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1.乾杯の歌_3


1ー3.

「よかったですわね、運良く拾っていただけて!」


 小川沿いののどかな草原の中で俺とリリアさんは通りかかった行商人の馬車に拾ってもらえた。


広いとは言えないが屋根のある荷台に乗せてもらい、他の積み荷の間に入るようにして座っていた。


ニコニコと楽しそうな笑顔でこちらに笑いかけるリリアさんは先ほどまでの綺麗だけどずぶ濡れだったドレスとは打って変わって薄手で白い半袖のタートルネック、下に焦げ茶で長袖のインナーを着ていた。


ズボンは何といったらいいんだろう、カーゴパンツってやつだろうか。

とにかく簡単に言うなれば作業着のような格好に変わっていた。


おろしていた髪の毛も唐突にどこからか取り出した髪ゴム(『女性は皆見えないところにこういったものを隠し持っているのですよ。』と苦笑しながら言われた)でいわゆるポニーテールにまとめられている。


正直、リリアさんのうなじを初めて見たときに俺は心なしかそわそわとしてしまった。


当の本人は全く気付いておらず、挙動不審な俺のことを見て不要なくらいに近づき、俺の頬に手を添えてまで心配してくれた。


思わず何かを言わねばと思い、言葉になってない何かが口から飛び出していたがリリアさんは不思議そうに首を傾げただけでそのまま荷台に乗り込んでしまった。


 まったく茜さんのときからそうだが、現時点で俺の感想としてを一言でまとめておくとしよう。



『異世界、最高。』ってやつだ。



 ……そういえば、茜さんは明らかに年上だからいいけれど、リリアさんって何歳なんだろう。


年が同じだったり、万が一にも下だったりしたら、リリアって呼ばせてもらえたりするんだろうか。いやそれは気が早いのか…。


そしてこういう思考のぶっ飛び方が俺がこじらせていると言われる要因の一つなんだろう、自覚はあるさ。


でも誰だって浮かれて考えたりしないか?


問題になるのは、それを実行して地雷を踏み抜くかどうかだ。


俺はそんな軽率なことはしない、あくまで距離感は変わりなく、慎重に。



……あぁ、こじらせてるさ、悪かったな!



「涼介様?どうされたのですか?馬車に乗る少し前から様子が変ですわ…?」


 その澄んだ青の瞳が俺をのぞき込むように視界に入ってくるまで俺はリリアさんの呼びかけに気付かなかった。


急に近づいてきた顔に驚いて後ずされば後ろに積んであった積み荷に思いっきりぶつかり、上から籠が落ちてくる始末だ。



しかも頭頂部にクリーンヒット。そりゃないって。



「おら坊主!積み荷は大事にしてもらわねーと困るぞォ!」


「す、すいません!」


「ったくよ〜、大人しくしといてくれって!」


 荷台の先から野太い男性の声が飛んできた。

俺たちが川べりで途方に暮れていた時に通りかかった神のようなお方だ。


短く切りそろえられた角刈りに大きな体、鍛えられた筋肉。日焼けした肌に白のタンクトップがとてもよく似合う働く男そのものだった。



 川べりから声を上げて馬車を止め、俺がリリアさんを後ろに隠しながらも状況を説明してなんとか乗せてもらえないか頼んでいた。


話がうまく行かず、男性が難色を示してきたのでついに人生初の肉体労働での奉仕も視野か…と諦めかける。


と、その時突然リリアさんがポン!と手を叩いて自ら男性の前に歩み出て自分のドレスと別の洋服との交換を希望した。



当然俺も男性もポカン。



いくら濡れているとはいえどうみても高価そうなドレス。

それと交換といっても満足に手打ち出来るようなものがこの馬車に乗っているとは申し訳ないが到底思えなかった。


しかし男性がリリアさんをしばし見つめたあと、何かを見つけたのか目を見開いて本当に交換でいいのかとしつこく聞いてきた。


後で服を回収しにきたりしないか、それと何か色々言っていたがとにかくリリアさんは全部否定。

それでもイマイチ信用しきれない何かがあるのかどこか渋っていた男性と、寒くて凍えるリリアさんの間に入ることでなんとか話を納めた。


男性はリリアさんに簡単なものでいいから乾いた服を。

俺も学校の制服のままだったので似たような服を希望し、今はリリアさんと同じような作業着ルックだ。


それとこの辺りの地図と、少なくとも制服をしまうリュックサック。

商売に影響のない範囲での現地通貨をいくらか。


ナイフなどの基本的なサバイバル用品も追加し、この辺りでやっと男性は手を打ってくれた。


というかリリアさんの何かに怯えて話を早くつけたがっていたようだった。


これ幸いと、今一度交換品を俺が確認し、同意を得たところで男性と握手を交わしたときに先ほどのリリアさんと同じように男性の焦げ茶の瞳が一瞬だけオレンジに変わった。


この世界の人々の特性のようなものなのだろうか。

頭に?マークが浮かんでいたが、特に気にすることもなく俺たち二人は順番に着替えた。


そして荷台に乗せてもらい、今に至るわけである。



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@kuma_no_yuki

熊野夕樹

どうでもいい日常つぶやきもちょこちょこ挟まってくる予定です。


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