心の中に嫌悪感が欠片でも残るなら、分かった様な気持ちになってるだけだ。

 意外と平気って言うかも知れないけれど、それって最高の御馳走を提供した相手には、とても失礼な言葉だと思う。


 小さな事を言えば、親の気持ちもわからないし、友達の気持ちもわからない。

 友達の気持ちに関しては、分かった様な気がする事は確かにあるけれど、すれ違いや誤解も山程にある。

 だから人間と言う生き物には、分かり合う機能がないと言うのは、決して間違いとは言い切れないだろう。


「故にボクは、創造主(プレイヤー)との対話を望む。相互理解は不可能であっても、納得をする為に」


 でも僕はノアの事を何となく分かる気分でいた、そう、分かった様な気になっていたから、その言葉はほんの少しショックだった。

 だけどノアが対話を望むなら、僕としても嬉しい。

 だってそれは、理解は無理であっても、ノアが僕の事を分かった様な気になって、納得しようとしてくれてるって話だから。


 但し呼び方は、明で良い。

 創造主って言い難いし、大袈裟だし、プレイヤーってちょっと余所余所しくて嫌だった。



「わかった。じゃあ明、……明は、帰りたいとは思わないのか?」

 何故か少し躊躇いがちにノアは僕に問う。

 それは最初から随分と踏み込んだ質問だった。


 けれどもそれはまぁ、勿論帰りたいか否かで問われれば、帰りたい。

 学校に行けなければ留年するだろうし、留年したら母は悲しむだろう。

 毎月の小遣いだって貰ってないし、まさか帰った後に纏めて貰えるとも思えなかった。

 そして何より、今の僕が向こうの世界でどう言う扱いになっているのかは不明だが、父も母も妹も、心配して居るかも知れないから。

 だから帰りたいと思ってる。


 でも……。


「でも?」


 だからって帰るかと問われれば、答えは否だ。

 帰りたいけれど、僕は帰らない。


 何故ならここには、ノアやスコルの皆が居る。

 もしかすると皆は、僕の夢の産物かも知れない。

 僕の夢が醒めたら、泡と消えてしまうかも知れない。

 だったら僕は、その夢には醒めて欲しくなかった。


 夢でないなら尚更だ。

 僕が居なくなって皆がどうなるかわからないなら、帰らない。

 基地が消えてしまうかも知れない。

 基地は消えずとも、拡張が不可能になるかも知れない。


 僕が不在になっても何の問題もなく、不安もなく、その上でノアが僕を要らないと言うのなら、帰れるならば帰るけれども。


「明にとって、ボクは、スコルは何?」

 答えに納得したのかしなかったのか、再びノアは問う。


 スコルは僕が作った僕の子だ。

 でもそこに属する怪人達は、……なんだかとっても失礼だけれど、飼ってた犬に近い感覚で見てる。


 もう亡くなってしまったけれど、中学の頃まで、僕の家ではブラックと言う名前の犬を飼ってた。

 命名は勿論父だ。

 でもその世話をしてたのは専ら僕で、……いやまぁ、本当に幼い頃は逆にブラックが僕の面倒を見てたらしいけれど、まぁそれはそれとして、僕はブラックの世話をしてた。

 なので怪人達、特にカミツキガメリウスやホオジロ男なんかは、そのブラックに近しい感覚で接してると思う。


 カラミティ・クィーンは少し特別で、特に手を掛けたし、完全に人の姿でもあるから、思い入れがある。

 僕には未だ子供が居た経験はないけれど、多分我が子みたいに思ってるんじゃないだろうか。

 ……見た目はあちらの方が年上のお姉さんなので、物凄く複雑に入り混じった何かはあるけれども。


 それから最後にノアは、……ノアは僕だ。

 僕の全てではないけれど、切り離せない僕である。

 だからノアを置いて帰る事は、自分の手を切り落として行くに等しい。

 もしそんな真似をして家に帰っても、話を聞いた父は僕を馬鹿にするだろう。


「明は、父親を嫌っていた筈じゃ?」

 目の前に居るノアとの距離は、少し近くなっていた。


 だけど、そう、父か。

 確かに僕が悪の組織を選び、ノアを創ったのは、父への反抗心故だ。

 でも嫌いだったかと言われると、多分そうじゃないと今は知ってる。

 あの頃は、……今もそうかも知れないが、父に対してどう接して良いか分からなかっただけ。


 だって在宅の仕事だからいつも家に居るし、まともに叱らないくせに混ぜっ返す。

 僕が置いてある酒に興味を示した時なんて、

『未成年の間に飲酒がしたければ、俺を倒してからにしろ!』

 とか言って構えを取った。

 何が嫌だったかって、ふざけて言ってるんじゃなくて本気で言ってたからだ。

 駄目なら駄目って言えば良いのに、叱るなら叱れば良いのに、どんな反応をして良いのか分からなくなって、父と接するのが嫌だった。


 ……多分父も、僕とどう接して良いのか分かってなかったのかも知れない。

 あぁ、そう言えば、何となく反抗するのが馬鹿らしくなって行った切っ掛けは、『掛かって来い』って言った父に、一度本気で殴り掛かってからだ。

 父はおっさんと呼ばれる年齢の癖に凄く強くて、嬉しそうに僕と喧嘩した。

 結果は僕の敗北である。


 秘密基地をつくろうのゲームを始める、半年前位の話だ。

 多分、どう接して良いのか分からなかったのが、殴り掛かっても良いんだと知った事で、分かった様な気になったのだろう。


「征服を、後悔しない?」

 また少し、ノアとの距離は近くなってる。

 何気なく手を伸ばせば、ノアは僕の手を握り返した。


 後悔は、多分ある。

 だって僕は単なる高校生だ。

 冷静に考えたらそんな事して良い筈がない。

 でもそうしようと思ったし、そうしなきゃと思ったし、そうした。

 今更後戻りは出来なくて、進むしかない。


 それに多分だけれど、僕が余り思い悩まないのは、ノアが僕の中で負担を受け持ってくれてるからだろう。

 僕はノアを分かった様な気になってるだけだけど、これは多分間違いない。


「ボクに聞きたい事は?」

 多分これが最後だろうか?

 ノアが僕に問う。


 そんな物は、ない。

 考えれば幾らでも出て来るだろうけれども、考える気がないからない。

 何故なら僕は、ノアを分かった様な気でいるから、それ以上は必要なかった。

 どうせ、これから先も何時も一緒なのだし。



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