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1.乾杯の歌_5

1ー5.


「さっき炭坑っていってましたけど…、主力の動力源は石炭なんですか?」


「はい、23区域以外の方はみなさん電気で動く路面電車に乗られたり、石油式のランプや、ガス灯がある街もあるそうです。

カイトウはそういった生活をしている人々が多くいますから、炭坑はやはり産業として大事にされているのでは?」


「じゃあ…リリアさんの生活は違うんですね。」


「そうですわね……23区域の生活は他のところとは違いますからね。でも郷に入りては郷に従え、というやつですわ!」


 リリアさんがイマイチなにを言っているのかよくわからなかったけれど、とにかくリリアさんの生活が上流階級であることは間違いないらしい。


それにしてもガス灯に石油式ランプって…明治時代みたいなものだ。

ガス灯って当時はかなりの繁華街に限定してあったはずだし、そういった意味ではリリアさんが住んでいるところはよほどの特別区なんだろう。


俺はリリアさんにこの国のもう少し根本的なところについて聞いてみることにした。


「さっき陛下がどうって言ってましたけど…。この国って、王政なんですか?」


「まぁ…。涼介様はいったいどこからいらしたのですか…?……陛下とは天皇陛下のことですわ。皇華院と般華院はそれで言うなら議会です。

皇華院で審議をしてから、般華院で審議。ここで決議の内容が異なったり、賛成だったものが反対されるようであれば再度皇華院で審議をします。

そこでの皇華院の決議が、政策の最終的な決議になりますわ。陛下はその家系と血筋を代々継いでおられるお方です。

素晴らしい才能に満ちあふれた、本当に尊敬に値するお方なんですよ。」


 なるほど、俺が住んでた日本と大差はないらしい。天皇に対しての個人の感情は何かと色々あるので俺は黙っとく。リリアさんは尊敬をしているらしい。


繰り返すが俺はノーコメントで。


「……ありがとうございます。大体この国のこととか、街のこととか、なんとなくわかってきました。また何かあったら教えてください。」


「もちろんですわ!なんでも私に聞いてくださいね。」


「…それと……気になってたんですけど、リリアさんって何歳なんですか…?」


 嬉しそうに話していたリリアさんの顔がきょとんとした。大きくてまつげの長い瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返して言葉の意味を頭の中で反芻しているようにみえた。


「私は、17歳、ですけれど…。」


「えっ!?」


 17歳と言えば俺と同い年だ。

俺と同い年なのに、こんなにしっかりしてて気品に溢れていて大人の立ち振る舞いっていう感じのものができるものなんだ…、と勝手にショックを受ける。


クラスにもしっかりしてる委員長タイプみたいな優等生はいたけれど、ここまで優しさを振りまいてくれつつも自分っていうものを持っているのに、どこかドジってて抜けてるところもあるタイプ……。


まずいないだろうし、そんな人間が存在すると思っていなかった。


「ど、どうしたのですか…?」


「いや……俺と同い年なんだ…ってびっくりしてしまって。」


「まぁ!涼介様も17歳なのですね!なんだかすごく親近感が沸いてきました!もっともっと仲良くなれる気がします!」


 不安げな表情だったのに、俺の年齢を告げるとすぐに元の優しそうな可愛い笑顔に戻った。


きっと俺よりもすごい学校に通っていたりして、俺よりも友達とか人望とか、なんか全部が上回ってる感じなんだってことは想像に難くない。


それでも俺自身リリアさんに親近感が沸いたことは同じだし、これが吊り橋効果ってやつなんだろうか。


なんだかさっきまでよりもリリアさんが可愛く見えてきた気がした。


「あの……!」


「おーい!タチノカワが見えてきたぞー!降りる準備をしとけやー!」


「あら!もうそんなところまできましたのね!」


 俺こそもっと仲良くなりたいです、なんて早まったことを口走りそうになっていた自分の顔が思わず赤くなるのを感じた。


源二さんグッジョブ。俺は踏む必要のない地雷を踏み抜きかけていたのだ。


冷静になれ、流されたらだめだ…。


 源二さんの座っている方まで向かって外の様子を眺めにいったリリアさんを後ろからボーッと見ていたら急に彼女が振り返った。


「涼介様、本当にありがとうございます。私一人ではここまで来るのは無理でしたわ。……ここまで連れてきていただけたのも何かの縁です。このまま私と一緒にタチノカワを回るのをお願いしたいんですが…いかがですか?」


「え?いや…俺で良いなら…。」


「いえいえ、涼介様がいいのです!」


 そういって今までにないくらいの最高の可愛らしい笑顔で俺に笑いかけた後、こちらに近づいてきた。相変わらず人に近づくときにずんずんと勢いをつけて近づいて来る人だなぁと思っていたら、突然手を取られた。


「へ?」


「握手ですわ。よろしくお願いいたしま……あら?」


 ニコニコ顔で俺に握手をしようとしたリリアさんは、俺の手の甲を見て固まっていた。そういえばその手の甲には茜さんから押しつけられた禍々しいペイントがあったことをすっかり忘れていた。あのインクって水性なんだろうか…。うまいこと今は言い逃れて、後で消しておかないと…。変な意味でも込められていたらとても困る。


「これは……。涼介様は……本当に一体どちらからいらしたのですか…?」


「そ、そんなに変なものですかね。気付いたら手の甲にかいてあったんですけど。」


 間違ってない。間違ってないぞ。気付いたらマシンガントークされながら無理矢理描かれていたんだ。


「そうなのですか……。タチノカワの用件が済んだら、私と一緒に23区域にいきましょう。きっと私の父ならば、涼介様がどちらからいらしたのかわかるかもしれません。涼介様の為にも、一緒に行きましょう。」


何か可哀想なものをみるような、同情のようなまなざしを向けられたことに心が抉られたが…。


もし本当にリリアさんの父親が何か有力な情報を話してくれるなら、俺がなぜ茜さんによって無理矢理この場所に落っことされたのかがわかるかもしれない。


心配そうな顔をしていたリリアさんも、俺が頷いたことに満足したのか再び満面の笑みに変わって一人でささっと荷台から降りてしまった。


俺も荷物を手に取り、源二さんに礼を言ってからリリアさんを小走りで追いかけた。



 そんなリリアさんは俺が思っているよりも割とぶっ飛んだ人だったことを知るのはもう少し先の話である。


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