プロローグ
そこはいつも暗かった。
そこの光源は3m程上にある20cm四方の穴が1つだけだった。
鉄の扉の右下が空き、乱雑に置かれたトレイにはコップ1杯の水と固いパン、白湯のようなスープには小刻みにされた野菜が少し。
それでも日に3度の時間を測ることの出来る、また外との接触が可能な時だった。
しかし、会話をすることは禁じられている。
貧しいテーブルと椅子が一脚。ベッドの他には大量の本がある部屋。
男は本を閉じて椅子から立ち上がると、ゆっくりとトレイを受け取って時間をかけて食事する。
腹は減っていたが、がっつくことは出来ない。
その男の顔には、鉄でできた仮面が付けられていた。
目と口が辛うじて開けることができるだけの、頭をすっぽりと覆い、後頭部には鍵までつけられている。
慣れた手つきでスプーンを鉄の隙間に差し入れ、胃に流し込む。
男は自分の境遇が理解出来なかった。
生まれた時の記憶はないが、物心ついた時からこの部屋に居て、幼い頃には目の不自由な老人が字の読み方や数の数え方を教えに来てくれたが今はそれも無い。
恐らく死んでしまったのだろう。
その頃から本が差し入れられるようになった。
ある日、突然鉄の仮面が彼の頭部を覆う。
そして、会話も出来なくなった。
門番は彼が声をかけても一言も返事をすることが無く、その内男は喋ることを辞めた。
鉄の仮面に鉄の門扉。石畳の床と壁に、小さな穴が彼の世界だった。
唯一の救いが多くの書物だ。伝記や小説、歴史等それが男の知識だ。
もうすぐ日が暮れるが、この部屋に燭台は無い。
(今日はこれまでか)
以前は定期的に書物が届けられたのに、ここ最近は全く差し入れられない。
男の1日が終わろうとしていた。




