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噂はアッという間にブリゾに広まった。

診療所に入院室は無いので、クロトにおぶわれて運ばれたヴェルトを、また住人達が囲む騒動が軽く起きる。

ロランなどは、


「情けねぇな!5人ぐらいノシちまえよ!」


等とのたまったが、その表情には安堵感も視えた。

殴られた事も殴った経験も無いヴェルトに、5人の男達を倒す能力などはあるわけも無く、ただアンジュを庇う事しか出来なかったが、クロトにはそんな姿もソルと重ねて視えてしまう。


「ほら、散れ散れ!怪我人だぞ!ちったぁ休ませろ!」


ヘリオスの力も借りてヴェルトをベッドへ運ぶと、クロトは頭を下げた。


「ヴェルト。アイツを守ってくれて、ありがとうよ」

「…守れてない…アンジュは怪我した…すまない」

「ありゃ、強気過ぎるアイツのせいだ。お前は良くやってくれたよ」


クロトはそれだけ告げると、ヴェルトを休ませる為に部屋を後にする。

廊下には、水差しとコップの乗ったトレイを持ったアンジュが立っていた。


「…解ってんな。ちゃんとアイツの世話してやれ」


それがクロトの叱咤であり、ヴェルトへの感謝と娘の無事がない混ぜになった言葉であることを、彼女は理解して頷いた。

クロトと入れ替えに入室すると、机に水差しセットを置いて椅子をベッドの横に移動させて座した。


「…アンジュ…痛いか?」


胸に込み上げた何かをグッと押さえ込んで、左頬を隠すように手を当てた。


「こんなの…。ヴェルトに比べたら全然……ごめんなさい」

「謝らなくていい」

「でも!…あたしが噛みつかなければ…」

「アンジュは正しい事をした。…強い気持ちだ」


アンジュは己の思慮の無さに恥ずかしく、情けなさを感じて自分に辟易してしまう。

その思いが、彼にも伝わったようだ。


「…それは、アンジュらしくない」

「…あたしらしい…」

「いつも元気で、笑顔で、ありのままで真っ直ぐだ。…俺は、いつものアンジュがいい」


アンジュは大きく息を吐いて、下を向いたと思ったら今度は勢い良く顔を上げた。


「そうね!こんなの、あたしらしくない!…ヴェルト、守ってくれてありがとう!」


ニコッと口角を上げると、打たれた頬に刺激を受けた。


「アタッ!……ヘヘッ、やっぱちょっと痛い」

「俺も、ちょっと痛い」


ヴェルトはフッと確かに笑った。


「笑った…ヴェルトが笑った!」


彼自身は意識して無かったので、あまりに驚いた様子のアンジュに胸がむず痒くなる。


「……変か?」


アンジュは針を心臓に刺されたような差し込みを感じたが、それを必死に抑えようとした。


「全然!いつも笑ってれば良いのに!きっと女性客に大人気になるわ!」


嘘を言ったと解った。胸のざわつきが、それは嘘だと言っていたのだ。

ヴェルトがまた笑うので、静かに笑顔を交わしたが、胸にかかったかすみを払う事は出来なかった。


翌日は、骨折当日よりも痛みが酷く熱も上がったので、ヴェルトは起き上がるどころか寝返りを打つこともままならず、仰向けに寝たきりだった。

それも、3日も経つと漸く多少の動作が可能になり、7日後にルーが往診に来て、風呂の許可が出た時はヴェルトを非常に喜ばせた。

実は、彼の中で読書の次に入浴がマイブームになっていた。

アンジュは既にヴェルトの生い立ちについてクロトとヘリオスに話していたが、2人共ルーと同じ見解を示して、その前後で彼への態度を変えることは無かった。


事件から20日もすると、患部を押さえれば痛んだが、日常生活に不自由しなくなった。

皿洗いはまだ無理だったが、芋の皮剥きならと手伝いを望む。


「まだ早いんじゃない?骨がくっついた所だって先生も言ってたじゃない」

「働かざる者食うべからず」

「あ、あれは!人のお金を当てにしてるアイツらが許せなくて!…ヴェルトはいいの!」


アンジュは甲斐甲斐しく世話をしていたが、その間の会話がどこかくすぐったいようで、でも居心地良くもあった事をお互いに感じていた。

コルタナやロラン等、顔馴染みが一日と置かずに見舞いと称して寝室で世間話をしに来るので、ヴェルトも徐々にカタコトから滑らかな口調に変化していったのだった。



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