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1.乾杯の歌_2

1-2.


「なんか…すいません……。」


 俺が謝る必要とかたぶん全くないんだけど、状況が状況だしなんとなく謝罪の言葉が口をついて出てしまった。


岸に上げてすぐに座り込んでしまった女性を改めてまじまじと見てみる。


茜さんよりやや大きめだが、やはり暴力的な主張とはいい難い大きさの上半身から始まり、濡れた服がまとわりついているせいで魅力的に強調されている腰から下半身のライン。


そして裾から覗く白い細目の脚を含め色々と目のやり場に困るとても素敵でナイスな感じのお体をされているようだった。


ってそんなところを見ている場合ではない。



俺が目を泳がせている様子に女性も気付いたらしく、恥ずかしそうに腕を胸の前でクロスさせて隠したいという意志を示してくれた。


「当然ですけど、着替えとか…ないんですよね。」


「あいにくそういったものは持ち合わせておりませ……くしゅっ!

事故とはいえこんな姿を出会って早々の方に見られてしまうなんて、私帰ってからどう言い訳したものかと思いますわ……。今から憂鬱です……ひっ、しゅん!!」


 隠す様子をみて慌てて顔ごとそらした俺は、照れ隠しのように頭を軽く掻きながら声をかけた。


女性もこちらにやや背を向けるような態勢に変わり、なんともいえないものすごく複雑な空気が二人の間に流れる。


「……とりあえず、えーっと…まぁ服とか、家まで送るとか…そういうのはなんとかするんで……。俺のこと……助けてもらえないですか?」


 正直この女性が岸からこちらに歩いてきた時点でかなり困惑していたが、こうやって川に転んだ上にあの世に俺を連れていくでもなく、家に帰りたいとすら言う。


見た目の豪華さからも恐らく身分の高い人のようだし、なによりこの状況がもう夢だとかなんだとかっていうある種の希望でもあった選択肢を捨てさせようとする。


やはり茜さんが言っていた、俺がいた世界とは別の世界なんだという信じ難い可能性が濃厚になってきた。


この女性から話を聞くとして、まず何よりも女性なのだから家まで送るとかそういった男性らしい行動はせめて異世界……と呼ぶので合っているのだろうか、まぁいい。


元の世界ではする機会もなにもなかったのだから、せめて異世界ではそういった男性らしい行動もしてみるべきだ、と思い女性に提案をさせてもらった。


「えぇ、私もお洋服と……家とは言いません。もともと行きたい場所があったのですが、そこまで連れて行ってくだされば、それで結構ですわ。

それをしていただけるのなら、あなたのことをお助けしましょう。」


 やはり格好が恥ずかしいのだろう、少し顔を赤く染めた女性がこちらを見上げたとき、一瞬だけ女性の澄んだ青い目の色が夕焼けのようなオレンジ色に変わったような気がした。


と、同時に何故かそれまで一度も吹かなかったつむじ風のような強風が一瞬だけ吹き、体が少しよろけてしまった。



「っ…!くしゅっ、ずずっ……。とにかくここを急いで立ち去りましょう、凍えてしまいますわ。

………あなた、お名前は?それ一体どこからいらしたの?ずっと誰も来なくて待ってましたの。そしたら急にあなたが現れるからびっくりしてしまって…。」


「俺は、吉村涼介といいます。……俺は…信じられないかもしれませんが、気付いたらあそこにいました。あそこに立つまでの記憶は、正直…曖昧です。あなたは?」


 自分でも何をいってるんだろうと思うし、相手の疑問は至極当然なものだ。

これで怪しまれたら終わりだけど、少しズレてるお嬢様のようだしなんとか通用することを願うしかない。


「そうなのですか…。私は………リリアと申します。この日ノ本帝国の首都、東都の23区域内に住んでおります。

同じく東都の『タチノカワ』という郊外の区域を目指しておりました。……涼介様、色々と至らないところもありますがよろしくお願いいたしますね。」


 って案外あっさり通じちゃったよ!


いいのか?


………いいんだろうなぁ…。



聞き慣れないようで似た地名を聞いたことがあるような気がしたが、とにかく今はこの女性…リリアさんに乾いた衣服を着せてタチなんとかってところまで連れて行く目処を立てるのが先だ。


その道中でこの国、世界のことを聞けばいいと思った。



「しばらく恥ずかしいかもしれませんが、なんとかする方法を考えるので俺の2、3歩後ろを歩いていただいて、後ろから道案内をしていただいていいですか?」



「……道案内…?」



 急に間の抜けたような声を出したリリアさんをまさかと思い勢いよく見つめてみたが、当の彼女もきょとんとした顔をしてこちらを見ていた。



「ごめんなさい…私…迷子なんですの。」



 正直聞こえないふりをしたかったし、認めたくなかった。

だけど本人がそういってるんだから仕方ない。認めることにしよう。



これが若さゆえのなんとやら……あぁ…本当に認めたくないものなんだな……。


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