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異界の野球 夏の思い出

作者: Hetero

高度経済成長期が終わらなかったもう一つの未来の日本

都会には集合団地が所狭しと林立し、

昭和のまま平成までその香りを残したまま

町が街に成長しきったようだった。

千葉の成田と大阪桐蔭の夏の甲子園の試合のある日に、

そんな団地の中にあるちっぽけな野球場で少年野球の試合も行われていた。

チームの名前は「ユリゴン」と「リーブル21」、観客は父兄がちらほらと居るだけ。

猛烈に盛り上がってるのは少年達だけだった。

九回の裏で先攻のユリゴンは三点、後攻のリーブルは二点。

二死ツーストライクスリーボール一塁残留の状態になったとき。

ユリゴンのピッチャーの少年が渾身のストレートで最後の一球の勝負に出た!


僕は

〝その瞬間に間に合って〟

次に返された痛烈なピッチャー返しを

ピッチャーの少年と僕とで

〝一緒に止めて〟

二塁に送球しタッチアウトとなった。

試合終了! ユリゴンの勝利!


ホームベースに少年も父兄も皆が駆けよって、ぐちゃぐちゃになって讃え合う。

喜び合う少年たちの輪の外で僕は彼女と二人、手を取り合った。

「そんな、あなた――」

彼女には僕の姿は〝見えていた〟ようだ。

僕も彼女もすぐに泣き出してしまい顔はぐずぐずだった。

〝約束が守れたから〟と泣いていた。

「今日だけ、神様が許可をくれて、帰って来れたんだよ。」

嗚咽まみれの声で何とかそれを彼女に伝えると

「うん、ありがとう。あなた――」

強く互いの手を握り締めると、僕は次の瞬間には光になって此方の世界に引き戻された。

彼女に

『強く生きて』とも、

『忘れてくれ』とも、

言えなかったが

それは伝わった気がした。

何より成長した息子の姿が見られて、

その初勝利を最も間近で見ることが出来て満足だった。


そう、これはこの魂の別の世界の別の未来に生まれたものが

死んだのに約束を忘れられずその瞬間に助けに行けたお話。

これもまた彼の身体に刻まれた魂の記録の一部であるとして。

神が異世界の移動を許可するのに求むる対価を彼は支払ってしまったのか、

あるいは支払ったのは他の誰か、彼女の未来が変わるのか、

変わらないのは彼の未来か、あるいは変わったのが彼の未来だったら――


≪執筆後記≫

状況説明が難しいのでこの作品の背景を掘り下げて説明しますと。

彼。彼女。彼らの息子はこちらの世界(この世界)ではもう死んでしまっています。

パラレルワールド(昭和の先の未来)では彼だけが死んでしまっています。

此方の世界で亡くなった彼の意思がパラレルワールドのその瞬間に立ち逢えるというお話を

書きたかったわけです。伝わったかなぁ~語彙力が欲しい。

夏場に書いたのでね、これもまた違った雰囲気の短篇の「異世界転生」ホラーものとして捉えていただきたいです。

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