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0.プロローグ_2

正直少し顔が赤くなった自覚はある。

こんな経験正直小学生以来だし、何より言ってることはめちゃくちゃだけどこんな綺麗な人に頭を撫でてもらうなんて…。


これはやっぱり夢なんだ…という考えを裏付ける何よりのものになってしまった。


「んー、なんかみんなこうやってすると落ち着いてくれるらしくって。

あ、獣人の子達には耳の後ろあたりをこんな感じで撫でてあげるとすっごい懐いてくれるし、リラックスしてくれて可愛さ満点よ、だからおすすめ。」


 この人は天然なのか、夢だから自分にとって都合の良い素晴らしい女性として描かれているのかわからなかった。

けれど、年上の大人な女性に惹かれるクラスメートの一部の連中の気持ちが分かった気がする。


これは、いい。


もういっそ夢でもなんでもいい。


この人にこうやってしてもらって夢の中でも夢見させてもらったんだ。

相変わらず意味の分からないことも混じっているけれど、それも含めて少しくらいこの人の話を聞いてみてもいいじゃないか。


なんて思うようになってきてしまった。


「………茜さんの話はわかりました。えっと、俺はどうしたらいいんですか?」


 すると茜さんはそれまでの同情を含んだような笑顔から満面の喜びに満ちた笑顔に変わった。


その様子にびっくりして呆然とするしかない。そんなのお構いなしに、茜さんは撫でていた手を勢いよく離して、そのまま俺の手をがっちりと握って話し始めた。


「よくぞ言ってくれたわ!今の台詞そのまま契約の文言としてこれ以上ないベリーグッドな文言よ!私と涼ちゃんの自由が両方グレーゾーンで保障されてる!

いやぁあの占い師のババアのこと信じてよかった!本当に今時の男子高校生ってこういうのにあこがれてコロッといっちゃうもんなのね!

私戻ったらいっそ年下狙いにシフトしようかなぁ。大学生くらいなら普通にいけちゃうと思わない?

高校生も良いけど、未成年は危ないわよね。あぁ…でも禁断の愛ってのも憧れるわ…!

正直年下って私のこと歩く財布って思ってるから、本当にむかついてたんだけど…。私の扱い方が悪かったのね。こうしたらよかったんだわ、やっぱり男はどうて」


「茜さん!!!」


 茜さんがその先何を言おうとしたのかは想像したくもないが、きっと俺の男としてのプライドをずたずたにしてしまうようなことを言われるような気がして慌てて遮った。


たぶん遮って正解。


「え?涼ちゃんそうなの?えぇやだー!!ほんとかわいい!

やっぱ狙うならそうよね。私も女の幸せを掴めるかもってことよね!

他の女を知らないからちょっと若さがなくてもこんなもんかって納得もしてくれるはず!

若い頃は無理って思ってたけど、少し大人になるとわかってくるものね、どうて」


「茜さんってば!!!!!」


 やっぱり俺の男としての守らなければならない何かを粉々に打ち砕かれる気がしてさっきよりも大きな声で遮った。


これは話を変えなければならないと思い、俺は慌てた口調でそのまま続けた。


え、こじらせてる?言ってろ!


「茜さん、こう、何か未来に対してのいいビジョンが見えたのは俺も喜ばしいことなんですが、さっきから俺の手の甲にずっと描いてるその変な模様はなんなんですか!?」


 俺の男としての何かを砕こうとしながら、それと同時に茜さんはずっと俺の手に何かのペイントを施していた。


突然不気味な緑色のインクのようなものをどこからともなく取り出し、ガッチリと掴みながら描く様子には鬼気迫るものがあった。


それは二人の思い出よ、なんて甘い言葉ではごまかせないくらいには禍々しい模様をしており、明らかに何かまずいものなのがわかる。

というか勢いに任せて話していたが、契約がなんとかって言ってたような?


俺は何かやばい失言をしてしまったのだろうか?


「いやいやなんていうかまぁこういうの形式上は存在しないとね。向こうの人納得してくれないかなーって。

文明もある程度発達してるのに上の人の関係で魔法陣とかそういうのの信仰すごいから。

これがあるだけで涼ちゃんは少なくとも上の人たちの輪にアポを取ることが出来ると思うし。

おねーさんからの素敵なプレゼントであり、別れ際の愛の印だと思ってありがたく受け取っておいて!」


 なんだか最初に抱いた綺麗で優しい人というイメージが音を立てながら崩れていっているくらいには、茜さんは興奮した様子で俺に話していた。


正直よだれが興奮しすぎて垂れてきそうだなぁ、と思うほどに茜さんの姿は変わっていた。


「やだ、涼ちゃんったらそんなに私の顔見つめちゃって!まぁ涼ちゃんが戻ってきたときにきちんとしてくれるなら…。そう、順番とかシチュエーションとか雰囲気とか。

そういうの意識して、私のことを迎えに来るなんて展開になったら喜んじゃう気がする!

