2.フィンランディア_2
2-2.
「ごめんなさい、急に変なことを言い出して。……とりあえず、ここがタチノカワという街ですわ。私の用事もありますが…何から致しましょう?」
そうだ。偶然リリアのなんとも形容し難い一面を見てしまってすっかり抜けていた。
思うにいくら服を着替えたとはいえシャワーくらいは浴びた方がいいんじゃないだろうか。用事があるならなおさら。
そもそもシャワーってあるんだろうか…。
「着替えは手に入ったけど、お風呂とか。体は温めた方がいいんじゃない?」
「確かに。一度さっぱりはしたいですわ。……となると、中心街に行きましょうか。私がお会いしたい方もそこにいますし。」
「それって?もしかしてさっきいってた竜宮寺っていう家の人に会いに?」
「えぇ。この中心街を囲むように貧民達が暮らす居住区が広がっている事態はなんとしても改善していただかなくてはなりませんし。少しお願いをしに行くだけですから。大丈夫ですよ。」
入口の門のところで立ち止まっていた俺たちだったが、二人で街を歩き始めた。リリアの具体的な目的はよくわかったが、大丈夫なのか?
言うほど簡単なことじゃなさそうだけど、本人がとりあえず行くって言ってるんだからついていくしかない。
リリアが何か俺に話してない身の上があることは確かだし。
でもそれはこっちの世界に住んでいる人間なら秘密でもなんでもなさそうっていうのは源二さんの態度を見ているとわかる。
だからそんな偉い人のところに行けるくらい実はすごい人なのかもしれないし、まだ知りたいことは多いからもう少し様子をみてみることにする。
「でも中心街ってどういう意味?」
街を歩いているのだから当然住人ともすれ違う。道ばたに出て作業をしているような住民達がこちらをジロジロ見てきたり、反対にこちらに気付かず黙々となにかを作っている住民もいた。
リリアは特にそれを気にしていないようだったが、俺は正直気になる。
みんなどう考えても細身だし、女の人だと折れてしまいそうなほどにやせ細っている人もいる。
「中心街とは文字通りこのタチノカワの地図上で中心の部分に位置する繁華街です。
規模は大きくなく、その入口は南北に2カ所だけ。さっきの街自体の入口の門より遙かに立派で、出入りも厳しくチェックされています。
主に服飾や娯楽を扱う店が並び、小さめの劇場などもありますよ。カフェーなども何軒かあって、本当に娯楽の充実度で言えば23区域内の一般的な繁華街にも劣らないくらいです。
そのさらに中心部に…あちらでは竜宮城と呼ぶ方も多いのですが、家を構えてこの地を治めているのが竜宮寺家。そして現在は竜宮寺昭一郎という男が家長であり領主です。
また彼のことを親しい人間はルテインと呼びます。」
なるほど。ここまで貧困はしてないだろうけど、いわゆる田舎の駅前繁華街とその周辺のような関係だということがわかった。
完全地元企業の百貨店風のものとかショッピングモールのようなものが駅前にドーンと構えていて、飲み屋とご飯屋と喫茶店と服屋がごちゃ混ぜになってる商店街が伸びているやつ。
アーケード抜けるとそこは国道や県道とかが走ってるんだけど、それを渡ってしまうともう住宅街が広がってる系の場所。しかもその商店街から離れるにつれてどんどん住宅街自体のマンションやアパートの建物の高さが低くなっていく感覚。
別に特定の場所を非難したいとかそういうことじゃないんだけど、シティーボーイ&ガールな皆様にはちょっと伝わりづらかったかもしれない。
逆にこの感覚をよくわかってくださる方、きっと楽しくコーヒーが飲めそう。
「そうなのか。じゃあ例えば銭湯…っていって通じるのかな。大衆風呂みたいな…。そういうのがあるのはやっぱりその中心街なんだ?」
「えぇ。ニュアンスは伝わっておりますよ。せっかくのお心遣いですから。涼介様も一緒に入りましょう?」
「へ!?」
「どうしたのですか?」
「いや……うん…わかった…。」
返事をしながら努めて顔が赤くなるとかニヤけるとかしないようにしていたが真実は神のみぞ知る。
早くその中心街とやらにつくことを願って、俺はなぜか右手と右足が同時に出るようなぎくしゃくとした歩き方に変わってしまった。
健全な男子高校生だからな、仕方ないだろ。
淡い期待を持ちながら俺は足取り軽く歩くリリアについていった。