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1.乾杯の歌_1

1-1.

 俺は真っ暗な闇の中をひたすら落ちていった。


もっとふんわりと落ちてくれたり、なにか途中にメルヘンなものが見えれば不思議の国の誰かさんのような経験になったかもしれないが、いかんせん猛スピードでただ落下していくだけだった。


こういった落下していくだけの夢というのはよくある話だし、やっぱり夢だったんだと諦めもつく。


(それで俺はこの後何か地面にでも叩きつけられて死ぬのかなぁ…。)


 正直夢であっても自分が死ぬ感触も光景も見たくはない。

そうなる前に醒めてくれることを願うしかない。


そうこうしているうちに遙か下の方に明るくぽっかり空いている場所が有ることに気づいた。


(もしかして今からあそこに叩きつけられるのか?)


 そう認識してしまったが最後。

急に恐怖が襲いかかり逃げ出したくなるも、ここは真っ暗闇で自分は垂直落下を続けている。


どうしようもない。

絶望にくれている中でもその穴のようなものはどんどんと近づいてくる。


ついに足がその穴から出ようかというところで急に落下の速度が減速した。


(……!!)


 今までもそうやって落ちてくれればいいのに、急にふんわりとした落下になり緑の芝生の上に尻餅をつく形で着地した。


呆然としている俺の頬を撫でる風は生暖かい。春の陽気そのものだ。


随分な勢いで垂直落下したせいで髪の毛は逆立ってぼさぼさになっているのではないかと、何故か最初にそこが気になって髪を触ってみたがそんな状態にはなっておらず、まるで俺がここで昼寝をしていて急に起きあがったかのようになっている。


段々と冷静になってきて辺りを見渡す余裕も出てきた。


 俺が尻餅をついているのは芝生の上だというのは先述の通りだが、すぐそばにのどかな小川が流れており、芝生の間には様々な色の花がところどころで咲いているのが見える。本当にのどかな川べりだった。


俺の平凡な脳みそでも、こんなおとぎ話の世界のようなものが夢で描ける程度にはまだ少年の心があったということだ。


 とにかく茜さんが言っていたことが現実であろうと、夢の話であろうと、ここでずっと座り込んでいるわけにはいかない。

きっと本当はそんなことないんだろうけれど、俺は何故かそう思った。


茜さんに最後に言われた交渉がなんとかというセリフのせいなのかもしれない。俺にはこの夢のような世界で何かやることがあるような気がしてきた。


よくオカルト話で綺麗な小川の向こうから思い出の人やあこがれの人が呼んでいて、その川を渡ろうとするが渡ってしまったが最後、なので自分がいた岸側から身近な人物が必死に止めてくれて思いとどまり、現世に帰れるなんてのがある。


