新楽府其二十一 驪宮高
美天子重惜人之財力也
高高驪山上有宮 朱樓紫殿三四重
遲遲兮春日 玉甃暖兮溫泉溢
裊裊兮秋風 山蟬鳴兮宮樹紅
翠華不來歲月久 牆有衣兮瓦有松
吾君在位已五載 何不一幸乎其中
西去都門几多地 吾君不游有深意
一人出兮不容易 六宮從兮百司備
八十一車千萬騎 朝有宴飫暮有賜
中人之產數百家 未足充君一日費
吾君修己人不知 不自逸兮不自嬉
吾君愛人人不識 不傷財兮不傷力
驪宮高兮高入雲
君之來兮為一身
君之不來兮為萬
天子が 人民の金銭や労役を尊重し 大切にすることを讃える。
驪山は高々とそびえ立ち その上には宮殿が立つ。
赤い楼閣 紫の御殿 それが三重四重に立ち並ぶ。
のどかで 日が長い春の季節は 玉の敷瓦でさえ温かく 温泉があふれ流れる。
涼しい風が吹く秋の季節には 山の蝉が鳴き 宮殿は紅の紅葉に包まれる。
しかし 翠華の御旗が見えなくなってから 長い年月が過ぎた。
そのため 垣根は苔むし 屋根瓦にはノキシノブがはびこっている。
わが天子がご即位されて 既に五年が過ぎた。
さて わが天子は何故 この宮にお越しになられないのか。
西方にあり 都の城門からも ほど近いこの宮に わが天子が遊ばれないのは 深い理由がある。
天子のお出かけとなれば 簡単なことではない。
六宮の女たちが数多くお供をし 朝廷の百官も勢揃いを強いられる。
馬車は八十一輌となり 騎兵は千万を要する。
朝には豪華な宴席を設け 晩には恩賜の品を配ることになる。
こうなると 普通の生活をする家の百軒分でも 天子一日の費用は不足する。
わが天子が ご静養に努められていても 人民がそれを知ることはない。
それだから わが天子は ご自身のための逸楽や ご自身の楽しみには興味がない。
わが天子が 人民を大切に思っても その人民がそれに気付くことはない。
わが天子は 人民の財産を減らすことは行わず 人民の労力を減らすことも行わない。
驪宮
りきゅう
は高い 本当に雲に届くと思うほど高い。
その驪宮に 天子がお越しになるとするならば それは天子一人の楽しみのため。
お越しにならないとすれば 万民のことを思ってのことである。
※驪宮:長安の東、驪山に建てられた華清宮。温泉が沸き、玄宗は毎年避寒のために、ここに滞在した。楊貴妃との悲恋の物語で名高い。(長恨歌)
※重惜:尊重し大切にすること。
※紫殿:天子の宮殿。(日本にも紫宸殿あり)
※玉甃:玉の敷瓦
※翠華:カワセミの羽で飾った天子の旗
※牆有衣兮瓦有松:「牆」は垣根、「衣」は苔、「松」はノキシノブ
※吾天子:憲宗皇帝、この年は元和四年(809)
※八十一車:漢の天子の一行には「属車(お供の車)八十一乗」の規程があった。
※中人之産:中流程度の生活をする家。
○驪山の華清宮は、玄宗と楊貴妃の悲恋の舞台ともなった場所。
そこには現在の憲宗皇帝は、全く足を運ばない。
行幸に伴う出費や臣下や人民の苦労を軽減するためと、現在の憲宗皇帝を賛美している。
現実には、憲宗皇帝が本当に、それを考えてそうしたのかは不明ではあるけれど、白楽天としては、この詩を書き、後世の天子などに戒めを行ったのだと思う。




