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そこは薄暗い、石畳の部屋だった。

粗末な藁のベッドに横たわり、見上げる高さの穴から僅かな光が射している。

山積みにされた埃が被っている本。

ふと顔に手を当てると、冷たく硬い感触。


ハッと目を覚ますと、瞳に映ったのは板が並べられた天井だった。

本棚は整然と並べられた本で埋まり、少し目を動かすと、大きく開け放たれた窓から心地良い風が薄いカーテンを揺らしている。

震える手で頬に触れると、汗ばんだ肌の柔らかさを感じた。

大きく跳ねる心臓が痛かった。

リヒトに来てから6日が経っていた。

その間、何度こうして飛び起きただろうか。

此処での生活が新鮮な刺激で溢れる度に、あの牢での日常が異常だと認識させられ、それと同時に大きな不安が襲う。

ヴェルトは、帰り道の解らなくなった迷い子のような思いを抱えていた。

どちらが夢で現なのか…。

まだ陽が昇る前。息を吐きベッドから起き上がると、片膝を抱えて顔を埋める。

激しい呼吸のせいで喉がヒリついたので、水を求めて階下に降りて行った。

厨房にある井戸のポンプを数回上下させると、汗に湿った顔を清めてから手ですくって喉を潤した。

まだ呼吸のコントロールが効かない。

すると、階段に人の気配。

1m程の木の棒を握り締めたアンジュだった。


「…何だ、ヴェルトだったの…あたしてっきり泥棒かと」


泥棒だと思ったにも関わらす、クロトを起こしもしないで自ら退治しようとした彼女の、勇敢というか無謀な行動はこの際気にならなかった。

アンジュに近づくと、その姿を記憶するように見つめた。


「…ヴェルト…どうかした?」

「……夢を見た……」

「夢?」


ヴェルトは、この会話すらもまだ不安に思う。


「アンジュ…触れていいか」

「え?」


アンジュの返事を無視して、その冷えた手にそっと触れる。

触れた途端、アンジュはピクリと肩をすくませたが、そのまま強く握った。


「…アンジュはここに居る…クロトもヘリオスも、ムサ、ロラン、コルタナ、ウェスタ…」


ヴェルトは知ってる限りの名前を言い続ける。


「…悪い夢を見たのね。大丈夫。あたしはここに居るよ」


ヴェルトの様子から、安心させる為に静かに微笑んだ。

彼が記憶喪失だと勘違いしているアンジュは、ヴェルトの心細さを想って落ち着くまでその手を離さなかった。

時間にとしたら2分もない位の時、ヴェルトは漸く手を開放した。


「そうだ!今日は定休日でしょ。一度お医者に診てもらった方が良いよ」

「…医者…」


ヴェルトは首を左右に振る。

記憶はあるので、診てもらっても何も変化はないだろう。

ただ自分の境遇が理解出来なかっただけである。


「駄目よヴェルト、お医者が怖いなんて言っちゃ」

(違う)

「ちゃんと診てもらいましょ。大丈夫、とっても良い先生だから!」


言い出したら止まらない彼女の悪い癖が出た。

結果、初めての休日は医者に診てもらう事になってしまった。



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