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胸の中で泣きそうに震える彼女の両肩に手を置いて、小さく息を吐いた。


「何かあれば、アンジュ達が俺を庇うのは解っていた。だからこそ怖かった…俺のせいで皆が…アンジュが牢に囚われる事が現実になるのが…」

「安心してヴェルト。…あの僧侶様は…亡くなったわ」


ヴェルトは目を見開いて動揺を見せたが、それも一瞬だった。


「今回は大丈夫かもしれない…けどこれからは?…アンジュ、俺はリヒトで幸せだった。でも、幸せと同じくらい怖いんだ。それを失うのが…」

「…解るよヴェルト…。あたしも怖い…。でも、それは逃げてもずっとついて来る恐怖なんだよ」

「ついて来る…恐怖?」

「うん。生きていれば、自分ではどうしようも出来ない事が出てくる。…病気かも知れないし、ソルのような事故かも知れない。けど、逃げてもそんな不幸が消える事は無いよ」

「…でも、俺は生まれた事こそが罪だった…」

「それは、周りの大人達が勝手にこじつけたモノで、ヴェルトは何も悪くない」

「国は滅んでしまったぞ!」


珍しく声を上げるが、アンジュは静かに首を振った。


「前にも言ったかな?国はいつか滅びる。でも人は滅びないよ。生きていかなきゃならないの。ヴェルト、生きる事から逃げないで!」


アンジュは、ヴェルトが知る限り初めて涙を流した。


「あたしも怖い…ヴェルトを失うのが…。でも、何が起きても後悔しない自分でいたいの」

「…後悔…」


この時、ヴェルトは後悔の意味を理解した。

逃げる前に出来る事はあっただろうか。あったかも知れないと。


「精一杯生きていれば、後悔なんて少なくて済むと思ってる」

「…アンジュは強いな…」


アンジュはかぶりを振った。


「あたし、本当は泣き虫なの…。でも、ソルが死んじゃった時、凄く後悔した…。もっと笑ってれば良かった、もっと素直に喜んでれば良かったって…」


それは、年頃になった故の反抗期だっかもしれない。ソルと喧嘩をする事が多くなりつつあったある日。

ソルは仲直りの証に、へそを曲げた妹へのプレゼントとしてリボンを買ったが、アンジュはそれを受け取らなった。

内心では嬉しかった筈なのに、それでもソルの心が他所の女に向いている事に嫉妬していた。

ソルはその次の日に亡くなったのだった。


「…そうだな…逃げてからも怖かったよ。…皆と、アンジュと、もっと一緒に居たかった…」

「だったら一緒に居ようよ。いっぱい笑って、いっぱい幸せになって…別れが来た時に後悔しないように…」


今ならロランの気持ちも解る。得る事の重さと失う事の恐怖。

でも、今は恐れている時ではなかった。

恐怖からは何も生まれず、そこに人の幸せは無いのだ。

幸福は受け止めたなら責任が生まれると思った。それを守る為の努力が必要になる。

ヴェルトは努力せずに逃げた自分を恥じて、そして後悔した。

こんな想いは味わいたくはなかったが、成長には必要悪だったのだろうと納得する。

肩に置いた両手をアンジュのそれに重ねる。


「…俺は間違っていたんだな……。アンジュ…俺はアンジュが好きだ。情けないし、もしかしたら俺のせいで危険に晒すかも知れないけど……傍にいて欲しい…。俺は全力でアンジュを守るよ」


もう夕日は沈み、空には紫色のグラデーションが映っている。

アンジュは握られた手をそっと離すと、静かに両腕を広げてヴェルトを優しく包んだ。


「ありがとうヴェルト。あたしもヴェルトを守りたい。…傍に居るよ、ずっと…」


ヴェルトの双眸には涙が溢れた。

ずっと1人だった。そんな世界を変えた天使。


「アンジュ…名前を呼んでくれ」


涼やかに響く声に彼は微笑んで、潰さないように彼女を抱き締めた。







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