でも私が求めるシチュエーションは難しいわよ。その辺のやつじゃだめ。少女マンガとかを読みあさった方が好感が持てちゃう。

やっぱり夜景が見えるレストランがベタだけど最高よね。着飾った私のことを頭の先から爪の先まで褒めてくれて。

緊張してる私がほろ酔い程度で済むようにしっかりセーブもリードもしてくれて…。

それでデザートなんかが出てきちゃったときにそのケーキの上には」


「茜さんも、こじらせちゃってることがよくわかりました。茜さんといい酒が飲めそうです、その頃には俺はもう卒業してるつもりですけど。」


 ぴしゃりと言い放ち、呆然とした茜さんから手をふりほどいた。そしてこれ以上ない笑顔で茜さんを見てあげられた気がする。


五十歩百歩ってやつだよな。

大人げないのはお互い様だから許されるはず。


「そ、そういうことを言わないで!大体私はそんな涼ちゃんみたいにまったくないんじゃなくて、ちゃんと何回かはなんていうかその、もういい!さっさと行きなさい!」


 茜さんが自らの顔の横で両手を合わせ、パンッと軽いけれど響く音を立たせると真っ白だった空間の中で俺の足下だけが黒い丸になった。


途端に今までしっかりと地に立っている感覚があったはずなのに、それが無くなった。


体感したことのない感覚だったけれど、足下にある黒い丸は穴であり、それの上に浮いている状態なのだろうとなぜかすんなり納得することが出来てしまった。


「茜さん……?これはいったいどういう夢で……?」


 ひきつった顔で茜さんを見つめると、にんまりと笑った後で急に引き締まった真面目な顔になった。


その様子に俺も真面目に話を聞く体勢になった。

なんだか夢なのか現実なのかわからないけれど、茶化してはいけない雰囲気だとなぜか悟った。


「いい?涼ちゃん。今から渡すものはこれからの涼ちゃんに必要なものなの。

涼ちゃんの意志で使わないことは出来るけれど、決して捨てたり失くしたりはしないでね。」


 そういうと茜さんは俺に近づいて青く透き通ったプリズムがぶら下がったペンダントを俺の首にかけた。

プリズムの大きさは10cmもないくらい。触れてみると硝子のようなプラスチックのような、でもそれらのどれでもないような、不思議なものだった。


「使い方は簡単。実はそのプリズムは真ん中から下の部分が左右に少しだけ回るようになってる。

右に回せば間接交渉。まぁテレビ電話だと思って。

左に回すと直接交渉。この場所に来て私と話すことができる。

その間あっちでの涼ちゃんの時間は止まっていて、精神だけがこの場にくるような感覚だと思ってね。

私も元の世界から強制的に精神だけ呼ばれる形になるからあんまり多用して欲しくないんだけど。でもどうしても困ったときは迷わず使って欲しい。」

 首から手を離し、数歩後ろに下がった茜さんは相変わらず真面目な顔をしたまま奇妙な話をしてくれている。

でもこの地面から浮いている状況と茜さんの顔から、仮に夢かもしれなくても、いまこの説明の部分はとても大事なのだと思う。


夢だって渡り歩くのに前知識ってやつをもらえるならありがたいに越したことはない。


「それとこれから涼ちゃんが持つ能力のこと。うまく説明はできないし、してもいけないから涼ちゃんが自分で知って使いこなしていくことになる。

ただ、定型文として言わなければならないことがあるから言うね。」


 覚悟を決めたような表情を見せた茜さんを前に、俺の顔もより引き締まるのを感じた。


この後とんでもないことに巻き込まれるような予感がして、そして俺の意志が多大な影響力を持つことになるのではないかと何故か悟っていた。


うまく理由はいえないけれど。


だから茜さんの次の言葉を待った。


「君には今、意志を持つ万物に対して交渉を行うことが出来る権限がある。

この権限は揺らがないが、相手には交渉を決裂させる権利も当然ある。

君が何を払い、何を求め、何を頼って交渉するも自由だ。

その交渉によって得たものは契約として何事からも干渉を受けない存在となり、君を助け、そしておびやかす存在になるかもしれない。

すべては君の交渉にかかっている。君により多くの幸があらんことを。」


 今までで一番意味が分からないセリフに説明を求めようと口を開いたと同時に、視界がすべて自分より上に急上昇し、茜さんの姿は見えなくなってしまった。



……いや、俺が足下の穴に向かって急降下しているだけだった。





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