むしろ夢ですらなく、そういう類なのかもしれない。


そう考えたらなんとなく納得がいった。

ちょうど目の前にこれでもかと綺麗な小川があるし。


ということはやはり自分はメッセージの開封と同時に何者かに襲われたことになるんだろうなぁ。


「とにかくこの小川を対岸まで渡らなければいいはずなんだけれど、そのためにこっち側に居続けてどうにか話が進むような感じでもないし…。

半分くらい進むと後ろから呼びかけてくれるんだっけ…?正直濡れるのは勘弁して欲しいんだけど…。」


 ここで座っていてもどうしようもない。意を決して立ち上がり、律儀に靴と靴下を脱ぎゆっくりと小川に入る。

ひんやりとした水が足首を嫌な感じに冷やしてくるので、正直身震いすらしてしまうほどだ。


こんな思いを死ぬ間際か何かにまでしないといけないなんて、俺は何か罪でも犯しただろうか。


「……ん?」


 なるべく足元を見ないように、前を見据えてゆっくり進んでいると対岸に人影が見えた。なるほど、俺をあの世に呼ぶのはあの人なわけだ。


見たところ女性のようだけれど、思い当たる女性もいない。

もしかしたら最近お気に入りのあのアイドルかもしれないな…。


妄想の姿でしかないけれど、どうせなら手くらいなら触れても良いかもしれないし、お願いしてみようと思う。


「あら……あなた…。」


 バシャバシャと音を立てながら近づいたからだろうか、その女性はこちらに気付いて振り返った。


遠目から見ても太陽の光がキラキラと反射しているほどに艶やかなブロンドのロングヘアが揺れた。

振り返って俺と目があったその後も穏やかな風に乗ってふんわりと広がり、女性は顔の周りに流れてきた髪の毛を自分の右耳にすくってかけた。


俺が普段住んでいるのは一般的な日本の郊外の街だ。

ブロンドヘアーの女性などたまに学校にくるネイティブの英語教師くらいしかいない。


その教師はいわゆるキッチリとした女性でとてもお近づきになれるような親近感は持てないのだが、目の前の女性は気品有るオーラを纏いながらもトゲのようなものは一切感じず、穏やかな微笑みを崩さないまま俺に話しかけてきた。


「そんなところでなにをなさっているのですか?まだちょっと水浴びをされるには涼しい季節かなぁと思いますが…。

でもよかった、ずっとどなたかが来られるのを待っていたんですの。さぁ、とりあえずその川からお上がりになって。」


 で、出た!これがあの世へ連れて行く俺への誘い文句なのか!

ちょっと文句として弱い気もするけれど、そういったことをカバーできるぐらいには女性が麗しく、ふらふらと対岸へ渡ってしまいそうだ。


俺以外の人もあの世へ連れて行く役割を担っているのか、誰かが来るのを待っていたというが悲しくもここで俺とこの女性はお別れだ。


「す、すいません。誘っていただいてるのは嬉しいんですが…。」


 正直どうしようもない。茜さんの時でも女性と手慣れて話すように振る舞うのが無理だったように、こんな綺麗な人に対してきつい言葉でお断りを述べるなんて無理な話だ。

言葉を濁しながら元いた岸側より思いとどめるように声をかけてくれる人の存在を待ちつつ後ずさる。


俺がゆっくり一歩ずつ後ずさっている中、女性は優雅ながらもずんずんと俺に近づいてくる。


待ってくれよ、おとなしそうな顔をしながら意外と積極的で直接的なんだな。


「どうしたのですか?そんな風にしていたら転んでしまいますよ?」


「いや、そうは言いましても……あ、いや、手とか伸ばしていただかなくても…。」


 とても女性らしい細長い白い手が俺に向かって伸びてくる。

だがここで手を取ったら終わりだ。


というかこの女性は誰なんだろう?俺の記憶には一切ないが、今現在は俺をあの世に連れて行こうとする美しすぎる悪魔というやつだ。


むしろ死神の方が正しいのか?


そうこうしているうちに女性は小川の端まであと数歩のところまで来てしまった。


「まぁ、強情な方ですわね。ほら、はや…きゃぁっ!」


「ちょっ…!」


 少し不機嫌そうに女性は眉をひそめ、さっきまでより少しだけ強めに再度手を差し出した。


 その時ちょうど小川の端についてしまった女性は履いていた白のヒールがなにか小石に当たったのかわからないが、何故か唐突にものすごい勢いでつんのめった。


女性が手をつく間も、俺が手を差し出す間もなく、その体は元の位置から90度回転した形になった。


つまり、小川の中に顔からそのままダイブしてしまったのだ。



スローモーションのようだった、それは認める。

しかしとても手を差し出して受け止めるようなそんな高度スキルは俺にはない。


「っくしゅん!」


「あっ…。」


 その様子に呆気にとられていたが、いくら陽気な天気とはいえ確かに川に入ると寒い。ましてや全身、それも服ごと。そりゃくしゃみも出るって話だよな。


女性は髪やその気品有る雰囲気にぴったりの薄ピンクのドレスを着ていて、襟刳りから胸元までは大きく空いているというよくある洋風でお姫様のような服装だった。


川から起き上がった女性に手を貸し、とりあえず俺が元いた側の岸まであがってみることにする。

解き終わったテストの見直しと同じで、書き終わった分を投稿してから見直ししたりしないタイプです。


そしたら改行少なすぎてすごい見にくかったですね。申し訳なかったです。


前の分も改行差し込んでおいたので、まだ読まれてない方は是非お時間のあるときにでも。

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